第17話
ワイバーンに襲撃された村を出発してからは王都まで何事もなかった。無事に王都に到着した俺たちは、馬車を降りるとすぐに謁見の間に案内された。そこには王と王妃、重臣たちが集まっていた。
「ただいま戻りました」
「シャルロットよ、よくぞ無事に帰ってきてくれた。ワイバーンに襲われたと聞き、無事だと報告が入ってもこうして元気な姿を見るまで、心配で眠れなかったぞ」
「お父様がお選びになった護衛隊と冒険者です。彼らのおかげで無事に帰ることができました」
頭を下げているからよくは分からないが、覗き見た陛下の顔は隈がひどかった。
「うむ。その件については後ほど話そう。まずは今回の訪問どうであった?」
「より一層友好関係を強化することでまとまりました。そこで獅子王レオ殿より提案なのですが、獣人族の未来を担う者たちの留学を受け入れてまくれまいか、という事です」
「わかった。皆の者次の会議の議題は獣人族の留学生を受け入れるか否かだ。それまでに考えをまとめておいてくれ。今日はこれで解散とする」
その場は一旦解散となりシャル姫たちと別れ謁見の間を出た。その後は食堂で昼食をとった後、王の自室に案内された。そこでまたシャル姫と合流した。
そこには王とローレンス侯爵のほかにもう一人知らない人がいた。
「紹介しよう。この方は王都のギルド支部長をしているバルムンク殿だ」
何と支部長本人が城に来ていたのだ。
「初めましてだね。商会にあったように私は王都のギルド支部長をしている。今日はワイバーンを討伐したときに私宛に書類を渡したと聞いてここに来たのだがそれはあるかね?」
「これになります」
俺は鞄から封筒を取り出す。受け取った支部長はじっくり読み始めた。読み終えると俺たちの顔を見回してから話し出した。
「なるほどね。思った通りの逸材だよ。この人数でワイバーンを討伐したのだからリーダーの君は間違いなくAランクだし、他のメンバーもBランクの実力はあるギルドカードを交換するから出してくれ」
そういわれ皆自分のカードを出す、陛下は知っていたのかシャル姫がギルドカードをだしても顔色一つ変えなかった。渡されたAランクのギルドカードは装飾がすごかった。
「あの、支部長さん。私たちをアスランさんのパーティーに組み込むことはできますか?」
「人数的には問題ないが、君たちは特殊だ。同じパーティーになるより、パーティー同士でクランをつくった方が色々便利だと思うよ。何なら手続きもしておくと」
「ならそれでお願いします」
シャル姫の要望はすんなり通った。なぜ俺たちのパーティーに拘るのかはよく分からないが、断る理由もないのでクランを結成することになった。用をおえた支部長はすぐに退室していった。
「これでアスラン君もAランク冒険者になれたという事か。おめでとう」
「やるべきこととやれることをやったらなってしまっただけです。当初の予定ではここまでランクを上げる予定は無かったのですが」
「そのおかげで娘は助かったのだ、礼をいう。だがワイバーンの襲撃から娘を護った報酬に相応しいものなど考えつかなくてな。ジルバよ何かいい案は無いのか?」
そうだよな。普通は魔物の群れと遭遇しない為の護衛だ。そこにワイバーンとかいう理不尽の塊との遭遇など予定にない。
「もういっその事爵位を与えてはどうでしょうか?」
「そんな簡単に与えられるものではないぞ」
「彼の実績なら文句は出ないでしょう。それに先の粛清で籍と領地は沢山あるのですから」
「陛下、勝手に話を進めないで下さい。第一領地経営なんて知らないですよ俺」
「そうだぞ親父、アスランが困っている。そもそも粛清って何のことだ」
カインも二人のヒートアップしていく話を止めるのに協力してくれた。
「お前たちは国外にいたから知らないのも無理はない。だが関係ない話でもない」
「陛下の毒殺未遂とシャルロット王女の襲撃事件、その真犯人は同一人物でこの国の子爵だったのだ」
「その二つが成功していたら私とシャル亡き後残る王族は二女の幼いソフィアだけ。そうしたら摂政として権力を握り、大きくなったら自分の息子を王配にして孫を次期国王にする。そういう計画だったらしい」
「そんな計画力のない子爵一人だけで実行できるものではない。他の子爵以下の貴族にも声をかけて権力を握った後、要職につける約束をしていたらしく、おかげで結構な数の家が没落した」
「だからAランク冒険者と言う肩書のあるアスラン君が子爵ぐらいになることに文句を言うバカはこの国にはいない。それに領地経営は代官を任命すれば済む話だ」
「というかこちらとしても君が子爵領を治めてくれればありがたいのだ」
要するに極度の人材不足で、猫の手も借りたい状況と言うわけだ。とはいえ出身がどこかも分からない元剣闘奴隷の冒険者が務めても良い物なのだろうか?
「分かりました、臨時の爵位と言うのなら構いません。陛下の在位中は務めます。その間に後釜はしっかりと育ててくださいよ。家督を継げず騎士団に入るしかない次男三男は沢山いるのでしょ」
「そのつもりだがうまくいく保証はない。一つの一族や派閥に権力が渡りすぎるのは危険だからな、いろんな派閥に分散させて爵位を与えなければならんのだ」
「歴史ある国でも一枚岩と言うわけではないのですね」
「認めたくはないがな」
「一枚岩でまとまっていたら、王族が殺されかける事件なんてまず起きませんから」
それもそうか。と言うわけで陛下から装飾剣を下賜され、俺はとある子爵領の領主になった。
「お前もう領主とか俺より出世するじゃないか」
「知るか。お前が侯爵を継ぐ頃には俺はしがない冒険者に戻ってるよ」
カインにいじられたが子爵と侯爵家嫡男にそこまで差はないだろう。明日またこの場所で代官を紹介するということで今日はこれで解散になった。
屋敷に戻ると使用人勢ぞろいで迎えられた。どこで入手したのか俺がワイバーンを討伐してAランクになったこと、その報酬として爵位を賜ったことをもう知っていたのだ。そして食堂に通されて用意されていたものはこの国の祝いの席で食べられるおめでたい料理ばかりだった。
「アスラン様、我ら使用人からのお祝いの気持ちです」
「俺自慢の料理だ。味わって食ってくれ」
「みんなありがとう。子爵になったからと言ってここでの生活は続くからこれからもよろしく頼む」
そう、あの後陛下に言われたのだが、月に何度か領地に顔を出すだけで良くて王都で今まで通りの生活をしていいらしい。それに比較的領地と王都が近いので往復も数日で済む。俺の合図でみんな食べ始めた。料理に詳しくは無いから何肉のどの部位をどうしたといわれても理解はできないが、おいしいことに変わりはなかった。話は変わるが俺たちが留守にしている間にミシュランさんの奥さんが女の子を出産していた。名前はミケと言うらしい。今まで最年少だったミーアが実の妹のように可愛がっていた。
翌日、王城の一室で俺たちは代官を務めてくれるという男を紹介された。
「初めまして。モルドレットと言います。この度代官を務めることになりました」
「アスランです。以後よろしくお願いします」
何でも今まで数多くの不作や飢餓などで経営が傾いた領地を立て直してきた凄腕の代官らしい。陛下の信頼も厚いので俺の代官に抜擢された。それならいっその事この人を貴族にすれば良いだろうと思うのだが本人が乗り気じゃないらしい。ちなみにいい年して独身らしい
「早速ですが領主様はご自分の領地がどういった特徴のある土地がご存じですか?」
「いえ、まだ何も。陛下からは経営は代官を用意するから心配するなと。任期も陛下の在位中だけですし。俺の仕事なんて判を押すだけの簡単な仕事なんでしょ」
「そうですか。陛下も人が悪い。私と陛下どちらが先に天寿を全うするかも分からないというのに。陛下が亡くなるまで私が生きていたら問題なくてもどうせ私の方が早く死ぬことになるのです。私のあとを継ぐ代官が出来の悪い人だったらその人の失敗の責任は領主である彼が負うことになるのですよ。そこまでしっかり考えていました?」
ここまで陛下に物を言える人は少ないのではないか、と思うほどモルドレットさんは陛下に突っかかった。
「そのためにお主を代官に任命したのではないか」
「えぇ、私がノウハウを教えればそれほど問題はありません。ですがそれだけではないでしょう。彼は若くて力もあり容姿も優れている方だ。その上陛下からの信頼もある。もうある程度の立場を確立している人たちは興味なくても、力ない貴族は成り上がるために娘を送り込んできたりするかもしれないのですよ。彼をハニートラップから守る手立てはあるのですか?」
「……痛いところを突きよって。だがアスラン君次第だろそれは」
「えぇ、その時になってみないと何とも言えませんのでこれ以上は言いませんが、その時はしっかり彼を護ってくださいよ」
この人俺の代官なんかより、宰相とかしている方が似合いそうだ。まぁそんな凄腕の人が代官をしてくれるというのだから安心だ。
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