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第18話

 俺は現在モルドレットさんに連れられて領都に来ている。移動は馬だ。もちろん俺はクロに乗ってきている。ちなみにマリアとミーアは王都の屋敷で留守番だ。到着したときの領都の印象は都市と言うには田舎で冒険者ギルドの支部も教会もなく活気のない寂れた場所だった。


「これが子爵領の現状です。取り潰しにあった先の領主が随分横領していたらしく、さらに不作が追い撃ちをかけ職を失った人が大勢います」

「酷いな。老人と女、子供しか見当たらないじゃないか」


働き手の成人男性がいないわけではない。だが今まで見てきたどの村よりも圧倒的に人数が少ないのだ。


「血気盛んな若者は冒険者になるためや職を探しに他の街へ行ったようです。残っているのはそんな決断もできなかった者たちだけになります」

「まずは彼らに職を与えなくてはな。何か案はないか?」

「街道整備でしょうか?すぐ近くに王家の直轄地として栄えている街があります。そこと結ぶ街道を作りましょう。予算は国からも出ますし」

「だが街道整備が終わってしまえばまた無職になるぞ」


街道整備のような公共事業もなんどもできるものでもない。次の策を考えておかないと。


「ですので同時に移住者の受け入れを行おうと思います。ワイバーンを討伐したAランク冒険者が領主になった、最初の一年は税が半分になると聞けば、家を継げない農村の次男三男が簡単に集まりますよ」

「そんな簡単に集まるとは思わないが」

「集まりますよ。そもそも陛下が貴方を領主にした理由に大部分はその効果を期待したからでしょうし」


だといいけど。取り敢えず当分の方針は決まった。


「もし仮に集まったとして、もともとの領民の問題は解決しないと思うが」

「もちろん彼らにも土地は与えます。それに受け入れる移住者を独身男性ばかりにすれば行き場のない女性たちも新しい家庭を築けるかもしれませんし」


それはどうなるかは分からないが、接する機会が多くなれば新しい夫婦が産まれる可能性が高くなる。そうなれば何世代に渡って繁栄していくことに違いない。その日は大方の方針を決めるだけに留まった。まだ見たのは領都の現状の一部だけだが、一気に領内全ての問題に着手するのは好ましくないという事で、当分は領都を活性化させることを目標に経営していくことになる。次の日の朝俺は一人で一旦王都に戻った、馬で片道二日の距離だから比較的王都から近い。気が向けばいつでも行ける場所にある。

 王都の屋敷に戻ってきた俺はマリアに領都に行った感想を聞かれたので、現状と感じたこと、その対策を語った。


「教会が無いというのは相当ですね。どんな田舎でも女神像の一つぐらいは置いてありますよ」


そうなのだ。冒険者ギルドのない街はあっても子爵領の領都なのに教会が無いというは聞いたことがない。


「でしたら子供たちはどうしていました?大抵は教会が孤児院の代わりを務めていますが、教会が無かったら親のいない子供はどうなるのですか」

「大人より子供の方がたくましく生きていたよ。大人も子供の笑顔が生きがいになっているところもあるからな」

「それは一安心です。……これは私の勝手な想像かもしれませんがそんな環境で子供を育てても良いのでしょうか?読み書き計算を一定水準は習得させるべきなのでは?」


悪くわない考えだ。俺でも剣闘奴隷として収容される以前は孤児院のような場所にいた記憶が曖昧だがある。そのおかげで代筆を必要とせず冒険者登録もできたし、買い物もお釣りを誤魔化されることもない。


「問題は場所と指導者と食糧だよ。場所を整備しなければ集められないし、教える人も必要だ。それに集めるのは孤児が中心なのだから食事を用意するのは当然だろう。お金はあっても領内からは買えない。他の街から仕入れるにしてもどのみち街道を整備してからじゃないと無理なんだ」

「そう。……怪我とか病気の治療はどうなっているのですか?」

「薬草もあるがほとんどが民間療法で済ましているな」

「その改革もしないと駄目みたいですね。アスラン君、今度領都に行くのはいつですか?私も同行します」

「半月後だ」


その時に孤児院の事とかをモルドレットさんと相談すれば良いだろう。マリアを連れて行くという事はミーアも一緒に来ることになり、初めてこの三人での移動になる。

 その日は午後からミーアと冒険者ギルドに向かった。久々の本職の仕事になる。貴族になった時点で本職は領地経営なのかもしれないが、俺の中では冒険者が初めてついた職だし性にあっている。


『アスランお兄ちゃんの実力に見合う依頼なんて王都にあるの?』

『ないかもね。大抵の冒険者は依頼が張り出される朝一に受注するみたいだけど、この時間になってまだ受注されていない依頼って旨味のない外れ依頼なんだ。そういう依頼をこなしていくのも高ランクの役割だと思うんだ』


とういうか王都に限らずどこの支部でも毎日のように難易度Aの依頼が張り出されるような事態になったら世界が滅んだのと同義だ。だから高ランクの冒険者じゃないと受注できないような依頼は少ない方が良い。中に入ると思った通りまだ剥がされていない依頼が残っていた。その中でも失敗回数が目立ち時期でもないのに『リンゴ泥棒の調査』という依頼が目についた。気になったので受付嬢に詳細を確認してみることにした。


「この依頼そんなに難しそうには見えないんですが」

「それは依頼主の農村の村長さんいわく、リンゴに限らず収穫期の果実の数が合わないそうです。この時期はナシですね」

「なんで調査なんですか?ふつうなら討伐や捕獲が妥当でしょう」

「減る数が週に2・3個程度と少なく、密売目的の泥棒にしては数が少ないし魔物の被害にしても数が少なく食べかすや足跡などの特徴も見当たらない。だけど減っている事は確かだから確かめて欲しいみたいです」


だけど何組も挑んだが発見には至らなかったわけか、そこまでやっていなかったらただの見間違えで本当は泥棒なんていなかったんじゃないのかと思ってしまう。


「ただ腹減った子供が勝手に忍び込んだりしてるんじゃないのか?」

「可能性は無いと思いますが、それならそれで構いませんよ。ギルドとしては完全に気配を断てる魔物が近くに生息しているわけではなかった、という事が分かるのですから」

「分かりました。ちょっと行って調べてきます」

「ありがとうございます。Aランクのアスランさんが調べてくださったら心強いです」


と言うわけで一旦屋敷に戻ってセバスさんに数日依頼で留守にすることを伝えて、クロにミーアと二人で跨ってその果樹園のある村に向かった。そこは王都から馬をとばせば半日で到着する距離らしいので日が暮れる前に村に到着した。


 村の入り口で『リンゴ泥棒の調査』の依頼を受けた冒険者だと伝えたら、またかと言う顔をされたが村長宅に案内された。


「私が依頼主の村長です。あれだけ失敗が続きもう誰も来ないものと諦めかけていました」

「Aランクのアスランだ。本題に入らせてもらうが思い違いだとかそういったことではないのですか?」

「そう思われても仕方ないのですが、品種ごとに樹に番号を付けて毎日見回り付けた実の数をカウントしているのですから断じてそのような事はありません」

「そうですか、ギルドでは人為的な被害だと聞いてきたのですがその根拠は」

「根拠と言うには弱いかもしれませんが、刃物で切り取られていてそれもその日で一番いい状態の物がです」


そんな話を聞かされたら、果実の育成状況に詳しい専門家の犯行を疑ってしまう。


「その被害は今もまだ続いているのですか?」

「えぇ、今はリンゴではなくナシですが、三日に一回ほどのペースで減っています」

「次に減りそうなのはいつですか?」

「明日か明後日には。ですので今日はゆっくりこの家でお休みください。仕事は明日の早朝からお願いします」


村長の言葉に甘えて一泊させてもらった。夕食のデザートには自慢のナシを使った物が出され、ミーアが気に入って食べていた。


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