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第23話

 俺たちの登場で受付嬢でさえ動かず音も出さない中、ただ一人の男が俺を発見して駆け寄ってきた。


「久しぶりだなアスラン。こんな大人数で何しに来たのだ?」

「お前こそ、店の方はどうしたのだよ」

「従業員を雇ったからな。俺は仕入れのための護衛依頼を発注しに来たんだ。大商会とかは自前で護衛を組織しているみたいだけど、俺にはそんな資金は無いからな」


この男は他でもないウィリアムその人だ。


「アスラン様、そこで立ち話をされては他の利用者の迷惑になります。奥に部屋を用意しましたのでそちらでお願いします」


本題を忘れて話し込みそうになったのを見かねて、我に返った受付嬢が俺たちを別室に案内してくれた。もちろんウィルもついて来た。あのまま別れるのもなんか悪い気がしたから。


「それでアスラン様。本日はどういったご用件でギルドにいらしたのですか?」

「この三人をパーティーに加えようと思ってな」

「それでしたらパーティーでクランを結成なさってはいかがでしょうか?この人数ですと1パーティーの上限を超えてしまいます。待遇に違いは無いので不自由は無いと思います」

「ならそれで」

「分かりました。手続きのため私は一旦退席しますので少々お待ちください」


そう言って俺たちを案内してくれた受付嬢は部屋を出て行った。


「それでアスラン。ただクラン組んで何もしないわけじゃないんだろ?」

「まぁな。フリードに行こうと思って。噂では精霊と契約できる場所があるとかないとか。それを確かめに行こうと集まったんだ」

「偶然だな。俺の仕入れ先もフリードなんだ。どうだ?片道だけで良いから護衛を頼まれてはくれないか?」

「と言う話だけどシャルはどうしたい?」

「パーティーリーダーはアスランさんなんですから、皆その決定に従いますよ」

「だな」

「えぇ」

「おいしいごはん」


皆、俺に一任か。素性をよく知っているウィルなら情報漏洩の心配は無いから安心して道中の隠れ蓑にできる。それにミーアが言うように道中の料理の心配がなくなる。


「わかった。取り敢えず片道の護衛は引き受ける。帰りはまたその時の状況次第だ」


クラン結成の手続きを終えて戻ってきた受付嬢に護衛依頼を受ける事を伝え、すぐにウィルの馬車で出発した。ちなみにクロとシロの二頭は留守番だ。


 他人から見ると護衛の冒険者が馬車の外で警戒をしていないように思われるかもしれないが、人間が外に出て警戒するよりも精度の良い索敵能力を持つミーアがいるので何の心配もない。旅は何度か魔物と遭遇したがそれ以外は何事もなく、国境も無事に越えて学会が始まる前日に大使館に到着できた。ウィルとは首都に入った時点で別れ、仕入れ先に向かった。

 流石は魔道具研究の最先端、街の至る所でその影響を感じられる。その最たるものが街灯だ。他の街では太陽が沈むのと同時に街も静かになるのだが、ここには人工の光源があるので街が一晩中起きているのだ。その他にも持ち運びはできないが肉を冷却したまま保管しておける装置なんかもあったりする。だからか夕食にジューシーな肉料理が用意されていた。


「お口に合いましたかな?」

「それはもう。数日前に仕留められた肉とは思えないほどの味ですよ」

「それは良かった。王女様を護衛してくださった方に礼の一つも出来なくては公人の名折れですから。ところであなた方は王女様が学会に出られている間は暇なんですよね?でしたら都市を案内しますが」

「大使殿自らですか?」

「いえ、私は学会の方に出なければいけませんので。案内役を別に付けますよ。何か希望とかありますか?」

「学会を見ることができると聞いていたので、そこで時間を潰そうと思っていたのですが」

「それでも良いですが、知識がないと眠くなるだけですよ。それなら最先端の魔道具を見て回った方が冒険の役に立つと思いませんか?」


そう言われるとそうだな。それに精霊との契約云々についての情報も得られるかもしれない。そう思った俺は大使殿の提案を受ける事にした。とは言え、カインとステラの二人は会場での警護があるから、案内されるのは俺とマリアとミーアとシルヴィアの四人だけだったりする。

 翌朝、学会の会場へ出発するシャル達を見送った後、俺たち四人も大使館を出た。


「それでは国内最大規模の魔道具店にいきましょう。良品からガラクタまで何でもありますので、旅の役に立つものが必ず見つかりますよ」


と言う案内役の女性に連れられて魔道具店にやって来た。そしてまず驚かされたのがその敷地の広さだ、そこだけでひとつの街と言っていいほどだ。それは複数の魔道具店が一ヶ所に集まっているからだ。普通なら自分の店の売り上げを守るためには同業者の近くで店を開くはずないのだが、ここではその状態で繁盛しているのだ。


「見てわかるとは思いますが、店によって売る魔道具のジャンルが異なるのでここでは共存出来ているのです」


要するに、冒険者、農民、主婦、飲食店、がそれぞれ求める魔道具が異なるのだから、売る方もそれに合わせて物を売れば客を取り合う必要は無くなるわけだ。


「冒険者向けの魔道具店は奥の方ですのでそちらに向かいましょう」


そうして売り場まで案内された。屋外での使用を前提に考えられていて、小型だが頑丈な物が多かった。さすが冒険者向けとして売られているだけの事はある。だがどれも無難な物ばかりでどうしても買いたい掘り出し物は無かった。それでもマリアたちはそれぞれ何か購入していたようだった。


「アスラン殿は何も買われないのですか?」

「あぁ、それよりこの街で一番情報が集まる場所はどこだ?」

「新鮮さだけを求めるならこの辺りの、ある程度正確さも求めるならこの辺りの酒場でしょうか?」


そういいながら案内役は地図で端と中央の酒場町を指した。


「ただ皆さんを案内するわけにはいかないです。こちらの方は血気盛んな荒くれ者が多く美女3人を連れて歩けば要らぬ因縁を付けられてしまいます。かといってこちらはそういうサービスを売る店が多く女性を連れ歩くわけにはいかないでしょう」

「元から俺一人で行く予定だからその心配は無いよ」


3人にはその間市井での情報収集を頼もうと思う。井戸端会議とか結構信憑鵜性が高いからな。酒場が男のネットワークだとしたら、そっちは女のネットワークだ。


 あれからしばらく魔道具を見て回り、3人と別れた俺はひとまず新鮮な情報が集まるが、噂程度のものも多く荒くれ者が多いという酒場にやって来た。まだ日が出ているというのに営業している店も多く往来では酔っ払い同士が喧嘩したりちょっとした騒ぎを起こしていたりした。そんな中、比較的料金の安い大衆向けの酒場に入ることにした。


「いらっしゃい。何にする?」

「とりあえず冷えたエールで」


注文し、そこしか空いていなかったカウンターの端に座った。するともうすでに出来上がっている隣の客に絡まれた。


「兄ちゃん、一人酒とは悲しくなるじゃねぇかよ!連れはどうした?いねぇなら一緒に呑むぞ」


と言われ運ばれてきたエールで乾杯することになった。しつこく絡んでくるのを適当に相手をしながら他の客の会話に耳を傾け、精霊に関する手掛かりになりそうなことを話していないか意識を向けた。するとそれっぽい話が結構聞こえてきた。と言うのも、ある日を境に雨乞いの成功率が10割になった祈祷師だとか、急に鍛冶の腕が上がった男だとか、水はけがよい土地を水田に変えた農家とかそういった感じのことだ。


「マスターああいう事はここら辺じゃ良くあるのか?」

「まぁ、誰も何が原因か分からねえんだがな。なのに怖がりもせずああして自慢してやがんだ」

「兄ちゃん、そういうのは大抵神様のお力さ。信仰が報われたんだよ」


隣の客はそう言っているが、あの女神が簡単に下界に干渉できるはずがない。神の力ではないだろう。やはりそれに準じるとすれば精霊の力が妥当なところだ。

 これ以上この店にいても有益な情報は入らないと判断した俺は、代金を払い店をあとにした。次に向かうのは街の中央付近にある酒場だ。


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