最終章:首都炎上
首都に到着した時、その時点で既に首都のそこかしこから煙と炎が上っていた。
火の手の勢いは激しく、首都内からは獣の唸り声が聞こえている。大急ぎで内部に突入した俺達は無数の外獣を目にすることとなり、目に付いた先から殲滅していく。
足は神住街へ。王宮にも今頃は外獣の手が及んでいるだろうが、あちらには戦力がある。どれだけ守れるかは解らないが、恐らく遠くない内に門も兵も突破して貴族達を殺し尽くすだろう。
だが、彼等は元より死んで当然。最後は一際目立ちながら敵の目を引いてもらえば最低限の役目は果たせる。
急ぎであるので最初から雷は放出したままだ。なるべく多くを一気に倒しつつ、護衛達も外獣を倒しながら前へと進む。ナノは俺達が作った安全地帯を進み、シャルル王女が付近に転がっていた騎士の剣を拾って彼女の傍に付く。
見知った道は崩壊状態だ。建物は瓦礫の山と化し、他と変わらず身体の何処かが欠損している死体もある。悲鳴は今も聞こえ、さながら地獄かと思わされてしまう。
今にも殺されそうになっていた市民達を守る為に雷を放って巨大鳥を焼き尽くし、地面を滑るように移動して十体以上も居る緑の小人の首を断ち切る。
飛び散る血が刀身を濡らすも、雷の熱が血を蒸発させていく。
血濡れの武器は剣の鋭さを奪っていくが、この剣にそれは無い。僅かな溜めの後に放った雷の斬撃は建物ごと巨人達の上半身と下半身を泣き別れさせ、一時的な道を構築させていく。
俺が範囲攻撃をすればする程に僅かな道が出来ていくが、同時に無数の外獣が集まってくる。この雷が外獣達を引き寄せ、彼等の敵対心を容赦なく煽るのだ。
「一度此方は外獣達を引き寄せながら離れる。 そちらは神住街に向かい、ナジム達と一緒に防壁を作ってくれ」
「ナジム様が死んでいた場合はどうしましょう?」
「そうそうあってほしくないが、その時でも一緒だ。 生き残った面々と協力して壁を作るんだ」
「解りました。 御武運をお祈りします」
「そちらもな」
雷を身体に纏う。微弱な痛みを感じながら建物を足場に中空を動き、上から敵の位置を確認する。
上空には主に鳥型の外獣。その少し下に肥大化した多色の虫型が居て、地面には種々様々な個体が存在している。さながら種族のごった煮とでも呼ぶべき外獣達は人を殺す為だけに動き、当然ながら此方も標的にされた。
虫だけでも数百。更に鳥や遠距離で飛ばせる武器を持った外獣が一斉に攻撃を開始し、一人間を殺すにしてはあまりにも過剰だ。
注目を集めてしまったからこそ、攻撃も集中する。
その分だけ他の面々が無事になるのなら、此方にとっては好都合。如何なる攻撃も雷を突破することは出来ず、放出した雷が煌めく度に相手ごと一気に焼き尽くす。
生き残ったとしても瀕死の重症だ。死んでいた方がマシに感じる程の激痛を受けながら外獣は死んでいき、最後には何も残らなくなる。
酷い個体は炭化して元は何だったのかも解らない。これでも雷の力は全力ではなく、上を目指せば先の一撃が完成する。それを使えれば一気に外獣も消えるのだが、同時に街の殆どが機能停止に陥りかねない。
外獣ではなく俺によって街が滅びるなど論外だ。
怯え始めた外獣達にも雷撃を落し、護衛達の様子を見る為に建物の屋上から屋上に移動する。
俺のように遺産を用いない限り、余程身体面が恵まれていなければ追い付くのは容易だ。現代であれば街の範囲も拡大しているので探すのは大変だが、今の時代であれば発見するのも難しくはない。
外獣を倒しながら必死に戦う護衛を見つけ、ナノに噛み付こうとした一本角の牛に直線の紫電を走らせる。
曲がらずに進むだけあって動きが読まれ易いが、その分だけ速度は異次元に手を掛けている。焼かれるどころかそのまま光は牛の首を焼き切り、断面を焦がしながら地面に転がった。
遠目に無事なままであるのを見届け、雷撃に惹かれた敵に刃を振るう。一撃で殺すことを心掛けるが、防御に優れている個体や攻撃方法が特殊な個体に関しては他よりも意識して殺し尽くす。
殺して殺して殺し、それでも全体の数が減った気配は無い。
空に跳ねてなるべく多くの敵を引き寄せているのだが、倒した先から次の敵が出てくる始末だ。一体何体倒せば落ち着くのだろうと思いながら断頭台の刃を相手の首に落とし、薄紙を切り裂くが如く命を奪った。
悲鳴の先に向かって襲われている人々を守り、瓦礫の山に埋もれた子供達を外に出してあげ、足掻いていた男達に群がる敵を吹き飛ばす。
助ける度に人々は一度驚き、俺に対して手を合わせた。
子供達は純粋に喜びを露にするだけだが、そうしている時間すらも惜しい。手を合わせるよりも生きることを最優先させ、彼等は皆一様に一ヶ所の方向に逃げている。その先にどんな街があるのかも定かではないし、避難したと思った先で襲われる可能性も否めない。
だが、彼等はそんなことなどお構いなしに一ヶ所を目指して大規模な河を形成している。
きっと彼等が逃げた先には彼等なりの理想の地があるのだろう。落ち着いたら確かめたいと思いつつ、漸く落ち着く始めた街中を眺めつつ神住街を目指す。
「全員無事か!」
神住街も外獣達の被害を受けている。
例外無く家屋が倒され、見知った人間の死体を見掛け、されど瓦礫や机や椅子等で構成された壁があった。
壁の山を一足飛びで通り抜け、内側で警戒していた人々の前に姿を現す。彼等は俺を見て直ぐに警戒を解き、喜びと共に肩の力を抜いていた。
見れば彼等の手には木の棒とナイフで作られた急造の槍が握られ、恐らくその指示を下したのはナジムだ。ナノでも同じ結論を出せたかもしれないが、人々が信用してくれるかが解らない。
「雷神様! その血は――」
「ただの返り血だ。 それよりも被害はどれだけ出ている」
「はい、早い段階でナジム様の指示によって壁を構築したので大きな被害は受けておりません。 畑を中心に外と首都に通じる大通りを全て封鎖し、若い男達に槍を持たせて警戒させていました。 自警団の方々は今は大部分が此処を守りつつ、一部が外に居る人々の救助を行っています」
「解った、ナジムの所まで案内を頼む。 それと俺と一緒に居た護衛が居たと思うが、そっちもナジムの所か?」
「そうです。 重要人物は全員一ヶ所に集まっています。 私が案内致しますので、此方へ」
男が周りに予想される事態に対する動きを別の人間に伝え、俺と共にナジムの居る家へと案内する。
ナジムの家は畑には近くない。この壁の中にある家を一軒借り、そこを緊急の活動拠点にしているそうだ。俺が皆の前を通り過ぎる度に人々から安堵の眼差しが向けられる。
まだまだ安心出来る状況ではないが、敢えて指摘をして不安に陥らせては狂乱の素だ。
やがて自警団と護衛によって守られた大きな家に辿り着き、俺の姿を発見した護衛達は案内役の男が言葉を発するよりも先に室内に入る。
「御無事で! お怪我はありませんか!?」
「此方は大丈夫だ。 そちらは?」
大慌てで出てきたのはナジムだ。彼は服を土や血で汚れさせつつも、元気な様子で俺を迎えてくれた。
それに合わせ、ナノやシャルル王女も出てくる。彼女達にも傷は一つも無く、護衛達が必死になって守ってくれたのだろう。
彼等に礼を言い、そのまま室内皆で入る。
部屋の中は家具等が全て無く、巨大な長方形の机があるだけだ。その上には端が破けた地図が広げられ、国内にある街の位置を大雑把に示している。中には手書きで書き込まれた部分も存在し、他の者から得た情報を使って精度の補強をしているのだろう。
「現在、あちこちに散らばっている討伐者達を首都に呼び戻しています。 これだけ侵入が許された以上、一度全員を首都に戻して避難している人達を守った方が無難です」
「そういえば彼等は一方向に避難していたな。 あの先には何があるんだ?」
「貴族達には内緒にされている秘密の街です。 規模も小さく町と呼んでも問題は無いのですが、その中には貴族達に嫌気が差して死んだことになっている人間が多数集まっています」
「多数……。 外獣達の脅威も退けられるのか?」
「はい。 外獣を討伐出来る腕利きの方達が街を守護しています。 ……私もその情報を拾ったのは最近ですが」
謎の街。急速に浮上したその情報に、暫し思考は回転した。