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第四部:兄との一時

 準備を夜通し行い、ナノから一応とばかりに資金を貰った俺は明け始めた空の下で騎士団と合流する。

 既に彼等の方は準備を済ませ、軽装の鎧を身に付けて白いマントのような物を羽織っている状態だ。帯剣している得物の形状は長い。

 幅広く長い武器は取り回しに力が要るものの、放たれる一撃は大きい。これは世の常識であり、そして俺の持つ武器と比べると明らかに上等な代物だ。

 自身の武器も成長する過程で長さや材質を変えているものの、やはりお金をあまり掛けていない分性能という点で見ればどうしても劣る。武器の性能が自身の勝利を左右するとは限らないが、脆い武器と硬い武器が衝突すればどちらが先に砕けるのかは言うまでもない。

 故にこそ、冒険者達にとって質の良い武器というものは欲するものだ。それが自身の得意武器でなかったとしても、売れば金になる以上は集めておいて損をすることはない。


「お待たせしました、騎士団長殿」


「いや、此方も今準備を済ませたところだ。 後は確認作業を済ませた後に出発致します」


「解りました。 では私は馬を持ってきますね」


「――それでしたら我々が用意しておきました。 騎士団標準の馬ですが、質は保証しますよ」


 おい、と騎士団長が近場の騎士に声を掛けて馬を持って来させる。

 自前の馬を持って来るつもりだったが、騎士団が使用する馬だ。質は保証されているようなもので、使わないという選択肢は存在しない。

 俺が使っていた馬はナノが予め手を回して用意したものだが、現れた馬を見れば期待感に胸が膨らむ。

 街に居る馬とは異なる強靭な足。一回りは巨大な身体に、歩く姿は堂々としている。パレードにも用いられる馬だからこそ、国も手間を惜しまず育成に励んだのだろう。

 その馬を一頭貸してもらえることに感謝の言葉を送り、さてと騎士団長は一言呟いた。


「これから我々は馬を走らせて一直線に目標まで進みます。 道中の休憩は昼のみですが、もしも馬の状態が悪ければ休憩時間を伸ばすつもりです」


「それで間に合いますか?」


「ご安心を。 既に偵察と足止めに民主騎士団が向かいました。 今回の外獣が如何に強力であれ、彼等であれば討伐は不可能でも足止めは可能な筈です」


 王宮騎士団は本来王族や貴族を守る事に尽力する存在だ。

 この仕事は本来であれば民主騎士団が行うべきで、王宮騎士団の仕事ではない。彼等の保有する戦力で解決しないからこそ、王宮騎士団が動くのである。

 そのため、民主騎士団に求められるのは敵をその場から動かさないこと。可能な限り足止めに注力し、到着までの時間を稼ぐ。

 反発が起きかねないものの、民主騎士団側からの要請である以上は王宮騎士団は責められる理由は無い。仮に責めてくる騎士が居たとしたら、事態を把握出来ていない無能ということになる。

 それを王宮騎士団は認めないし、民主騎士団も良しとはしないだろう。これは質云々ではなく、常識の話である。

 最後の確認を済ませた声が上がり、騎士団長は静かに頷いた。

 これで完全に全ての準備を終えたことになる。後は出立するのみであり、一部の騎士を除いた全ての王宮騎士達は馬に乗った。

 

「それでは我等は民主騎士団の要請に応え、ガラル森林地帯に向かう!」


『応!!』


 騎士団長の声に騎士達も呼応し、馬の腹を蹴って一斉に進み出す。

 先頭を行くのは王宮内でも一般的な部類に入る銀騎士。貴金属の価値をそのまま騎士の階級に当て嵌めているようで、王宮騎士の中で最も低い位は銀だ。

 その後ろを金騎士が進み、最後尾を白金騎士が進む。騎士団長はこの世界で最も貴重な金属である隕鉄騎士の称号を戴き、全体の指揮を行う為にも白金達の中央に陣取る。

 俺は自主参加という点から銀騎士達と共に先頭を進む。騎士団長は傍に置きたがっていたものの、流石に信頼出来ない相手は監視するべきだという騎士達の意見によって弾かれてしまった。

 最終決定権は騎士団長にあるとはいえ、皆の心を掴む為には公平な決定が必要不可欠。よって俺は馬を駆りながら一番前を進むことになり、そこには新人であるネル兄様の姿もある。

 開けておいた門から一斉に走り出し、銀騎士達が進路を取りつつ進む。俺は少しだけ距離を取って進んでいるが、今も騎士達から鋭い目を向けられていた。

 突然の見知らぬ相手だ。王族関係の部分は解っているだろうが、それでも内容までは秘匿するように騎士団長に頼んである。

 

「こりゃ、この仕事が終わるまでは窮屈な生活になるだろうなぁ」


「――そうでもないさ」


 愚痴めいた呟きは誰かに聞かせるつもりは無かった。だが、何時の間にか隣には一人の騎士の姿。

 見覚えの有り過ぎるその姿に笑みが浮かびそうになるものの、騎士達の目がある限り笑って会話をすることは出来ない。


「随分と王族達に期待されているんだな?」


「他に動ける人員が居ないんですよ、兄様」


「成程、そちらは余程人手不足のようだな」


「まぁ、まともに戦える人間が俺を除いて一人だけですからね。 騎士達を味方に付けなければ、とてもではないですが王宮内で生きてはいられませんよ」


 なるべく違和感を持たれないように二人で距離を開けて会話する。

 一人でも警戒する人間が存在すれば、人というものは意外に視線を向けないようになる。それが自身達の身内であればなおの事であり、新人であっても認められている相手であれば彼等も自信の責務を果たす方に集中するのだ。

 俺達は視線が外れるのを確認してから元の口調で話し、現状についての情報交換を始める。

 俺が王の隠し子を正式な王子となることに協力している旨を話すと、兄様はやはりなと言葉を綴った。


「王の隠し子は以前から噂されていた。 何時頃それが発生したのかまでは知らないが、気付けば王宮全体にまで広まっていたのは確かだ。 そんな状況でお前達が姿を見せれば、誰だってそうではないかと勘繰るものさ」


「……時期が悪かったですかね?」


「いや、既に盛大にばら撒かれた後だ。 時間を置いたとしても思い出す人間は思い出すものさ。 何時あそこに来たとしても結果は変わらないだろう」


 兄様の言葉から察するに、既にハヌマーンの存在は露見していると見て良い。

 確定ではないものの、王が露骨に贔屓した現場を見ている貴族は多いのだ。やはり隠し子だったかと認識し、利用するべく計画を練る人間も出てきているのは想像の範疇である。

 だからこそ味方を増やすべきだと、騎士団長を此方側に引き込んだのだ。騎士団が味方となってくれれば、此方の動きが阻害されても他が動いてくれる。

 そして当初の目的通りに王子と認めてもらえるだけの功績を残せれば、文句の無い結果を引き寄せることが出来るだろう。

 

「辛いようなら何時でも手助けはしてやる。 秘密裏になってしまうが、それでも弟の望みを果たす手伝いくらいはさせてくれ」


「……それは貴方個人の意思ですか?」


「俺と、ノインと、師匠の意志だ。 生憎父親と母親は何時も通りだが」


 俺が弱いから彼等は心配している――――という馬鹿な考えはしない。

 俺が死力を振り絞って、それでも目標に到達しないと察した時には遠慮無く手を伸ばせと告げているのだ。

 俺達は家族なのだからと。此方を捨てる素振りも見せず、兄様は酷く真摯な顔で俺を見ていた。

 妹も師も俺が頼めば助けに来てくれるだろう。彼等にとって大事なのは面子よりも俺を含めた兄妹であって、そこには無償の愛しか存在しない。

 俺は決して親に恵まれなかった。だが、兄妹には確かに恵まれたのだ。更に師にも恵まれたのだから、きっと不幸なだけの人生ではなかったのだろう。

 解ったとだけ告げ、俺達は共に無言で森林地帯を目指す。会話らしい会話は存在しなくとも、その沈黙は決して不快ではなかった。

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