第12話
翌朝再び城に呼ばれた俺たちは、そこでマリアの診療所で働く許可証とミーアの生涯食べ放題券をもらった。
「陛下、王都で馬車馬を扱っている店を紹介しては頂けないでしょうか?ここに来るまでの二頭立ての馬車、マリアの愛馬を馬車馬の一頭にしてきたのですが、これからは冒険者としての俺たちと商人としてのウィル。別行動が増えると思うので馬車馬をもう一頭用意したいのです」
「馬車馬の一頭ぐらい軍馬は引退したがまだ若い馬が沢山いる。そこから用意すればいいだろう」
というわけで馬を一頭サービスしてもらう事になった。あとは俺の頼んだ拠点と、ウィルのテナントなのだが、場所が離れているということで一旦ウィルとは別行動することになった。
馬車に揺られること数分、俺たちが案内されたのは王都を見おろす小高い丘だった。
「ここは私が以前暮らしていた場所だ。今はだれも暮らしてはいないしここを拠点として使ってはくれまいか?もちろんは掃除は定期的に行っていたから綺麗なはずだ。私は執務があるのでこれで帰るので、あとは使用人たちに聞いてくれ」
それだけ言い残して、陛下は馬車で丘を下りて行った。敷地にはいれ噴水はないが立派な庭があり、石畳の通路を歩いてエントランスに入ると、執事とメイドが整列していた。
「初めましてアスラン様。執事長のセバスです。身の回りのお世話は何なりとお申し付けください」
「メイド長のセシルです。女性の方のお世話は私たちが担当します」
代表としてあいさつした二人、執事長のセバスさんは良い年のはずなの背筋の伸びた男性でロマンスグレーとは彼の為の言葉かと思ってしまう。メイド長のセシルさんは一度子育てを終えたぐらいの女性だ。これからセバスさんによって一日かけて屋敷を隅々まで案内されたのだが、ダイジェストでお送りしよう。
まずは料理担当のミシュランさん。かつては城の料理人をしていたらしいのだが結婚を機に退職、その後家族との時間を大切にできる職場を探していたところ、陛下にここを紹介されたらしい。今ははなれに妻と二人暮らしだが、もうすぐ第一子が産まれる予定だ。次に厩舎担当のバッカスさん。クロとシロの二頭はもう屋敷の厩舎にいるらしい。そして俺のほかにクロが言う事を聞く数少ない人物だ。厩舎のほかに庭の手入れも担当するみたいだ。あとは執事とメイドだが、長二人のほかにそれぞれ四人いる。全員住み込みらしい。
続いて紹介されたのは屋敷そのものだ。屋敷は大まかに分けて母屋とはなれと厩舎に分けられ、使用人たちは全員離れの方で暮らすらしい。母屋の二階はすべて寝室であとで好きな部屋を選んでくれとのことだ。一回には食堂と居間と風呂場があった。居間には暖炉があって、冬はそこに薪をくべて暖をとるらしい。風呂場は広かったが一つしかなく、工夫しないと男女で鉢合わせしてしまう。そして厩舎にはご存じクロとシロの二頭が寛いでいる。今はこれくらいで良いだろう。後々必要になった時、詳細な情報を伝えるとしよう。
それから数日たち俺たちは屋敷での暮らしに少しずつ慣れてきた。マリアが毎日のように診療所に向かうので、日中はミーアと二人で過ごすことが多く、よく近くの森に狩りに行って時間を潰している。たまに非番のカインがシャル姫を連れてくることがあり、シャル姫にミーアを任せてカインの訓練に付き合ったりすることもある。だがこの日はミーアが城の食堂に行き、客も来なかったのでウィルの店に行ってみることにした。陛下が用意したテナントがあるのはメインストリートからは一本それるが、それでもまぁまぁ人通りが多い商売には適した場所だった。
「やぁアスラン、来てくれたのか」
「あぁ、思っていたよりも繁盛していてよかったよ」
新興商会でまだウィル一人で切り盛りできる程度だが、しっかりとお客さんは入っている。
「坊主、誰か知り合いでも来たのか?」
「そうです。この人がアスランです」
俺とウィルが店の入り口のところでしゃべっていると、店の中から誰が出てきた。
「あんたがアスランか。俺はモルト、この地区の取りまとめ役みたいなことやっている」
「王都には商人が多すぎて一ヶ所では管理しきれないから細かい地区に区切って管理しているんです。それでモルトさんはメインストリートに店を持つ方でこの地区のまとめ役として新人の僕に色々指導してくれているんだ」
いくら陛下が直々に許可を出しても街には街の決まりがある、新人のウィルが失敗しないように大きな商会から指導が入っているみたいだ。
「それに坊主が売ろうとするものは質が良い物ばかりだ。開店時は物珍しさに客が集まったが、落ち着いた後も固定客を増やしてこの地区の税収アップに貢献して貰いたいからな」
「えぇ、これからもお願いします。モルトさん」
「おうよ」
そうしてモルトという男は自分の店に戻っていった。
「そうだウィル、お前料理本書いて売ったらどうだ?」
「どうしたんだいきなり?」
「いや、道中味にうるさいミーアが喜んで食べていたんだし、俺もお前の料理は好きだ。そのレシピを他の人にも知ってもらったらどうだ?まぁカレーみたいな高価な香辛料をたくさん使う料理は無理でも、家庭料理とかならどうにかならないか?」
「良い案だな。今はまだ忙しくて手を出せないが頭には留めておくよ」
その後もぶらぶらと城下町を散策してその日は過ごした。
俺がウィルの店に行っていた頃、フードを深くかぶり物陰に隠れながら城下町を移動する怪しい人影があった。何を隠そうこの国の王女シャルロットである。
わたしはシャルロット、親しい人にはシャルと愛称で呼ばれています。そんな私はいま城下町にある冒険者ギルドの支部に向けて、警備の兵に見つからないようにして向かっています。カインとステラはもう着いた頃でしょうか。ちなみにステラとは私専属の侍女の事です。何人もの警備の目を掻い潜り私はギルドの支部に到着しました。
「こっちだ、シャル」
そこにはもう二人がテーブルで私が来るのを待っていました。二人とも制服じゃなければ私と違い城下町を歩いてもばれはしないので変装はしていません。
「シャル様、本当に冒険者登録なさるおつもりですか?」
「そうじゃなきゃわざわざ変装までして来ないわよ」
「諦めなステラ、シャルが頑固なのは今に始まったことじゃないだろ」
「仕方ありませんね」
二人ともよく私の事を理解してくれています。ですが私は頑固なのではなく、意志が強いだけです。
「私たち三人の冒険者登録お願いします」
「わかりました……ってあなたは」
「そうよ。でも王族が冒険者になってはいけないという規則は無かったはずよ」
「そうでしたね。わかりました必要事項を書いた紙を出してください」
この受付嬢は優秀な人ね。私の顔を見て一瞬驚いてしまったけどすぐに営業スマイルを取り戻して対応してくれたわ。そのまますんなり登録を終えた私たちはすぐに城下街の外に出ました。
「依頼も受けずに出てきたが、何と戦うつもりだ?」
「それはもちろん常時買取が行われている初心者向けの定番、ホーンラビットです」
その辺の草原を歩いていたらすぐに見つかった。可愛い見た目ですが本性は凶暴な魔物、心を鬼にして戦いまいした。
「前衛は俺たちに任せて」
「シャル様は援護だけしていてください」
たとえ後方支援に徹していてもこれが初めての戦闘です。今まで訓練で的に目掛けて魔法を放つことはあっても、実際に魔物に向かって放つのは今日が人生初めてです。その後も危なげなくホーンラビッツを狩って、日が暮れる前にお城に戻りました。
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