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第四部:連携攻撃

 相手を傷付けた以上、俺が狙われ続けるのは間違いない。

 当初の予定通りに草原の広がる場所へと誘導を続けているものの、背後では轟音と共に木々が燃えている。

 森林地帯の被害は大きく、よしんばガレンザルの討伐に成功したとしても今後について不安が残ってしまう規模だ。

 それでも、討伐をしなければ被害は拡大の一途を辿り続ける。此処で殺さねばそもそも林業そのものが衰退し、他国からの輸入に頼ることとなるだろう。

 ガレンザルは未だ火柱の中に居たままだ。どうやら吐き出すなんてものではなく、常時身体から火を発生させながら行動出来るらしい。

 それだけでランク帯は一気に変わる。単純な討伐になどならず、必ず高位の冒険者が必要となるのは確かだ。

 そもそも皮膚に傷を付けるのも命懸けなのだから、民主騎士団が対応出来なかったと言われても納得しか出来ない。


「功績目当てなのは解るが、行動が早いぞ!」


「急がなきゃ民主騎士団が全員死にますよ!? 早めに誘導しなきゃ森の被害も更に拡大します!!」


 隣を共に走るのはネル兄様だ。

 他が追い付けないに対して、彼だけは余裕を持って此方に追い付くことが出来ている。きっと本気を出せば更に速度を出せるのだろうが、今は情報共有を優先して横並びでガレンザルの追撃から逃れていた。

 基本は大地を駆け、巨大な石が目立つ場所は木の枝まで跳ねて空中を走る。

 鍛錬の中で山を駆けていたのが功を奏した。どれだけ性格に問題があったとしても、やはり鍛錬について指示を出していた両親は間違ってはいなかったのだろう。

 雄叫びを上げながら殺意を叩きつけてくるガレンザルに背筋を冷やしながらも、ついに俺達は森の外へと飛び出す。

 着地場所は騎士団長達が居る位置の少し前側。空中で騎士団長と視線を交わし、此方の意図を汲んだ彼は即座に行動を指示した。


「――総員構え! 直ぐに姿を見せるぞ!!」


 全力で走り、騎士団長の元にまで移動する。

 続々と森から現れる王宮騎士達を他所に、簡潔に特殊個体についての説明を行った。正しく業火そのものといった外獣の姿は、異常極まると。

 

「剣による攻撃は危険か」


「いえ、移動時には腕と足が火柱の外に出ます。 失血死狙いであれば或いは」


「それでは時間が掛かり過ぎる。 ……やはり対象の火を何とかするのが先決か」


 特殊個体のガレンザルを討伐する現実的な方法は二つ。

 一つは焼かれるのを覚悟で頭部があると思わしき箇所を攻撃すること。二つ目は腕や足に傷を付けるか、切断を行い失血死を狙う。

 近くに水場があれば直接消火させる手段があるものの、今回は急ぎだ。火柱そのものとなったガレンザルが居るなど聞いていないし、水を大量に運ぶには時間が必要となってしまう。

 動き続ける火を直接消すのは難しい。習性を利用して水のある場所まで誘い込むことは出来るだろうが、この近くにあるのは小規模な湖のみ。

 その程度で消える筈が無いのは一目瞭然だ。とすれば、消火した後に倒すという手段は現実的ではない。

 ネル兄様と顔を合わせる。

 お互い、その方法しかないのは最初に相手を見た段階で解っていた。体力切れを狙うことも考慮に入っていたが、相手は巨体である。何気ない動作ですら死にかねない以上、多少大袈裟となっても回避をせねばならず、結果的に多くの体力を消費してしまう。

 

 不利なのは此方だ。

 故に、危険を承知の上で挑むしかない。重症を覚悟するのまで似通うのは勘弁願いたかったが、強者と戦う限り死の危険は付き纏う。 

 俺の道を破壊するように森が爆発する。猛り狂った炎の猿は勢いを弱めることなく突進を行い、騎士団ごと俺を潰さんと迫って来る。

 その姿を視認し、全員が回避運動を開始。装備している鎧が全て軽装の類であるからこそ、回避運動に困ることは無い。

 腕の振り下ろしが大地を抉り、地面が僅かに揺れる。火柱から最初の時とはまるで違う量の火球が放たれ、全ての騎士に平等に降り注いだ。

 予想とは異なる攻撃方法ではあるものの、無数の火球を放つ外獣は他にも存在する。それと大差は無く、しかしてその火球を使える相手はガレンザルよりも遥かに強力な個体だ。

 

「ボロスと同等か。 難しいな」


「戦ったことはあるのですか、兄様」


 剣を構えながら兄様は首を上下に振る。

 その時点で実力はこの中でもかなりの上位だ。高位に属する外獣を倒した経験などそう易々訪れることは無く、殺せただけでも俺以上は固い。

 

「右は任せろ。 お前は左を」


「解りました。 御武運を」


 騎士団は様子見に徹している。より多くの情報を集めた上で攻め方を決めるようだが、此方にそのつもりは一切無い。

 ネル兄様は規則違反になるだろうが、本人がまるで躊躇を覚えていない。殺せるならば何でも構わないと言わんばかりに右回りに大きく歩を進め、俺は反対に左回りに大きく足を進める。

 両側面からの挟み撃ち。ガレンザルは即座に物量による攻撃を選択し、火柱の範囲を拡大させる。

 炎の壁となって迫る様は恐怖以外のなにものでもない。本来ならば回避に徹するべきだろうが、それをしては最初と一緒だ。

 ――炎程度、切り裂けなくてこの先生きていけるものか。

 半ば以上気合や根性任せではあるものの、水を斬る感覚を思い出しながら全力で剣を振るう。

 

 此処で失敗すれば自身が燃やされるだけだ。両の手にあらん限りの力を込め、そのまま横凪ぎに切り払う。

 炎の壁はその攻撃に一瞬の抵抗を見せたが、やはり元々が火。性質的な差によって炎は斬られ、その先に居るガレンザルの顔までの道が一瞬だけ出来上がる。

 反対方向には同じ方法で突破した兄様の姿。あちらはマントの一部を焦がしているようだが、本人にはまったく火傷が及んでいない。

 だが、それも一瞬だ。この瞬間に相手に傷を付けられねば、炎は俺達の作り上げた道を瞬く間に埋め尽くして燃やすだろう。

 的確に、かつ効果的な結果を残す。それでこそ、この無茶が成立すると言っても過言ではなかった。

 特殊個体であるとはいえ、ガレンザルの皮膚はそのままだ。硬くは無く、例え多少強化されていようとも十分に切断は可能。

 であるならばと視線を彷徨わせ、対象の頭部へと突きを見舞う。


 次の動作が短い突きは、突撃している状態では最高の手札だ。

 突進の威力を含めれば鎧をも貫通する場合があり、俺の剣であれば相手の頭部を貫くことも難しくはない。

 そのまま炎の壁から火柱内部へと一気に近付き、側頭部に剣を突き立てた。

 

「――――ッ!」


 予想の通り。そう言いそうになる口を噛み、熱気が喉を通らないよう閉じる。

 剣は相手の側頭部に驚く程呆気なく刺さり、間違いなく脳味噌までをも傷付けた。兄様の方は首を直接狙い、此方も無事に突き立てることに成功している。

 これで間違いなくガレンザルは死ぬだろう。時間稼ぎについても然程問題は無くなった。

 炎が道を埋め始め、そうなる前に無理矢理剣を引き抜いて多少焼けるのを覚悟で外へと振る。

 腕に炎が絡む感触に眉を顰めながらも、新しい道は無事に外へと繋がった。後は脱出するのみだとガレンザルの頭部を蹴って外へと飛び出す。

 服や外套には何の対策も施してはいない。服が燃え、外套も燃え、それを消す為に道中で補充していた水筒の中身を自身に撒く。

 後の事を考えている場合ではない。全身の冷える感覚に心地良さを覚えながら、隣で着地する音のした方向に顔を向けた。


「首と頭部に二発。 これで十分だろう」


「ええ。 ――騎士団長! 頭部と首に二発傷を付けました。 これで後は耐えるだけです!」


 俺達の言葉に、しかし騎士団長は呆れた眼差しを送るだけだった。

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