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救われぬ者に救いの手を~見捨てられた騎士の成り上がり~  作者: オーメル


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第七部:国崩し

 巨大な空間内で横たわっていた時とはまるで異なる大きさに驚きながら、その掌に乗っているアーサー達を睨む。

 彼等は無事だ。服の汚れすらない程の状態で満面の笑みを浮かべ、何時潰されるかも解らない怪物の傍に居る。それを自殺行為だと叫ぼうとして、しかしこんな個体が嘗て存在したことは無かったと思考は動いた。

 人工外獣は他の個体同士を掛け合わせ、より強い外獣を生み出すことを目的としている。その過程で人間への服従を擦り込み、手足の如く操れる人形を生産しなければならない。

 人間の命令に素直に従わなければ流石に彼等にとっても外獣は敵だ。早々に処分出来るなら兎も角、強大になってしまった個体は彼等の静止を振り切って外の世界に向かってしまう。

 その中で、人型のような個体は数える程しかない。巨人系が人型に該当するものの、それでも明確に違う部分は存在する。

 一つ目であったり、知能が不足していたり。人間に近い見た目でありながらも、彼等は他の外獣と一緒だ。

 

 であれば、この巨人を遥かに凌ぐ巨体を持った怪物の正体は彼等の近親種か。

 少し考えてみるが、どうにも納得が出来ない。目の前の相手を同じ巨人として見ることは不可能で、もっと別の者を源流として誕生しているように思える。

 俺が見たことのない外獣は山程には居るが、それでも図鑑によって大部分は網羅している筈だ。その上で巨人を超える体躯の持ち主は存在せず、残りの可能性としては未発見か一体か二体程度しか誕生しない強大な外獣かのどちらか。

 どちらにせよ厄介なのは間違いない。

 あれだけの巨体がある時点で斬撃で傷を付けても微々たるもの。師が全力で攻撃すれば足の一つや二つは切断出来るだろうが、それを許すだけの隙を向こうが与えはしない。


「……これが連中の切り札か」


「師匠、何処か切断は出来ますか」


「時間を掛ければ、と言ったところでしょうか」


 その言葉を言えるだけでも十分に肝は据わっている。

 このまま巨人を動かせば、歩くだけでも甚大な被害が発生するだろう。出来れば動く前に仕留めたいと声を大にすれば、全員が肯定の声を放った。

 巨人はまだ動かない。肌色の皮膚一色に染まった体躯は直立を維持し、掌の上に立っているアーサーは何かを叫んでいる。

 彼等にとっても動かないのは想像の埒外なのかもしれない。ならば今こそが好機だと、全員で足へと殺到した。


「人型であるなら足を潰せば移動は困難になります! 男性陣は腱を狙い、女性陣は関節を狙ってください!」


「ネル様、私が右です!!」


「了解!」


「此方はランシーン様と二人で切断を目指します!」


「では最初に右です!」

 

 女性陣が比較的柔らかい部位を狙い、俺達が腱を攻撃して徹底的に足を破壊する。

 巨人もそうだが、人型の外獣は人と同じ構造をしていることが多い。一部はそうではないが、心臓が一つであることや生殖行為が同一であるなど、人を相手にした場合の戦いが使い易いのだ。

 ネル兄様と俺は共同で腱がある部分に刃を突き刺す。赤い血が服を汚すものの、そんなことはお構いなしに一気に横に斬った。

 しかし、ネル兄様の剣でも相手の腱までは到達していない。何度も攻撃する必要があると再度血が流れる肉に刃を突き立てると、上から絶叫が轟く。

 鼓膜を叩くその声に口角を釣り上げ、今度は確実に腱を切断した。

 横目で師が右足の腱を破壊しているのを見届け、ネル兄様と視線を合わせて上へ行くことを決める。肌色を駆け登り、道中のノイン達を追い越し、そのままアーサー達の背後を取った。

 突然の出現ではあるが、下から俺達の動くが見えるアーサー達に焦りは無い。

 即座に穴が展開されて武器が射出されるも、それを全て吐き出すにはあまりにも距離が近過ぎる。二人で破壊しながら進み、片方の遺産持ちに狙いを定めて一気に接近。

 動揺すらさせる隙を与えず、胴体に刃を刺して掌の上から投げ落した。


「デニッシュ!?」


「――次はお前だ」


「ッ、っぐ、!」


 掌の上から地面まではかなりの距離がある。

 落ちれば何の準備もしていない身体は簡単に折れ、打ち所が悪ければ死ぬだろう。例え生きていたとしても移動も困難だ。あの穴が瞬間移動も出来るのであれば話は別だが、それをするにはもう片方が近くに居なければならない。

 片方が消えたことで穴の展開が消える。師の予想通り、二人で一つの能力を発動していたようだ。

 

「どうやら想定外の事が起きたみたいだな。 ……大人しく降参しろ」


「まだだ。 私にはまだ手が残されている」


「いいや、手は残されていない。 例え今からやろうとしても、その前に俺達の剣がお前の首を刎ねる」


 アーサーも隣の遺産持ちも、どちらも身体を鍛えている訳ではない。

 俺達の剣の動きについていけず、首筋に剣を僅かに当てたことで漸く俺達の攻撃に気付いた程だ。尋常ならざる量の汗を流す姿に、追い詰められていることを此方も理解する。

 このまま素直に刃を落せば、そのまま絶命するだろう。

 出来れば直ぐにでも殺してしまいたいが、それをする前に吐いてもらわなければならない情報がある。


「正直に答えろ、これは何だ」


「……言うと思いますか?」


「言わねば、このままお前は何も成せずに死ぬだけだ」


 ベルモンド家の長年の悲願も達成されず、アーサー本人の目的も達成されずに終わる。

 彼自身の矜持を刺激する言葉を選べば、その顔に焦りを凌駕した怒りが表に出てくる。誘導されていると解っていながらも、彼は俺に対して少しでも情報を与えなければならない。

 そうせねば生きれないのだから。折角若返ったというのに直ぐに死んでは何の意味もないだろう。

 

「――これは遥か三百年前に先代が当時の最高位冒険者に依頼して捕獲した最上位の外獣の子孫です」


「やはりか。 なら、これで何をしようとしていた」


「勿論、国を落すのですよ。 この国も、他所の国も全て」


「出来るとでも? 攻撃が簡単に通るし、指示を全く受け付けていない。 脆いだけの壁に何の価値がある」


 国を落す。巨体であれば出来ることであるが、この巨人にあるのは攻撃力だけだ。

 防御力は皆無と言って良い。ある程度鍛えた冒険者であれば容易く肌を切り裂いて筋肉を切断出来るだろう。そんなものを切り札にする理由は無い筈だ。

 だが、アーサーは俺の言葉に嫌味に満ちた笑みを見せた。


「確かに、あれは柔い。 如何なる攻撃も簡単に通し、その脆さは人間に近い。 ――ですが、唯一秀でた部分があるのも事実」


「秀でた部分?」


「貴方は何故、今もこうして尋問出来ているのか解らないのですか。 何故足を狙ったのにあれが倒れていない?」


 言われてみれば、師が居るにも関わらずにこの巨人は体勢を崩していない。

 俺とネル兄様の攻撃ですら簡単に断裂を起こせたのだ。師が出来なかったと思える筈もない。であれば、何かあったのだとネル兄様に剣を突き付けてもらうよう頼んで俺は下を覗き込んだ。

 現在の位置から腱は見えない。だがノイン達が今も関節を攻撃している姿は見えている。

 一撃一撃は確かに巨人の肉を断ち、その断面に違和感は無い。――そして、断面同士が急速に繋がり始めた。

 斬られた瞬間から再生は始まり、彼女達が再度斬る頃には元通りだ。この分では俺達が斬った腱ももう元に戻ってしまっているだろう。

 尋常ならざる再生は師の攻撃すらも上回る。防御を捨てたからこその回復能力は、この巨体さと合わさり脅威と呼ぶに過言は無かった。


「見たでしょう。 あれがこの外獣の特質。 反則的なまでの再生能力は如何なる攻撃も通さず、その回復力の前ではあらゆる人間は歯が立たない」


 これが彼の自信の正体。例え己が追い詰められようとも負けを認めぬのは、この巨人が生き残ると確信しているからだ。

 そして、こうまで何度も回復していれば流石の巨人も何かしら反応を示す。頭部を動かし、目の無い顔で此方を見やった巨人は、大口を上げて唸り声を漏らしていた。

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