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最終章:されど罪人は剣を取る

 剣を振る。

 一振り一振りする毎に自身の動きに余計な癖が付いていないかを確かめ、雷が使えなくなっても戦えるよう身体を鍛える。

 汗を流し、精鋭の討伐者達と模擬戦を行い、現在は神住街に滞在しているシャーラとも剣を合わせた。その後に同様に鍛えている兄妹と軽く剣をぶつけ、やはり違うなとどうしても比較してしまう。

 討伐者達の剣を火に例えるならば松明の火だ。生活において役立ち、闇夜を照らす一番一般的な方法でもある。彼等の剣は己の生活を支えるものであれど、極致にまでは至っていない。現実的に常人が辿り着ける域に留まり、はみ出そうと藻掻いているのが現状だ。

 そして、兄妹は業炎である。模擬戦をする度、一振り一振りに岩を容易く砕きかねない衝撃が乗っているのだ。

 動きは二人の性格によって異なるが、されど全てにおいて無駄と呼べるものがまるでない。シャーラの剣は持久戦に特化してはいるものの、この二人の前で長く剣を振るうのは無謀だ。

 

 実際に試しに戦った際にも彼女の剣を二人は容易く弾いた。

 ネル兄様は直接力で、ノインは一度も剣をぶつけ合わず。いっそ虐めにも思える程、シャーラは一方的に敗北を刻んだ。 

 彼女の実力は経験を積む毎に成長している。足りなかった力も遠心力や基礎鍛錬で補い、精鋭の討伐者達と良い試合をするようになった。

 貴族の令嬢でありながらも彼女は武を求め、そしてこの時代基準で言えば確かな強者になったのである。それでも、未来に居るナルセにはどうしても勝てはしなかった。

 元々の基準が低いからではない。こればかりは、過ごしていた環境が影響されている。

 彼女は親の愛を知っていた。そして一般的な良識を持ち得ていた。何をしてはいけないのかを弁えた行動は、彼女の鍛錬にも影響を与えている。


 そこにあるのは、一つの限界だ。自身と自身の師が定めた限界の中で彼女は鍛錬を続けて強くなった。

 それは悪いことではないし、無茶をして良い事になる可能性は低い。どれだけ鍛錬を続けても効率が低いのであれば、折角の努力も水の泡だ。

 そして、俺達はその限界を意図的に無視されていた。限界の中にある更なる限界を見極められていたと言うべきか、兎に角死ななければ上等の状態で鍛錬を続けていた。

 親に愛されず、俺は精神的不安から逃げ、兄妹二人の精神が歪むのも必然。

 見ていれば解ってしまう。今の彼等に常識と呼べる縛鎖は通用せず、それを強いる者を逆に縛ろうとする。――――そして、その影響はナノやシャルル王女といった家族以外にも起きていた。


「報告に参りました! 現在、ポラリス内に居る一部勢力が首都に向かっておりますッ。 同時に、各地に散らばっている討伐者達から外獣が一斉に街を無視したとの情報が騎士経由で来ております!!」


 昼の青空。

 鍛錬をしている俺達の元に一人の討伐者が膝を折って大慌てで報告を行った。その内容は本当に酷いもので、いよいよもって本気の進撃が始まるのだと緊張が走る。

 鍛錬を打ち切り、全員を一度何時もの部屋へ。精鋭は全員この街に居はするものの、複数の討伐者を率いて現在も討伐に次ぐ討伐を行っている。

 

「あまりにもポラリスの動きが揃い過ぎている。 これはもう確定だと思って動くべきだろうな」


「でしょうね。 ポラリス側の戦力はどうなっていますか?」


「断りを入れた方が近くで隠れて監視を今まで続けていましたが、準備段階では約二千人が居ました。 街から出てくる前に撤退をしたので実際にどれだけの戦力が動いたのかは解りません」


「二千人が全戦力なのか、二千人が一部なのか。 彼等の装備について教えてもらえる?」


「戦力は前衛と後衛に別れているそうです。 前衛側の装備は盾と剣、後衛側は弓、防具類も確り金属製の物を着用し、質に関しても粗悪ではないとのことでした」


「事前準備をしていた、ということね。 それだけの物を用意すれば何処かで漏洩してもおかしくはないのに、何処にも漏れてはいない」


「貴族連中が騒いでいなかったのも不思議です。 街一つをここまで隠し通すのは不可能と言っても良いでしょう。 国の領土外であれば偶然で片付けることも出来ますが、街がある箇所は領土内だ」


 街の誕生理由は貴族達にとって都合の悪いものだ。発見されれば即座に王によって潰されても良いもので、なのにこの状況に至るまで誰も知ってはいなかった。

 俺のような現代で生きていた者が知らないのであれば自然だ。平民が知らないままでも理解は出来る。

 だがシャーラも知らないのは不自然だろう。彼女は当主ではないものの、それでも貴族の子女だ。パーティーや茶会に参加することもあるし、その中で件の街の噂を聞かないなんてあるだろうか。

 街を治めているのが複数の貴族であることも疑問を深める要素だ。――――なら、全ては隠蔽されていたことだったのではないか?

 ポラリスを管理する貴族、ポラリスが起こしたであろう外獣大侵攻、多くの外獣が住んでいる鉱山地帯を管理するベルモンド家。


「まさか」


 唐突に真相が浮かんだ気がした。

 その事実を起点にして考えると、怖ろしいまでに辻褄が合う。

 何故街を隠せた。そもそも何故街を建設出来た。どうして首都内の人間の大部分を受け入れることが出来ている。そして、どうして今は揃えるのが難しい装備類を集めることが出来た。

 俺の呟きに皆が顔を向ける。ナノと視線を合わせ、彼女は顎に手を当てた状態でゆっくりと静かに頷いた。

 彼女もまた、この可能性に辿り着いている。いや、彼女だからこそ辿り着いても不思議ではないのだ。他の人間よりも彼女の方が過去の人間を知っている。

 地図を開く、外獣が発生した箇所を討伐者達の情報も合わせて記載していく。

 俺達が首都内の外獣を滅ぼしている間、帰還した討伐者達が幾つもの報告を上げてくれた。街や港等を羽ペンを使って丸く囲み、ナノはその地図にずっと視線を固定させている。


「港街ナンカラ、傍にはバング王国」


「アルグンブド、傍にはネーブル商国」


「イェーツブラ、傍にはムラタ聖国」


 傍に、傍に、傍に、傍に。

 被害が受けた場所を円で囲むと、必ず近くに他国の国境が存在している。国境には砦が建てられ、誰しもが大量の外獣の群れを見ることが出来ただろう。

 他国から見て、外獣に攻められ放題のこの国はどう見えているだろう。きっと、いや間違いなく攻めやすい国として認識されている筈だ。

 

「大小は関係無い。 必要なのは攻められているという事実だけ。 そして首都が酷い被害を受け、更に追撃を受けるのであれば」


「侵略するに都合が良い。 成程、これが目的ね」


 俺とナノの言葉に全員の顔色が変わった。

 ネル兄様もノインも硬い顔で、シャーラを含めたこの時代を生きる人間は蒼白の顔で。全員が理解したような顔をするが、俺は違うと断じる。

 

「侵略させることも通過点。 あの家の目標が何だったのかは、貴方もよく解っているはず」


「……ッチ、そういうことね。 厄介なことを仕出かしてくれたわ」


 これは俺達の時代の人間でなければ気付けないことだ。

 だから本には外獣大侵攻を止めたことだけが記載され、その原因が一切書かれていない。御伽噺の終わりが如く、平和になって終わってしまったのだ。

 きっと原因を探っても見つけられなかったのだろう。それにこんな騒ぎの後では真相を追求するよりも復興の方が重大であるし、ポラリスも恐らくは途中で状況が変わったことで当初の目的を変えたと判断することも出来る。

 そこから更に解ることが二つだけ。本に書かれていた勇士は実際に存在していたのだ。

 彼等が状況を変え、国を救った。故に俺達の時代まで国は続いている。王弟と繋がっていたのかは不明のままだが、彼等の活躍は隠しきれなかったのだ。

 そして最後に――


「敵側に俺達のような存在が居るぞ」


 告げた言葉に、シャーラの顔は青を通り越して白となった。

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