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救われぬ者に救いの手を~見捨てられた騎士の成り上がり~  作者: オーメル


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最終章:信仰はどこまでも

「おお、神よ……」


「尊き御方に御会い出来るとは思っておりませんでしたッ!」


 感涙に咽び泣く者、隣の人間と抱き合う者、貢物を用意しろと叫ぶ者、ただただ祈りを捧げるだけの者。

 種類は異なれど、彼等は皆一様に神に出会った奇跡に喜びを露にしている。俺という、まったくの偽物に対してだ。

 正直に言えば、まさかこれほどの事態にまで発展するとは想像していなかった。貴族達を牽制するだけの目的で神を名乗り、貧民街の住人には場合によって信仰者としての演技をしてもらう筈だったのだ。

 それ以外ではこれまで通りの付き合いをするつもりで、まさか全面的に信じるとは思っていなかった。

 隣には俺の前で跪くナジムの姿がある。彼もまた俺を神と信じる者の一人であり、つい数週間前とはまったく異なる態度をするようになっている。

 どれだけ俺が止めろと言っても、どれだけ俺が普段通りの態度をしても、彼は神として俺に向き合う。

 それが何だか諦めろと言われているようで、されど諦めきることは出来なかった。


 幸いだったのは王弟だ。

 残念ながらシャーラは俺を神として信じてしまったが、王弟だけは俺の言葉に頷いてくれた。人間として対等に接しくれる彼の姿は、今は一種の救いにもなっている。

 厄介事は他にもあった。貴族達が本格的に貧民街に寄り始め、何とか俺を貧民達の元から引き離そうとしている。

 その度に暴動一歩手前の状況が起き、俺は二つの勢力の間に立って仲裁をすることになってしまった。

 最初は伯爵位の人間が、次いで侯爵家の人間が。最終的には公爵位の人間すらも俺の前で跪き、このままでは王族が来てしまいそうで戦々恐々としている。

 今はまだ貧民救済を理由として無理矢理滞在しているものの、王達がどのような決定を下すのかは解らない。なるべき穏便に済ませたいところであるが、万が一の可能性を加味して最近は常に雷を操作する日々だ。


「雷神様、本日はシャーラ様が参られました」


「直ぐに向かいます。 皆はこれまで通りに。 鍛えている者達も日々の鍛錬は忘れないようにしてください」


「はっ!」


 まるで王様扱いだ。

 辟易とした気持ちでシャーラが居るであろう貧民街の入り口に向かうと、既に荷物を降ろしている騎士達の姿がある。

 彼等も俺の姿を見た瞬間に慌てて膝を付き、作業を中断させた。シャーラですらもそれは一緒だ。彼女の明るい部分を出来ればずっと表に出してもらいたかったのだが、彼女の父親が以前此処に来た際にひたすら謝罪をしていた。

 曰く、神に対して不作法な真似をして申し訳ないとのこと。シャーラは直ぐに処刑し、その魂でもって許しを請いたいと父親は焦り顔で語っていた。

 勿論それを許すつもりはない。別に処刑したところで此方は喜ばないし、もしかすれば先祖なのだ。此処で彼女が消えて兄妹の未来が消えてしまえば、折角の勝利に価値が無くなってしまう。

 だから俺は処刑を取りやめさせて、これからも商売を続行させた。偽の商売組織を維持させ、彼女には纏め役としての席に座らせ続けたのだ。

 

「雷神様、本日も御会いくださりありがとうございます」


「それの受け取りは私の仕事でもありますから。 成果はどうでしたか?」


「……その、ナルセ家が雷神様と接点を持っていたことで一気に人気になりまして。 もう予約までされています」


「予約ですか? ……それは大きさや種類を希望されたということでしょうか」


「い、いえ! 単に神様から頂いた宝石が欲しいと仰っているだけなのです!! 物の選別をするなど、もしも言ってくる方がいらしたら取引などしません」


「そ、そうですか」


 最近になってからというか、俺が彼女の処刑を取り止めさせてからというか。

 どうにも彼女は俺の言葉に過剰に反応するようになった。言葉一つ一つを神託のように受け、その目には明らかな熱を孕んでいる。

 その目に見られる度に何時か何処かで感じたような悪寒が背筋に起きるのだが、実害が無い限りは放置で構わない。

 遅れてやってきたナジムに資金の受け取りと次の鉱物達の引き出しを頼み、俺が許可を出した証明として雷操作で作り出した雷鳥をナジムの肩に乗せた。

 身体に触れてはいるものの、ナジムの服や肌が焼けることはない。繊細な操作をしているが故に、身の安全だけは死守している。ナジムは短い返事の後に騎士の協力を頼み、倉庫に向かって足を進めた。

 そのまま姿が消え、俺とシャーラだけが残される。


「最近はどうですか? アルバルト殿からはある程度首都の状況は知らされていますが、極最近についてまでは知ることが出来ませんから」


「貴族達は現在、神の出現に慌てております。 教会側もなるべく早期に神を保護したいそうですが、そちらの動きは王族側が防いでいるようです」


「それは……やはり奪われるのを阻止する為ですか?」


「誠に醜い話ではありますが、その通りです。 どちらの勢力も神の力のみに目を向けているようでして……」


 世間話に最近の情勢を聞いてみたが、想像通りの展開になっている。

 俺達の時代では特に強い権力を教会側は持っていない。だが、此方は話が別のようだ。どれだけ強大な権力を持っているかはさておき、王族が動かねば止められぬ時点で規模としては大きい。

 どちらも神の力を手にし、自身の勢力拡大を狙いたいのだ。もしも我が物に出来れば、世界を支配することも出来る。

 神の力とは一般的にそのように見られてしまうもので、つまりこれからも俺を此処から引き離す行為は続く。己で招いた行為であるので文句は無いが、人は何時の世でも権力や力からは離れられない事実に落胆は隠せない。

 地盤の無い力に何の価値があるというのか。この雷とて、そのまま振るうだけでは規模の小さい雷を放つことしか出来ない。

 日々の鍛錬と合わせることで力を引き出せる以上、遺産にも練度が求められる。

 その力を手にして笑うならば、自信を持って胸を張り続けることだ。――これこそが自分の力であると。


「……暫くは厄介事が多く起きそうですね」


「申し訳ございません。 何か問題が発生したようであれば直ぐに呼んでください。 必ず向かいます」


「ああ、いえ。 それには及びません」


 ひたすら恐縮する彼女に苦笑して断りを入れる。不思議そうな表情を見せる彼女に、いたって平気そうな顔で自分の言葉を告げる。


「邪魔するようならば、それまでですので」


 笑みを浮かべ、しかし威圧を込め。

 神の判決は人の判決よりも重い。黒を白へと変え、逆もまた起きる。少なくとも俺がまだ神だと思われている内は、此方の言葉を重く受け止めてくれるだろう。

 彼女はその目に畏怖を浮かべつつ、静かに膝を付いた。敬虔な信者が如くに手を重ね、頭を垂れる。

 そこに貧民街の住人との差異は無い。皆が救いを求め、同様の祈りを捧げるのだ。

 どうか神よ、我等を救い給え。

 その為ならば幾らでもこの身を捧げましょう。安息こそが幸福で、平穏こそが至高なのだから。

 俺自身が何処まで出来るかは解らない。元より全てを救うなど考えてはいないし、貴族達については死んでくれとすら思っている。

 だから、俺が救いたいと思った者達だけを救う。それが一番の解決になると信じて、彼女の肩に手を置いた。


「今日も稽古、しますか?」


「はい! 直ぐに準備をします!!」


「何時もの場所に居ますから、準備が済んだらそこに行ってください。 ではこれで」


 ナルセ家は俺が居なくとも強くなる。しかし、今の彼女が俺より強いとは断言出来ない。

 大侵攻の際、彼女の力は絶対に必要になる。決して手を抜かず、彼女には壁と達成の二つを感じてもらうつもりだ。

 師の存在が今は恋しい。どうか俺に教師としての術を教えてもらいたいと胸の内で考えつつ、広場へと足を進めた。

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