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第22話

 俺とマリアが屋敷に戻ってきたら、ミーアとシルヴィアが十年以上前から親友だったのかと思ってしまうほどに仲が良くなっていた。一体この短時間で何があったのだろうか。


「アスラン様、留守の間に王城から知らせが来まして帰宅次第城に参れ、とのことです」

「分かった。今から行けば今日中に謁見できるはずだから一人で行ってくる。夕食までには帰れると思う」


非番でなくても暇さえあればカインは屋敷に来るのだから、カインに伝言しておけばいいはずなのに。別に伝令を寄こしてまで俺に何の用があるのと言うのだろうか。城の門番もいつもなら謁見の確認が取れるまでどんな要人でも待たせるはずが、今日は要件を伝える暇もなく王の所に案内された。かなりの徹底ぶりだ。


「よく来てくれたアスラン君。またシャルロットの護衛を頼みたいのだが良いだろうか?」

「良いも何も適任が他にいないから俺に頼んでるんでしょ?」

「そうなのだ、最近帝国の動きがきな臭くてな。護衛に人員を割くわけにはいかない。本当なら中止したいが伝統行事だから、不参加と言うわけにもいかないのだ」


もうすぐ冬だというのに帝国はいったい何をしているのだろうか。


「それは直属の護衛隊であってもか?」

「あぁ、護衛隊長であるカイン以外は帝国に備えて待機だ」


国外へ行く娘の護衛に正規の軍人一人だけで良いのか?国王本人がそう言ってるからそうなんだろうけど。


「それで、今回は何処に何しに行くのですか?」

「魔導国家フリードの学園都市で行われる魔術の学会に来賓として出席する」

「移動手段や宿の手配は?」

「全て任せる。聞いた話によるとシャルも冒険者だというではないか。冒険者パーティーとしてフリードの大使館に向かって欲しい」

「その心は?」

「帝国の目を誤魔化したい。王族が他国に向かったと思わせないためだ」


なるほど。表向きシャルは城にいることになっている筈だから護衛隊を引き連れて行ったら、シャルの居場所が帝国にわかってしまうというわけだ。そして大使館に入ってしまえば問題ないと。

「それで出発はいつなんですか?」

「いつでも良い。ただし十日後の学会には間に合うようにしてくれ」


ぎりぎりじゃないか。道中何もなければ問題ないが、魔物の群れと遭遇したり、賊に絡まれたりしたら学会に遅れてしまうかもしれない。


「それじゃあ明日の朝食後に屋敷に来るよう伝えておいてください」

「あぁ、任せておけ」


明日までに馬車を手配しないと駄目だな。ウィルが暇なら誘えるのだが、最近商売が軌道に乗って従業員も雇い始めているらしいから当てにはできないだろう。まずは屋敷に戻って夕食だな。あとの事はそれからだ。

 今日のメインディッシュはミーアとシルヴィアが二人で狩ってきたらしい。なんでもお金の勉強の一環として二人で依頼を受けに行っているらしい。この二人パーティーリーダーの俺より冒険者をしているだろう。


「それでアスラン君、お城には何の用事で呼ばれたのですか?」

「今度はフリードの学園都市まで護衛してほしいらしい。直接陛下に頼まれた」

「急な話ですね」

「あぁ、それが帝国軍の動きがきな臭いらしくてな。当初は護衛隊だけで行くらしかったんだが、帝国に備えるためにかり出されるらしく、急遽俺に頼むことになったらしい」

「そうですか。久々に冒険者としての仕事をするのですね」

「そういう事だ。シャル姫たちも冒険者として移動することになる。詳しいことは明日全員そろってからだ」


それと冒険者として移動するといっても何もせず移動するのも怪しまれる、運よく護衛依頼とかがあったら自然な感じで移動できるのだが。いま考えても仕方がない。今日はもう寝よう。

 そして翌朝、朝食後と言ったはずが何故か屋敷で一緒に朝食を食べることになった。


「それでアスラン、どうやってフリードまで行くんだ?」

「とりあえずは臨時でパーティーを組もうと思う」

「その件について私から提案があるわ。今後敬称じゃなくて名前で呼んでよ。それも愛称で」


俺がパーティーを組むというとミシュランさんの赤ちゃんを愛でていたシャル姫が名前で呼んでと言い出した。


「そうさせてもらうよシャル」

「アスラン殿、いくら何でも馴れ馴れしくはありませんか!」

「良いのよステラ。私たちは同じパーティーの仲間なんだから。それに呼び方で私が王女だってバレるかもしれないのよ」


その通りだ。冒険者として移動するならそこに身分による上下関係を持ち込まない方が良い。それに今回は王女と言う身分を隠し冒険者を隠れ蓑に移動するのだから尚更だ。


「分かりました姫様。姫様がそう言うのであれば」

「ほらステラ。今から意識して姫様呼びを無くしていかないと道中でボロが出たらどうするの?」

「分かったわシャル。そこまで言うならそうするわね」


この堅物の侍女がシャル呼びを徹底できればまずボロが出ることは無いだろう。なぜなら俺とカインはすでに愛称で呼んでいるし、マリアもなんだかんだ言って『姫様』や『王女様』と言う風に身分がばれる呼び方をすることは無い。ミーアも女の年上なら『お姉ちゃん』がつくから大丈夫だ。そもそもエルフのシルヴィアには王族と言う概念が無いからあったその時から愛称で呼んでいる。


「それでアスラン君。何を口実にフリードに向かうの?理由なく高ランクの冒険者が拠点を離れることはできませんよ」

「問題はそこなんだよ。運よくフリードへ向かう護衛依頼とかがあればいいんだけどな」

「それなら精霊と契約しに行くというのはどうかしら?フリードには精霊と契約しやすい場所があるらしいの。あったらあった、なかったらなかった、契約出来ればラッキー。そういう噂を確かめに行くのも冒険者の楽しみの一つじゃないかしら」

「悪くはないな、皆は他に意見あるか?」


どうやら反対意見や代案は無いらしい。ミーアは何のことか分かっていない様だったけど。


「ひとつ良いですか。今の話し方だと精霊と契約は珍しいことの様に聞こえたのですが、それが人間の常識なんですか?」

「どういうことだシルヴィア、エルフは精霊と契約するのは当たり前なのか?」

「そうです。ほら」


そう言ってシルヴィアが見せてきたのは自分の体の周囲を飛び回る人型の何かだった。


「それが精霊ですか?」

「小さくて可愛いわね」

「そうです。私の契約した風の中位精霊ですね。姿が小さいのは中位だからです。エルフの里ではみんな物心ついた頃には契約していましたよ。私の場合は弓の命中率向上とかを手伝ってもらっていますね」


それは知らなかった。だからシルヴィアの狩りの成功率があれほど良かったのか。それにこうして精霊を見ることができて精霊と契約することに少し実感が湧いてきた気がする。まだ契約できると決まったわけではないのだが。


「取り合えずその目的で入国しよう。冒険者が己の強化のために秘境や迷宮に向かうのは可笑しなことではないからな」

「そうと決まれば出発ね。学会までの時間を少しも無駄にはできないんだから」

「シャル、まずはギルドでパーティー結成が先だ。今の時間帯なら早朝組は依頼でいないだろうから空いているはずだ」


というわけで俺たちは王都支部にやって来た。シャルにはフードを被ってもらっている。もちろん正体を隠すためだが、格好は一般的な魔導師のそれなので道中怪しまれてはいなかった。それよりもAランク冒険者として俺の方が注目されていた。それは建物に入った時に一番感じられた。俺たちが入ったと同時に会話、食事、移動、その他一切の音が止み俺たちに視線が注がれた。それはまぁわかる。冒険者と言う生き物は誰かが出入りする度にそちらに意識を向け、次の瞬間には何事も無かったかのように煩さが戻るのが普通なのだ。だが今回は冒険者だけでなく受付嬢までもが俺たちから視線を離さず注視したままだった。


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