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第四部:貴族の不信

「なんと、そのようなことがあったのですか」


 使い込まれた薄緑色の布と鉄の棒によって構成されたテントの中で、一部の者だけが集まった真の説明会が開始された。

 両騎士団の長に俺。更には何故かネル兄様とノインが居る。

 これは単純に今後彼等が重要な役職に就くことを見越しての采配だ。半ば彼等には巻き込まれたように感じるかもしれないが、国の一大事に発展する懸念がある限り、どうしたとしても巻き込まれる。

 それならば、若く将来性のある今の内に経験を積ませるのだ。そうなれば何れ長のどちらかが死んだとしても、後を託せる人間は残る。

 ナルセの人間だからこそ、長となる条件は十分にあるのだ。彼等も未だ騎士団に対して大きな権限を持っている父を知っている。その功績を知っていれば、子供達に期待を寄せるのも当たり前だろう。


 当の本人達からすれば良い迷惑だ。

 その見方は今の子供達を一切鑑みていない。一応は彼等もネル兄様やノイン個人を見ているのかもしれないが、現状において重要視しているのはやはり親の部分だ。

 そこを払拭せねば乗り越えたとは言えない。親など関係無く、我等は我等の実力で功績を生む。

 それによって初めて周囲の見る目は変わり、時代の移り変わりへとなっていくのだろう。そして、兄様とノインにはそうするだけの力が確かにある。

 それを口にしても今は二人共謙遜するだけだ。或いは俺もと励ましてくれるだろう。実際に届くまでの間に彼等は更に先を行くだろうに、それでも一緒だと言ってくれるのだ。

 

「ああ。 最初にあれを発見したのはフェイ殿だ。 彼はどうやら他にも似たような外獣と戦闘を行ったそうでな。 もしやと思ったそうだ」


「成程……。 フェイ殿、具体的な特徴について話を聞いても構いませんか?」


「勿論です、マグガン殿」


 テントに入った直後に互いに自己紹介を済ませてはあるが、硬い雰囲気は変わらない。

 王宮騎士団長が丁寧語を使う相手だ。彼等にとって、それがどんな意味を持っているのかは王宮に関与すれば嫌でも理解させられる。

 現状はワーグナーが嫌悪の素振りを見せないが故に彼も親愛の態度を取っているが、もしもワーグナーが嫌悪を見せれば途端に敵に回るだろう。

 王宮騎士団と民主騎士団を僅かしか見ていないが、それでもワーグナーの存在は絶対的だ。彼の命令に疑問を挟まずに即座に動く姿は、中々に忠誠心厚いと言わざるを得ない。

 その忠誠心に報いる為にワーグナーも胸を張って騎士としての己を前面に出さねばならないのだから、彼の苦労も察してしまう。

 本人は気にしていないだろうが、それでも心配する誰かは居る筈だ。彼のように貴重な存在はなるべく長生きをしてほしいと切に願ってしまう。


 マグガン殿に例の蟹について説明を行う。

 なるべくナノの話をしなかったものの、それでも違和感の多い状況だったと話すことで彼等にも同じ違和感を覚えてもらうのだ。

 明らかにズレた生息域に、絶対に報告される筈の巨体。攻撃方法も独特であり、街を積極的に襲う姿勢は外獣であっても些か以上に狂暴に過ぎる。

 貝を背負った外獣は他にも存在はするが、大きさは然程のものではない。これは外獣が貝を生み出すのではなく、元から自然界にある貝を利用しているからだ。

 最高でも足程の物があるが、それでさえも非常に希少である。故に、明らかに人の身長以上の物が出てくる訳が無いのだ。

 それが出来るとしたら、外獣が自身の手で独自に作るしかない。――そして、そんな真似が出来る程の知性をあの外獣が持っているとは考えられなかった。


「戦ったからこそ解ります。 あれは本能のままに戦うだけの外獣です。 そんな奴があそこまで精巧な殻を作れたと考えるのは難しい。 だから強烈な違和感が残っていました」


「そんな違和感が残っている状態で今回のガレンザル……。 何かあると見るのが妥当でしょうね」


「出来れば蟹の方も調べたいですが、もう五年前の個体です。 あれ以降同じ個体は発生せず、死体となったあの蟹は既に分解されきっているでしょうね」


「同じ個体が見つからないというのも実に奇妙ですな。 確かに高位の外獣は数が少ないものですが、いくつかの同個体は発見されています」


 話せば話す程の違和感が強くなっていく。

 今は俺の証言だけだが、港街のギルドで当時についての話を尋ねればいくらでも聞くことが出来る。

 特にあの戦いから生き残った冒険者も多い。簡単に真実だと判明し、俺の話について今後も信用してくれるだろう。

 兎に角、この話によって解るのはただ一つ。

 此度のガレンザルも五年前の蟹も人為的な方法で誕生している。突然に生まれた特殊な個体などではなく、何らかの意図によって誕生した存在である。

 暴れているのに回収しなかった辺り、件の犯人は失敗作として見切りをつけている可能性が高い。だが、それでも特殊個体となった外獣の強さは通常よりも抜きん出ている。

 

「これは外獣による無差別な破壊行為ではなく、何者かが起こした人災だ。 決して許してはならず、早急に捕縛せねばならない」


 両騎士団の今後を左右する言葉をワーグナーが宣言する。

 それに対して誰もが反対の意を唱えない。誰にとってもこの騒ぎは害しか与えず、益など齎さないのだ。故に犯人は早急に、確実に潰す。

 その為の証拠は依然として用意出来てはいないが、あのガレンザルを調べていけば何かが掴めるかもしれない。

 一先ず、目先の騎士団の行動はガレンザルを王宮まで運ぶことだ。

 これは王宮騎士団の面々だけでは足りず、民主騎士団の手も借りねば達成されない。正式な通達としてワーグナーがその場で頼み、マグガンは即座に肯定した。

 であれば、なるべく早めに運び始めるべきだ。村の人間から一番巨大な荷台を複数借りて、それを紐で繋げて一つの大きな台とする。

 そして騎士団の面々が全力でガレンザルを台の上に運ぶ。超重量故に荷台は軋み、王宮に到着する頃には壊れてしまうのは想像に難くない。

 それを察した村長達は不安な顔をするが、その点は騎士団長だ。必ず弁償すると自身の身分に賭け、住民を安心させている。

 

「皆には申し訳ないが、これより徒歩で王宮に向かう。 馬の調子を細かく見つつ、なるべく平地を選択して帰還する。 良いな!?」


 応!!

 ガレンザルの巨体を運ぶとなると、必要となる馬も必然的に多くなる。

 それに、民主騎士団の怪我人も運ばねばならない。マグガンはそれを断っていたが、時間稼ぎを任せたからこそ怪我人が多く発生したのだ。

 その責任は王宮騎士団が取らねばならない。何より、今後民主騎士団には重要な仕事がある。

 他に居るかもしれない特殊個体の捜索だ。発見次第位置を記録し、討伐した後に人為的な施術痕を調べる大きな仕事がある。

 その記録によって敵が多く発生している場所を調べ上げ、その周辺を纏めている貴族を調べる算段だ。

 やはり相手が平民でも冒険者でもないと決定付けられ、対貴族を想定したまま事が進んだ。俺としてもその方が都合が良い。

 騎士団より若干の距離を取りつつ、俺は背後を歩く。マグガンも王宮で報告する必要があると一緒に来ることとなり、彼の護衛の為に複数の民主騎士達が居る。

 

 その内の一人であるノインがマグガンに何事かを話し、此方へと歩を進める。

 その顔は笑みに彩られ、偶々見てしまった騎士達は彼女に見惚れてしまった。これで余計な求婚者が出なければ良いがと思いつつ、しかし直ぐに無理だろうと空に向かって息を吐く。

 

「お暇をいただきました。 ……ザラ兄様」


「ここではそれは止めてくれよ、ノイン」


「はい。 折角の機会をふいにする程愚かなつもりはありませんよ?」


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