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最終章:獣の群れ

 ――――敵の質はこれまでとは明らかに違っていた。

 首都を目掛けて一目散に進む外獣達は総じてランクが高く、一匹一匹を倒すのに時間が掛かるような相手ばかりだ。

 単純な強さだけではない。全身に毒を纏っている者、急所を直接潰さなければ何度でも立ち上がる者、負傷した同士が一つになることで能力を向上して復活する者と、多岐に渡る方法で生き残ろうとする。

 それが十や二十なんて数ではないのが余計に厄介だ。ただの雑魚であれば簡単に屠れるが、特殊な能力を持った外獣程事前準備は必須だ。

 そして、その準備をしている暇は無い。

 俺達は初見のまま激突し、勝利を掴まなければならないのだ。それのなんと苦しいことか、それのなんと恐ろしいことか。

 退却は許されず、さながら死の舞踏。最後の瞬間まで己が命を振り絞る彼等の姿は、しかしそれでも雄々しかった。

 腕に噛みつかれ、骨ごと纏めて腕を持っていかれる者が居た。激痛に悶え苦しんでも良いのに、彼は一度回復薬を飲んで腕一本で敵に立ち向かい続ける。

 

 他の者が彼の援護に回り、低下した戦力など気にせぬとばかりに雄叫びをあげながら剣を振るった。

 全身が骨で構築された龍が口から自身の骨を矢の如く吐き出し、避けられなかった者はその骨に身体を貫かれる。心臓を撃ち抜かれた彼等は即死も同然なのに、それでも最後の一瞬まで手を止めない。

 敗北を許さぬ。己は最後の一瞬まで、神の前で雄々しいまま終わろう。

 その意思に胸が苦しくなりながらも、俺は最早何度目かも解らぬ雷を放つ。早く全員消えろと願いながら頭を酷使して範囲内全域に雷撃を落し、剣を振るって龍の胸にある赤い玉を切り捨てた。

 龍は確かな悲鳴をあげて死に絶え、雷が命中した敵も煙を立ち上らせながら活動を停止する。何百何千の骸が広がり、身体は自然と怪物の血に汚れた。

 

 綺麗にするのも忘れ、戦いが終わった瞬間には後方に待機させていた馬で移動する。

 死んだ者達はその場に残され、戦いが終わった後に回収して埋葬する予定だ。誰もが泣かず、誰もが前を向き、死んでいた者達が怒る様を見せない。

 立ち止まれば、それが彼等に対する侮辱だ。その死を無駄にしない為にと全速力で走り、敵を発見すれば攻撃を開始して完全に殲滅する。

 途中でシャーラ達の部隊とすれ違うことがあったが、彼等も同じ表情だ。シャーラ自身も貴族令嬢にあるまじき様相になりながらも戦い、全身が血に塗れている。

 あれほど頼もしい指揮官も居ないだろう。共に戦い、迅速に指示を下し、生存への道を死に物狂いで探っている。

 俺達が敵を漏らせば漏らす程にシャーラ達に負担が押し寄せるのだ。出来れば負担させたくはないが、それでも戦っている最中は他に手を回せない。

 

「地図通りなら東側は残り少し……! まだいけるかッ!?」


「勿論です!! 我等全員、このまま行けます!!」


 精鋭の中でも一番若い者が雄叫びをあげて皆の心を代弁した。

 青年は何時の間にか何処に出しても恥ずかしくない槍使いとして成長し、何人かの年上の者を引き連れている。雷程の速さを持っていないとはいえ、彼の動きは最初に会った時とは比較にならない程に速い。

 この短期間で通常の何倍もの戦闘を経験したからこそ、その振舞いは国一に迫る勢いだ。今の彼であれば雷を使った俺との戦闘でも一撃で敗北することはない。

 僅かな会話の後に、直ぐに別の外獣の群れを発見した。

 敵は向かってくる俺達を無視して首都を目指しているようで、やはりそれは彼等らしくない。目の前に人間が居るのであれば襲い掛かるのが外獣であり、そうでない時点で操られているのは一目瞭然だ。

 ただ、それでも一度ぶつかれば敵も俺達を排除する為に動き出す。命令よりも本能を優先して牙を剥く様は何時の時代でも変わらず、お蔭で誘導が必要にならない。

 馬の背を蹴って宙を飛び、前を行く六足の獣の首を落す。転倒する直前に隣を走る外獣に飛び乗り、再度その首を斬り落とした。

 死体に躓いて転ぶ外獣を討伐者達が殺し、此方に視線を向けた瞬間に身体に雷を纏って一瞬で十数体の喉元や心臓があると思わしき箇所を突いた。


 それで倒れれば良し、だが倒れないのが現実だ。

 急所だと思った箇所が急所ではないなんてのは何時ものこと。血を垂れ流しながら殺意を向けられ、腕を振るわれてもそれを回避して今度は解り易く頭を持っていく。

 どんな生き物でも頭部は大事だ。何処が弱点が解らないのであれば、一番感覚器官が集まっている箇所を叩けばそれで勝手に倒れてくれる。

 それでも倒れないのであれば四肢を動かす筋肉を断ち切るだけだ。液体等の生物的要素を持たない物質で構成された個体であれば、その殆どに核と呼ぶべき物がある。

 大変なのは核で動いている個体だ。一撃で済ませられないので必然的に時間が掛かり、それだけ後ろの負担が増えてしまう。

 俺が苦労するだけならいい。幾らでも負担するが、他に影響が出るのであれば時間は掛けられない。

 幸い、現代でこの手の敵とは何度も対峙している。確かにこの時代基準であれば脅威と呼ぶべきランク帯ではあるものの、それでも規格外のランク達には遠く及ばない。


「見切れない訳じゃない、斬れない訳じゃない――――倒せない、訳じゃない!」


 空を飛ぶ十数体の怪鳥目掛け、同数の雷を放つ。

 各々が一条の光となって逃げる鳥を追尾し、触れた瞬間に過剰なまでの熱が内部ごと焼き尽くす。掠っただけでも死ぬ程の一撃で撃てば、鳥のように柔らかい個体で耐えられる筈も無し。

 地に墜ちるのを見届けず、死者を何人も生みだしながら外獣は一匹残らず殲滅された。

 腰に差した回復薬を飲み、瓶を投げ捨てる。まるで美味しくない回復薬は、薬師に能力のみを追求した結果だ。他の面々も雄々しい顔が歪み、如何にこの回復薬が不味いかを証明している。

 だが、そのお蔭で怪我らしい怪我は全て塞がった。切断された部分までは再生しないものの、肉が盛り上がって傷口を塞いでいる。

 急速な回復は一気に体力を持っていくものだ。予想通り空いた腹に水と食料を移動しながら腹に詰め込み、開いた地図に×印を書く。

 

「よし! 東側はこれで終わりだ!! このまま南に向かって敵を倒しながら進むぞ!!」


『応!』


 東側は残り少しだったが、南に向かって円を描くように進めど敵の姿が発見されない。

 俺達が視認した全てを倒したのか、シャーラ側に残りが向かってしまったのか。真相は不明であれど、発見されないのであればこのまま予定通り南に向かうだけだ。

 指示を出せば、直ぐに全員が馬を操って方向を変える。

 現在地点から更に東に進めば他国の国境線がある。砦が建設されているので、外獣達が無数にこの国に飛び込んでいる様を見ることが出来るだろう。

 だが、彼等は見るだけだ。他国の事情に介入する権限は砦内の人間であれば無いであろうし、そもそも選択肢にも上がらない。

 今は一人の手でも欲しいが、残念ながら望み薄だ。

 同盟を結んでいる国は無い。元々が大国に分類されているので、この国の王族も貴族も最初から他国と協力することを是とはしていなかった。

 必要であれば奪ってでも手に入れる。それがこの国の貴族達の性質故に、きっと他の国の重鎮は同盟を結ぶことを最初から考えいないに違いない。


「くっそ……これだから馬鹿な奴は」


 俺達が苦労しているのは、国を治めるべき者達がその責務を放棄しているからである。

 そして、別の人間が己の欲望を満たす為にこの戦いを開始した。全てが全て平民には関係無く、彼等はただの被害者だ。

 そうだ、彼等は本当にただの被害者だったのである。――その事実に苛立ちを隠すのは不可能だった。

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