第2話
第2話の投稿です。いろいろ投稿ペースを考えた結果、毎日投稿や隔日投稿ではストックの減りが半端ない。だからといって週一投稿では記憶に残らないだろう。という訳で初投稿日が水曜日だったので毎週日曜日と水曜日の週二日投稿でやっていきます。
俺は今、西門からのびる街道を隣街への最短ルートからは少し外れて、リットゥー山という山の麓にある集落に来ている。これは門番をしていた兵士から聞いた話だが、この集落は馬の産地として有名らしく、名のある将兵の愛馬を多く輩出し、貴族や豪商も遠方から馬車馬を買い求めに来るほどらしい。その上観光地としても有名でいつ行っても歓迎され、来るものは拒まないのが集落の人たちの気質らしい。そうだとしたらこの厳重な警戒態勢はどう説明すればよいのだろう?元々の柵の外に簡易的な柵が増設されており、門は完全に閉じているわけではないが、いつでも閉じられる状態で、その両脇に立っている武器を構えた男はいつ何が来ても良いように辺りを警戒していた。
「おい!そこの兄ちゃん。この緊急時に何しにきた!」
「今頃、この集落に続く道は封鎖されている筈だ!」
「何の話だ?封鎖なんかされていなかったぞ」
「何って、ゴブリンだよ、ゴブリンの異常発生。兄ちゃんが首を刎ねたその魔物の事だ」
なるほど。だから道中やたらとゴブリンが多かったわけか。今も会話をしている最中だけで軽く十匹は倒している。
「兄ちゃん。今のうちに中に入ってくれ。色々と聞きたいことがある」
ゴブリンの襲撃が止んでいるうちに中に入った。勿論死体は回収済みだ。門番の男はしっかり扉に閂をかけて、俺を集落で一番大きな建物に案内してくれた。
「今はこの建物に集落の大半の人が詰めている。兄ちゃんには長にさっき言っていた事を詳しく教えて貰いたい」
大半とは言ってもほとんどが女と子どもで、男もいるにはいるがこの部屋にいるのは怪我人だけだった。俺はその大部屋を通り過ぎ、奥の部屋に通された。そこにはこの集落の重鎮と呼ばれる方たちが集まっていた。
「ゴブリンだらけの道を一人でやってきた冒険者というのは君か?名は何という」
「アスランだ」
「私はここの長をしているニチェスだ。単刀直入に聞くがこの集落への道が封鎖されていないのは本当なのかね?」
「あぁ、ただし帝都からの道はだがな。他の街からの道がどうなのかはわからない」
「そうか。一番安全な帝都側で駄目だったんだ。他の街も望みは薄いだろう」
長の言葉を聞き、その場にいた男たちのついたため息によって、その部屋の空気はますます暗く重いものになった。そんな中ひとりの男が声をあげた。
「少年はここまで無傷でやってきた実力者だ。長、ここは彼に協力してもらい討伐し、ギルドには事後報告とするのはどうだろうか?」
「それはいくらなんでも無茶だ。偵察に出ていた者たちの見つけた巣には、指揮官級の個体が少なくとも二匹はいたと報告されている。お前もそのことは知っているだろう。それにだ規模がわからない状況で突撃して、もし仮にゴブリンキングがいたらどうするのだ?彼一人に任せるというのか」
「無論、われらも……」
「足手まといにしかならないとわかっているのにか」
また沈黙がその場を支配した。
「ニチェスさん、俺の意見を述べてもいいか。俺は今までにも一度ゴブリンキングが率いる群れと戦ったことがある。だからゴブリンキングがいても問題ない」
闘技場でのことだが、人間20人VSゴブリン約500匹という経験をした。そこにはもちろんキングがいたし、ジェネラルも何匹かいて、最終的には人間側が勝利したが生き残ったのは俺だけだった。
「そう言っていただけるのは心強いが、こちらもこんな無茶なことを安心して君に託すことはできない」
「それはそうだろうな。俺もつい半日前に冒険者になったばかりでまだGランクだ。たしかCランク以上じゃないと事後報告は認められなかったはずだからな。だがそれはギルドを通した場合だ。俺個人に直接頼む分には問題ない」
「そんな事できるはずがなかろう。自ら死にに行くと言っているようなものだぞ」
「そう聞こえるかもしれないな。だがそれしか手がないなら賭けるしかないだろう。馬鹿で自信家の冒険者が周囲の静止を聞かずに単身で巣に攻撃し返り討ちに遭い死亡。あんた方が口裏を合わせればいいだけだ。ただ巣までの案内人はつけてくれ。勿論攻撃開始まえに帰らせる」
たかが野生のゴブリン相手に死ぬなんて、俺は微塵も思っていないが。
「幸い帝都までの道沿いにいたゴブリンどもは俺がほとんど倒してきた。今から馬を飛ばせば何とか日暮れ前に街道に出られるはずだ」
「それなら、君が帝都に連絡に行けばよいのではないか?」
「いや、キングがいるかもしれないこの状況でここが本格的に襲われるのは時間の問題だ。俺が帝都に行っている間に襲われたら無事では済まないだろう」
「本当に良いのだな?」
「そうだ。伝令を送るなら早くした方が良いぞ」
長が人選を終え、選ばれた者たちが出ていこうとしたとき、部屋の扉が開かれお得だらけの部屋に場違いな少女が入ってきた。
「その討伐作戦、私も同行いたします」
「マリア殿、いつから聞いておられたのですか?それよりいつまで突っ立ている、お前たちはすぐに帝都に迎え!」
マリアと呼ばれる少女の登場で呆けてしまっていた伝令役の者たちだったが、長の一喝ですぐに気を取り直して駆け出していった。
「皆様の治療が終わりましたので報告に参ったのですが、激しい討論が聞こえてきて入るタイミングを逃してしまいました」
「そうですか。アスラン殿、紹介します。マリア殿は腕の立つ回復術師でして修行の旅で数日前たまたま立ち寄ったここで運悪く巻き込まれてしまった方でして、善意で怪我人の治療をしてくれていたのです。それに彼女のおかげで興奮していた馬たちも落ち着きを取り戻しました。この集落に彼女が来ていたのは我々にとって不幸中の幸いでした」
「初めまして。マリアと申します。」
「アスランだ。お互い災難だったな。俺の聞き間違いでなければ、あんたもゴブリン討伐に同行するって聞こえたが本気で言っているのか?」
「嘘ですよねマリア殿。あなたは女性ですよ。ゴブリンによる被害を知らないわけないですよね。ここの生産牝馬がどれだけ犠牲になったことか……」
マジかよ。ゴブリンって同じ人型じゃなくてもメスだったらなんだっていいのかよ。
「それぐらいは知っています。ですが伊達に一人旅をしてきたわけじゃないんですよ。これでも下種な欲望に塗れたオスどもを撃退する技ぐらい心得ています。そもそも私は回復術師です。同行しない方がおかしいでしょう」
「ですが怪我人や馬たちのケアはどうすればいいですか?」
「怪我人の方は主婦の方々で対応できていますし、馬の方はあなた方が適任でしょう。あなた方が動揺した態度を見せなければ馬も必要以上に興奮しません。馬に限らず家畜とは、人の心理状態にかなり影響を受ける存在なのです」
「そんなことを申されましても……、アスラン殿からも止めていただけないですか?」
「いや、わざわざ回復魔法の使い手が同行を申し出てきてくれたのだ。俺に彼女を止める理由はないな」
長は俺が止めてくれると思っていたからか肩を落とした。そして彼女の目を見つめ気持ちが変わることはないと知り深いため息をついた。
「わかりました。あなた方に任せましょう。ただし無理だと思ったら引き返してください。その頃には増援も来ている筈ですから。約束してください」
「わかった。その時は一度帰還しよう」
「絶対ですよ。今日はもう遅いです。食事と寝床はこちらで用意しますので、明日に向けて英気を養ってください」
「あぁ、そうさせてもらう」
正直に言ってそこまでの物を用意できるとは思っていなかったのだが、俺とマリアに用意された食事は味も良く量も最適だった。まだ備蓄は十分にあるらしく、二人分の食事を通常の量にするくらいは問題ないらしい。食事後に案内された部屋は個室だった。てっきり大部屋で雑魚寝を想像していたのだが、なんでも自分たちのいびきのうるささや寝相の悪さで俺の睡眠を邪魔するのは良くないとのことらしい。闘技場で生きてきた影響かどんな状況でも寝られる自信はあるのだが、この厚意は素直に受け取ることにした。
布団の中でふと思ったのだが、解放されてからまだ1日も経っていなかった。そう錯覚するほど今日1日で経験したことは今までの人生で一番濃かった。ギルドでは俺の賞金額を聞いて驚き、教会では女神様に召還されて王になると宣言され、そして初めて訪れた集落は魔物の異常発生ときた。そんな風に今日1日での出来事を振り返っているうちに俺の意識は遠のいていった。
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