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第14話

 首都では武道大会の予選が行われていて、シャル姫はその決勝トーナメントを来賓として観戦する予定らしい。だからその決勝が行われる五日後まではシャル姫たちと別行動になる。


「おいアスラン、これを持っていけ」


別れるときにカインが渡してきたのは宿の紹介状だった。滞在中の宿泊費は国が負担してくれるらしい。だが一体いつの間に宿なんか手配していたのだろう。

 この六日間完全に自由行動という事で、ウィルはさっそくめぼしい品物を探しに行った。夕食時までには宿に戻って来るらしい。と言っても今からはそんなに時間はないはずだが。


「アスランお兄ちゃんは、武道大会にでないの?」

「アスラン君ならいいところまで行けますよ」

「なんでわざわざ自由時間まで闘っていなければいけないんだよ。別の事に時間をかけるさ俺は」


それにあれだ、衆人環視の中で闘うのは嫌な思い出がある。殺人は禁止だし、魔物も出てこないし、賭け事も行われていないから別物なのは分かるが、望んでまで出場しようとは思わない。


「ほら、早く宿に行くぞ」


べつに紹介状があるから部屋がなくなることはないと思うが、昨夜は野宿だったので早く屋根のある部屋で休みたいのだ。


「すいませーん」

「お客さん、あいにくうちは満室でして、他を当たってくれませんか?」


受付に座っていたのはウサ耳少女だった。だが満室とはどういう事だろうか?


「紹介状を預かっているのだが、オーナーはいないのか?」


受け取った書状を何度か見返した少女は奥に駆け出して行った。これが俗にいう脱兎のごとくという奴だろうか。そして少女にかわって出てきたのは太った人間の男だった。


「本当に普通の部屋は満室ですので、お客様にはスイートルームを用意しましょう」

「オーナー、その部屋はお貴族様しか泊めないのではなかったのですか?」

「この方々はそのお貴族様より上の地位の御方からの紹介状を持ってきたのです。あの部屋に泊まって頂く十分な資格があるのですよ……さぁさぁご案内します」


そう言ってオーナーが自ら最上階の一室に案内してくれた。そこまでならまだ普通の対応だと思うのだが、そのままお茶を淹れだしたので驚いてしまった。


「オーナー、わざわざお茶まで淹れなくてもいいのだが」

「いえ、あなた方は私の命の恩人のそのまた命の恩人。そんな方々を無下に扱うわけにはまいりません。これでもまだ足りないくらいです」


そうしてオーナーの淹れたお茶を飲みながら、オーナーの昔話を聞くことになった。


「私はローランド王国出身でして、ただの農家の三男坊。職を探しに街まで向かう途中運悪く魔物の群れに襲われてしまったのです。その時はもう駄目かと思いました。ですが戦帰りの陛下率いる軍が偶然通りかかり助かりました。その後、陛下の口利きで王都で職を見つけ、今ではこの国でローランド王国から来る旅人の為に宿屋をやっているのです」


農村では三男坊以下が軍に志願したり、街に職を探しに行ったりすることは結構あることだ。ただその道中で魔物に襲われるのは災難だったとしか言いようがない。夕食の時までにウィルはしっかり帰ってきて、四人で食事をした。明日から帰国するまでの間、この宿を拠点に百獣王国を観光?することになるだろう。

 この五日間首都周辺を散策して食べ歩いたり、冒険者として常時買取の魔物の討伐をしたりしていた。その五日目は花畑が有名な観光地の村に商売に勤しむウィルを除いた三人で向かった。その村は色鮮やかな花畑に一面覆われていた。


「キラービーの群れだ!」

「女子供は建物に入れ、戦える者は臨戦態勢を!」


三人で花を眺めていたら、魔物の群れに村が襲われた。だがしょっちゅうある事なのか対応と指示も完璧で、パニックになることもなく撃退及び討伐がされた。もちろん俺たちも戦闘に参加した。


「兄ちゃんたち凄いな。俺たち獣人族でも二人以上で戦わないと確実に倒せない魔物をいとも簡単に倒していきやがって」

「おかげで楽に戦えたよ」


獣人の大男二人にそこまで評価されるとは思わなかったので驚いた。初めて戦う魔物だったがいつも通りやったら勝てただけだ。


「それよりも、対応に慣れていたようだがいつもある事なのか?」

「いや、ここ最近になって頻繁に起きるようになったんだ」

「もっぱら、新しいクイーンが近くに巣を作ったんじゃないかって噂だよ」

「対策は立てなくて良いのか?」


魔物の巣が村の近くにあるかもしれない、本当なら深刻な問題のはずが闘った男たちはいっせいに笑い出した。


「兄ちゃんたち人間にとったら脅威かもしれないが俺たちにとっては脅威じゃないんだ」

「それよりも村の近くに巣を作ってくれたことに感謝しなきゃ。森の奥には獣人でも相手にできないもっと凶悪な魔物が沢山いる」

「だがそいつらにとってキラービーは天敵なんだ。だからキラービーの巣の回りには近づかない」

「つまり、キラービーの巣が近くにあるかもしれないこの村は安全なんだ」


獣人族が魔物の強い場所で生活することができた理由の一端を垣間見た気がする。何本か駄目になった花はあったが、ほとんどの花が無事で花畑として見られなくなるといったことは無かった。ちなみにキラービーという魔物、見た目は蜂だが植物の蜜を集める習性はないので、花畑があったから村が襲われたわけではない。だが花の蜜の代わりに生き物の体液を集めるという。針はあるが毒はなく、体長は人と大差ない。そのあとも花畑を見て回って村をあとにした。


 宿に戻った俺たちは明日の武道大会決勝が終われば、すぐに出発できるように荷物をまとめて老いた。


「なぁウィル、毎日のように仕入れに行っていたが一体何を買い込んだんだ?」

「工芸品から魔物の素材に色々仕入れたよ。ここでは安く手に入っても王国じゃ高価なものもあるからね。それに作物の収穫が少ないからそっちも良い値段で売れたよ」

「そうか。なら誘った甲斐もあったってわけだ」

「本当に助かったよ」


実際、ウィルがいなくてもシャル姫の護衛はできた。だが知り合ったからには色々助けになることをしてやりたいと思って護衛に誘った。ウィルは他国の品物を仕入れ、俺たちは道中ウィルの料理が食べられる。両方が得をするのだ。明日の旅に備え俺たちは早めに眠りについた。


 シャルロットです。百獣王国の首都まで護衛してくれたアスランさんたちと別れた翌日、さっそく両国の今後の発展に向けた会談が始まりました。百獣王国が建国してから何回も行われてきた会談ですが、私が代表として参加するのは今回が初めてです。お父様いわく、時期女王としての訓練らしいです。


「よくぞおいでくださいました。シャルロット王女殿。私の事は覚えておいでかな?」

「もちろんです、獅子王レオ殿。お久しぶりです」


レオ殿は長きにわたって虐げられてきた獣人族を祖父と父と自分、親子三代でまとめ上げて初代国王として百獣王国を建国した英傑です。


「会談を始めるに当たって確認しておきたい事があるのだが良いだろうか?」

「何でしょうか?」

「シャルロット殿は我ら獣人が虐げられてきた本当の理由をご存じだろうか?」

「その肉体の強度から鉱山などの肉体労働に従事させられてきたと教わりましたがそうではないのでしょうか?」

「そういう事も確かにあった。だが食事も出されるし、休息も与えられる。確かに自由は奪われたが生きる気力を失いはしなかった。獣人は他種族との間に子をなさない。そして一番家族愛が強い種族だと自負している。これだけ言えば聡明なシャルロット殿は理解できるはずだ」


人間と獣人では子ができない。いくら愛し合っていても二人の間に子はできないから結婚の意味がない。そして両親に引き離される。いや違う、子供なんて血の繋がりさえ考えなければ戦争孤児が沢山いる。どうしても二人で子育てをしたかったら孤児の里親になればいいだけだから。本質はそこじゃない。子ができないことをデメリットとしてではなく、メリットとして捉えたらすぐに思いついてしまう。そんなことを平気でやっている人と同じ事を考えてしまった私って嫌な人間だな。昔は平気でそんなことが行われていたというのだから人間って怖いです。


「その顔は理解してしまった顔だな。その逆もまたあったという事だ」


同じ人間の女としてそれは理解できません。それも愛してもいない相手と未亡人でもない人がと考えたら寒気がします。


「もう我らはその時代には戻りたくない。この先の未来力なき者たちが虐げられないようにするために私たち指導者のすべきことがあると思う。まだ先の話だと思うだろうがレグルス陛下に嫡男が産まれなければシャルロット殿が王位を継ぐはずなのだからな」

「えぇ、その通りです。私たちが生きる世界にそのようなことがあってはなりません」


この会議が行われてきた本当の意味をようやく理解した気がする。私の目の黒いうちはそんなことはもうさせない。


「大前提の確認も終わったことだし、そろそろ本題に参りましょう」

「よろしくお願いします」


それからは交易品や両国間の人の行き来などについて今までとこれからを数日かけて話し合いました。ただ私の中では冒頭部分の内容が頭に残りすぎて、それ以降はほぼ文官任せになってしまいました。

 翌日以降は切り替えて会議に集中し、そして会議最終日の最後の議題が終わって、明日は武道大会決勝観戦するというタイミングでレオ殿が予定にない話を切り出してきました。


「シャルロット殿、もし良かったら次世代を担う子らをそちらに留学させて頂けないだろうか?」

「何故でしょうか?実質人質を預けるようなものですよ」


両国の関係は人質がいないと成立しないような脆い関係ではない。そのような悪しき古い慣習に倣わなくても友好国で在り続ける。そう同盟締結時に先代たちがお決めになったはずです。


「そう思われても仕方がない。だが未だローランド王国以外からは馬鹿にされ蔑まれているのは確かだ。それは我らに学が無いからだと私は思う。だからこの国の次世代を担う子らにそちらの最先端の学問を学ばせてはもらえないだろうか」

「私個人の権限で判断できる問題ではありません。国に持ち帰り父やその他大臣たちと話し合った上で結論を出したいです」


レオ殿は私の回答に同意してくれました。私自身その考えには賛成です。ですが他国の子供それも王侯貴族の子女の受け入れとなると様々な問題があるのです。これで会議は本当に終了し、この国での予定もあとは明日の武道大会観戦だけになります。


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