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第4話

 俺たちは今、それぞれの愛馬に跨り街道を副都に向かってのんびりと進んでいる。この副都という都市は何代か前の皇帝によって遷都が行われる以前の帝都があった都市で、旧都とか旧市街と言われる事もあるが、れっきとした帝国第二の都市である。そんな副都に何をしに行くかと言えば、冒険者のランクを上げるためだ。リットウ山から出発する時に帝都の支部長であるバルダさんから書状を渡され、それを他の支部の支部長に見せれば俺たち二人のランクをCランクまで一気に上げてもらえると伝えられた。だから、あの場所から一番近い冒険者ギルド支部がある副都に向かうことにした。


「アスラン君、そろそろ急いだほうがいいかもしれません。このままのペースで言ったら副都に到着する前に日が落ちて門が締まってしまいます」

「そうだな。少しゆっくり過ぎたか。とばすぞクロ!」


マリアの指摘と愛馬たちの健脚のおかげで何とか日が落ちる前に検問待ちの列に並ぶことができた。さすが第二の都市というべきか、様々な商会の馬車が見受けられ、中には一人で何台もの馬車を率いている豪商もいた。門も広く門番をしている兵の数も多いのでどんどん列は消化され、すぐに俺たちの番になった。


「次の二人組、馬から降りて身分証を見せろ」

「これでいいか?二人とも冒険者だ」


あらかじめ用意しておいたギルドカードを見せる。


「あぁ、問題ない。滞在理由はランクアップの為か?」

「そうだが何故分かった?」

「帝都方面からくる低ランク冒険者は殆どが同じ理由だからな。実力のある奴はすぐに上げて去っていくが、ない奴はいくらやっても上がらないからな。あんたらも冒険者なら前者を目指して頑張れや。それとだ、道幅は広いが街中では馬から降りて行動してくれ。他の通行人の邪魔になるからな。出来れば早く宿に預けることだ」

「わかった。そうさせてもらう」


門からのびるメインストリートは本当に道幅が広かった。四頭立ての大きな馬車が余裕をもってすれ違えるほどである。帝国各地から人が集まるからか、ほとんどの宿で馬車や馬を預けることができるらしいので、クロとシロの二頭を預かってくれる宿はすぐに見つかった。そこの宿で一人部屋二つをとりあえず一泊借りることにしてギルドに向かった。

 宿からギルドへ向かう道中、道端の屋台から漂ってくる肉を焼く香ばしい匂いや、威勢のいい売り子の言葉に誘われそうになったが、ひとまずギルドを目指す。食事はそのあとだ。副都のギルドは中に酒場が併設されているらしく、一仕事を終えた冒険者たちがそれぞれのパーティーで卓を囲み、馬鹿話に花を咲かせていた。ただ用があるのは酒場の方ではないので、空いていた受付嬢に帝都の支部長から書状を預かって、ここの支部長に直接渡すように言われていることを伝えると血相を変えて飛び出していったと思ったら、息を切らして駆け足で戻ってきた。


「支部長がお会いになるそうなのでご案内します」


全力疾走で取次に行ってくれていたみたいだ。支部長室があるのは三階のようで、この受付嬢よくこの距離をあの短時間で往復できたなと感心しているうちに支部長室に通された。そこにいたのは皺くちゃの婆さんだった。


「あんたたちがバルダからの書状を持ってきた者たちか?」

「あぁ、これがその書状だ。」


書状を受け取った婆さんは、乱暴に紐をほどき中身を声に出して読み始めた。


「どれ。『これを持ってきた二人は此度リットウ山で起きたゴブリンの異常発生による被害を未然に防いだ立役者。たった二人で巣に赴きゴブリンキング率いる災害級に相当する群れを壊滅させた実力者じゃ。よってCランクに昇格するのが妥当と儂は思う。 帝都支部支部長バルダ』……あんたたちギルドカードも見せな。自分の目でカードの記録を見てみんと信じられん」


そう言ってひったくるようにして俺たちからカードを取っていき、そこに記されている昨日のゴブリン討伐数を見て文字通り目が点になっていた。


「なんじゃこりゃ。こんなん下手したらAランクに片足突っ込んじまってるじゃないか。それに男の方は三日前に登録したばかりのGランクだと!わかった、Cランクに上げておくよ。手続きが面倒だし、明日にまた来な。それまでに書類をまとめておかないと……」


何だかんだ言ってCランクに上げる約束をしてくれた。


「あっ、そういえば支部長さんに名前、聞けませんでしたね」

「そうだな。終始話しっぱなしでこっちが話すタイミングすら無かったからな」


ギルドを後にした俺たちは、宿までの道にある屋台の食べ歩きをしながら帰った。そのほとんどの店で売られていたのは、ホーンラビット別名、角ウサギと呼ばれ副都近辺の草原でよく狩られる魔物の肉の串焼きだった。なぜみんな同じものを売っているのに共存しているのか不思議だったので、ある店の店主に聞いたところ副都には帝国全土で生産されている香辛料や調味料が集まってくるので、それぞれの店主が自分の出身地域の味付けや気に入った味付け、独自に開発した味付けで提供しているらしい。だから客の取り合いになることはないみたいだった。宿に着くころには二人とも食べ過ぎで、歩けなくなっていた。そして部屋に入るとすぐに寝てしまった。

 翌朝、用意されていた朝食は消化の良いものばかりだったので、昨日の串焼きを食べ過ぎてしまった俺たちにはありがたかった。


「お二人さん。今ならまだ宿泊期間の延長できるけど本当に一泊だけでよかったのか?」

「あぁ、用事が済んだらすぐに副都から出ていく予定だからな。それまで馬を預かっていてもらえるか、昼前には戻って来るはずだから」

「それは構わないが、本当に昼までに戻って来いよ。じゃないと次の客の馬を預かれなくなってしまうから」


用事とはもちろんギルドでCランクに上げる手続きのことだ。そんなに時間はかからないはずだ。おかみさんに礼を言って宿の外にでると、昨晩はたくさんあった屋台が一つもなかった。ギルドに入るとすぐに昨日の受付嬢がやってきて、支部長室まで案内してくれた。


「昨日はすまないね。よくよく考えたら自己紹介すらまだだったじゃないか。今更だが私がここの支部長のメリダだ。皆からはメリダ婆と呼ばれておるよ」

「ギルドカードを見たから知っていると思うが、俺はアスラン剣士だ。」

「私は細剣使いの回復術師マリアです」

「そうかい。もうすぐCランクのギルドカードが来ると思うから茶でも飲んで待っていな。」


そう言いながらメリダ婆さんはティーカップに茶を注いでくれた。茶についての知識はそれほどないが旨い茶なのはわかった。


「その茶は私のお気に入りの一つでね。おいしい淹れ方を探すのが年を取ってから目覚めた趣味でね。ここには全土から良い物が集まってくるから日替わりで楽しんでいるのさ」


そんな風にメリダ婆さんと談笑しているうちに、さっきとは別の受付嬢がギルドカードを持ってきてくれた。


「これがお前さんたちの新しくなったギルドカードさ。支部長の権限で昇格させられるのはCランクまでだからな、そこから上のランクに上げるには地道に依頼をこなしていくしかないからな。まぁCランクになれば事後報告も認められるし、関所で金を取られることもないから不自由することはないだろう」

「わかった。質問だが、メリダ婆さんおすすめの道具屋とかはあるだろうか?帝都から副都まではすることなかったが、これから野営をしなくてはならない時があるかもしれないからな」


必ずあると思う。帝都が大国の首都だから比較的に街と街の間隔が狭いが、国境付近や辺境の地とかだと村から一番近い街に行くために一泊以上かかる筈だ。俺の旅はそういう場所に行くことが多くなると勝手に思っている。


「そうさね、そういうことならマーリンの館という名の魔導具屋をお勧めするよ。店主の婆さんと孫娘が切り盛りしている店でね。看板も出てないし営業しているのかどうかも分からない店構えだけど、初見さんお断りって事もないし品ぞろえも良いって知る人ぞ知る名店でね。この前の道を西門に向けて歩いていくと左側に見えてくるはずさ」


ギルドを後にして言われた通りに西門に向かって歩くとすぐに見つかった。多分教えてもらっていなければ素通りしてしまうレベルで存在感のない店だった。店の中は必要最低限の照明しかなく、他の客はいなかった。本当にやっているのか心配になったがほどなくして中から孫娘と婆さんがやってきて色々見繕ってもらった。中には込める魔力次第で切れ味が変化するというナイフとかいくつか掘り出し物もあった。

 買い物を終えた俺たちはすぐに宿に戻って預けていた愛馬たちを返却してもらい、すぐに副都を出て国境へと向かった。


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