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第21話

 俺は今、街道整備の指揮を執っていたモルドレットさんから現状を聞きその解決策を提案したところだ。


「それだけじゃないと思います」

「君は確かマリアさんだったかな。それだけじゃないとはどういうことですかな?」

「確かに食事で体力を付けるのは大事ですが、それだけで疲労がとれたり、怪我が治ったりするわけではありません」


今日はそのためにマリアを連れてきたのだ。まぁ学校の件もあるのだが、旅をしながら立ち寄った村で治療を施し、今も王都の診療所で働いているマリアの知識があれば、正しい手当の方法を伝えることができると思ったのだ。


「いま見ただけでも包帯を巻きながら作業している人が何人かいました」

「分かってはいるのですが、教会がないここでは回復魔法はありませんし、作業を進めるためにも軽傷者には働いてもらうしかないのです」

「やはりそうでしたか。アスラン君私を連れて来て正解でしたね」

「あぁ、さっそく頼めるか」


そう伝えるとマリアはテントから出て行った。


「領主様、彼女に何を頼まれたのですか?」

「怪我人の治療だよ。教会の人間じゃないのに回復魔法が使えるからな」

「そうだったのですか。王都の診療所で働いているとは聞いていましたがそれほどとは」


無理もない。マリアが回復魔法を使うのは魔物との戦闘時だけだ。何もかもを魔法で治すとその人が本来持っているはずの自然治癒力がなくなっていくらしいのだ。だから急を要する戦闘時や部位欠損とかがない限り、回復魔法は使わないのだと以前言っていた。とは言え教会でも部位欠損を治せる人は極僅かしかいないという話なのだから、即死じゃなければ何でも治せるというマリアは凄すぎる。


「怪我人の方はマリアに任せて、街道が整備された後についての話をしたいのだが良いだろうか?」

「分かりました。ですが領主様から提案されるとは珍しいですね」

「いや、俺一人の案と言うわけではない。というかほぼマリアの考えなのだがな。現状では孤児が多く、領の次世代を担う子供がまともな読み書きを出来ていない。彼らに読み書きや簡単な計算を教える場所をつくったらどうかという案なのだが」

「領が運営する孤児院をつくろうと言うわけですね。悪くは無いと思いますよ」

「いや、孤児だけが対象と言うわけではない。孤児じゃなくても子供は大勢いる。どの道孤児が生活するための場所は整備する必要があるのだがな」

「教会が無い街で領主が出資して孤児院を運営するという話は聞きますが、親のいる子まで面倒みるというのは初めてですね」


まぁそうだろうな。貴族の子は家庭教師から学ぶし、商人の子は親から商売を学ぶ。だがこれが農村になると村長一家や地主の子ぐらいしかまともに学ぶことができていない。勉強させるくらいなら農作業させた方がましだからだ。それで家を継げる長男は良いがそれ以外は一発当てるのを夢見て冒険者になり実力に合わない依頼を受け、運悪ければ全滅運が良く生きて帰れてももう二度と冒険者としては働けない怪我を負うという話はよく聞く。


「初めてだとしても不可能ではないのだろう?」

「その分費用はかかりますし、ある程度の敷地は必要になりますよ」

「それなら無駄に広い私兵用の兵舎を使えば良いだろう。教員の方は当てがあるから心配要らない。街道が整備されて食料が入ってくればある程度の問題は解決できるだろう」

「そうですね。冒険者としての収入がある領主様の生活費の心配はしなくても良いですからね。それに領主様には養っていく夫人も妾も子供もいませんからね。そのための資金を全額領民の為に使えますね」


事実なのだから文句はないが、わざわざ確認しなくても良いと思うのだが。


「それじゃあ俺はちょっと狩りに行ってくる」

「えぇ、お気をつけて」


そう言ってテントを出ようとしたとき、治療を終えたマリアが戻ってきた。


「案外早く終わったな」

「そうですか?怪我人が一ヶ所にまとまっていたおかげで『エリアヒール』で治せました」


この『エリアヒール』だが指定した範囲内にいる者に回復魔法をかけるという物なのだが、敵味方の区別がつけられないという欠点がある。そのため戦闘中に使うと魔物まで癒してしまいかねないので、今回みたいな場面でしか使えないのだ。


「それで、私が王都に戻った後でも治療できるように薬草を採りに山に入りたいのですが、護衛できる方はいますか?」

「それならちょうど俺も山に狩りに出るところだから一緒に行くか?」

「分かりました。お願いしますアスラン君」


そう言うわけで俺はマリアを連れて山に入っていった。

 山では傷薬に使える薬草がすぐに見つかった。保存方法を間違えなければ長期間保存がきくらしいので運べるギリギリの量を採集していった。


「そういえばマリア一人で来たけど、他の人に薬草の見分け方とかを教えたりしなくて良かったのか?」

「炊き出しとか色々役割があるみたいですから。それはアスラン君の方も同じでしょう?」

「俺の方は狩りの仕方が根本的に違うからな。俺の場合は正面突破で倒すが、本職は木々に身を隠して不意打ちで倒すからな。俺の狩りを見たところで参考にならない」


ただ今回はミーアがいない為、自力で索敵しないといけないからその分難易度が上がっている。とは言え大型の魔物の足跡などは比較的簡単に発見できる方だから日が暮れる前に何とか猪系の魔物を二頭と熊を一頭仕留めることができた。

 翌日、狩りの疲れを癒してミーアの待つ屋敷に帰ろうとしたら、モルドレットさんに止められてしまった。


「領主様に代わってから領都で初めて行う宴に主役が出席しないおつもりですか!」

「主役は俺じゃなくて領民たちだろう?俺なんかがいたら彼らの休息にはならないだろ」

「しかし!」

「街道の整備が終わるまで俺は用なしだろ。それまでは王都の屋敷で待機しているよ」


そう言って俺はマリアと二人、作業の邪魔をしないように領都をあとにした。



 一方その頃王都では、ミーアとシルヴィアがメイドによる指導の元、常識を学んでいた。最優先はお金の使い方である。シルヴィアには果樹園での前科があるのでほっといたらよその家の家庭菜園を、ただ熟していたのが目に入ったという理由だけで勝手に採って食べてしまいかねないのだ。


「やはり難しいですね。自然の恵みは皆で分ける物ではないのですか?」

「そうだけどそうじゃなくて、えっと、その弓と一緒です。手入れをして保管しておいた弓を勝手に見知らぬ人に使われるのは嫌でしょう。それと同じです」

「嫌ですね。ですが他人の弓でまともに射ることは難しいですよ。使いなれたものを使うのが一番安全で正確です」

「そうですか。ですが今は他人に自分の物を使われるのは嫌と言う部分だけで充分です。そういう物だと思っていてください」


担当になったメイドは難儀していた。無理もない、エルフには農業はおろか経済と言う仕組みがないのだから。


「それじゃ本題に入ります。自分たちで作れない物、収穫できない物、そういう物は市場で買わなければいけません。その時に必要なのがこのお金です」

「面倒くさいですね。経済というものは」

「慣れれば簡単ですよ。口で説明するより実際に見た方が分かりやすいので今から市場にいきましょう」


と言うわけで三人は夕食の食材を買いに市場へと向かった。ちなみにここまで一言も喋っていないがミーアも一緒にいる。

 屋敷にはミーアが毎日のように仕留めてくる魔物や動物の肉があるので、市場で買わないといけないのは野菜や果物、魚などだ。


「なぜ同じ店で買い揃えないのですか。先ほどの店にもその野菜はありましたよ」

「それは安いからですね。同じ美味しさなら安い店で買う方が消費を抑えられます」

「同じものなのにおかしい話ですね」

「シルヴィアお姉ちゃん、お買い物は魔法と一緒だよ!」

「この行為と魔法のどこが同じなの?」

「えっとね。敵が一匹しかいないのに、わざわざ消費魔力の大きい範囲攻撃呪文は、使わないでしょう」

「もちろんだよ。そんなことしたら魔力が無駄になるわ」

「だから、同じものを買うなら、わざわざ値段の高い店で買わず、安い店で買おうという事だよ」

「そうね。魔法に例えたらお買い物がわかりやすくなったわ」


ミーアにそう教えたのはマリアだったりする。ミーアに聞かれたマリアが、患者の容態で使う回復魔法を分けていることから、ミーアにわかりやすく攻撃魔法を例えにして教えたのだった。


「ミーアちゃん。財布の残金が魔力総量だとしたら、いつ回復するの?魔力みたいに寝たら全快するの?」

「違うよ。お仕事しないと回復しないよ。ミーアたちだったら冒険者だね。そうだ明日一緒に依頼受けに行こう」


その日の夕食時、メイド長のセシルさんから午前中は勉強して、午後からなら良いと許可が出たので、翌日は二人で狩りに行くことになった。索敵に長けるミーアと長距離射撃が得意なシルヴィア。二人の長所が見事にはまり、食肉の納品において達成率百パーセントを誇る二人組がアスランの知らないところで誕生することになる。


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