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救われぬ者に救いの手を~見捨てられた騎士の成り上がり~  作者: オーメル


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第六部:親馬鹿

「貴族の選別は終えた。 抱えた私兵も全て追加し、冒険者と国軍を含めた五万の戦力でベルモンド家を滅ぼす」


 裁定は下った。

 正式に発表された王の言葉に、全員が頭を垂れて何も口を挟まずに受け入れる。

 最初に王宮の元に来てから、気付けば随分と貴族の数が減った。その殆どは死者の世界に旅立ち、極一部は恐怖のあまり自身の屋敷に引き篭もっている。

 最早暴挙とも言える程の粛清の数々に臣下達は何も言えない。恐ろしさが先行しているのが大きいが、それに加えてあまりにも消されるに足る理由を貴族達は抱えてしまっていた。

 ハヌマーン排除に動いた勢力はあらゆる王子の勢力に加担していたのである。こと彼の排除という一点のみで言えば貴族達は垣根を超えて手を結び、どうにか消してしまいたいと願っていたようだ。

 その果てが一族郎党全ての斬首。笑えない結末であるが、お蔭で此方が動き易くなったのも事実。

 

 王の選択が間違いだったと俺は思わない。

 そのやり方に慈悲は無かったものの、彼等は消されても文句が言えない連中だ。余罪を追及した際にも多くの犯罪が発見され、偶然出会った騎士団長に溜息混じりで愚痴を聞かされたものである。

 賄賂に、搾取に、奴隷に、亡命。稼げるだけ稼いで他国に避難するとは、同じ人間として非常識極まりない。

 市民からも彼等が斬首された際には喜ばれた。そうでなければ此方の苦しみに釣り合わないと溜飲を下げてくれたようで、平民側は更に王族を支持してくれている。

 そうなった切っ掛けが明るいものではないとはいえ、ハヌマーンであったのは確かだ。

 故に、王族の力が強まった功績はハヌマーンにあると王は考えている。それを実際に口に出している訳ではないが、ハヌマーンの扱いが明らかに他の王子とは異なるようになった。


 具体的に言えば、王の政務にハヌマーンが同行する機会が非常に増えたことだ。

 これまでは第一王子が政務の際に傍に居る機会が多かったが、彼よりも多くの時間をハヌマーンは過ごしている。政務は勿論、私用の時間でも一緒に居ることが増えた。

 王と王子が一緒の食事を取らないことなど常識だ。共に働いている以上、どうしても食事の時間は互いに違う。

 だが、王はハヌマーンの食事時間に彼と一緒に食事を取った。会話には仕事に関係する部分は無く、どこまでも世間話だけだ。

 見ているだけで解る。あれは王と王子の会話ではなく、親と子の会話だ。

 ハヌマーンもそれを理解して子として父に話し掛けているし、王も父としてにこやかに話し掛けている。

 

「今度、ハメルを此処に呼ぼうと思っている。 出来ればこの王宮で暮らさないかとな」


「母をですか? ですが……」


「ハメルは平民だから入れないだろうと? ……それはもう古い常識だ」


 ハヌマーンの母親は今も王都で暮らしている。

 王の愛人として秘密裏に金を渡され続け、彼女は少々の豪遊ならば一年は続けられる程に資金を持っていた。


「俺の所為であるとはいえ、王女は自身の席を崩壊させる程の問題を起こした。 出来れば彼女にも相応な暮らしを続けさせたかったが、実家が問題の種の一つなっていた以上は排除せねばならない。 だから、もう彼女は貴族としての身分すら無くしている」


「では、私の母を正妃に据えるつもりですか?」


「それを彼女が望めばそうするつもりだ。 彼女は最初に会った時、酷く此方を不安にさせるような女性だった。 本当に平民なのかと思う程に神秘的で、いっそ幻想だと思った方が楽に感じる程に儚かった」


 俺が渡した金も、彼女は一回も使用していない。

 その言葉にハヌマーンは驚きに顔を染めた。ハヌマーンが母と時折連絡を交わしていたのは臣下として知っていたことではあるが、驚きの顔を見る限りではまったくその点については書かれていなかったのだろう。

 

「俺の臣下から金については問題が無いから送るなと手紙が送られてきたよ。 ……だが、俺の心は彼女の言葉に素直になれなかった。 だから王宮に呼び、ハヌマーンの親として貴族位を与える。 その上で彼女を守り、必要であれば妃としての位も与えるつもりだ」


 現在の正妃の席は空だ。

 王女は消え、王宮には王の嫁と言えるような人間はいない。ハヌマーンの母親を正妃に据えるのは不可能ではなく、平民だからと蔑む声もハヌマーンという前例のお蔭で随分と抑え込めるだろう。

 とはいえ、王妃にも仕事はある。それをやり遂げられるかどうかはやはり王妃自身の精神力が必要で、時には他国の行事にも参加せねばならない。

 彼女が正妃を求めるとは思えないからこそ、王もまた必要であればと考えている。

 ハヌマーンもまた、自身の母が正妃になりたいとは思っていない。どうしたとて、彼女と王は一夜の過ちをしてしまった。そんな人物が王宮に入れば、平民であるかどうかよりも別方向から陰口を叩かれるのは間違いない。

 男性も男性で悪口は強烈だが、女性の方がより陰湿だ。

 露見しないように小さな悪事にも凝った工夫が施され、彼女の精神が破綻を迎えれば敵にとっては万々歳。発狂しながら暴れるようになれば、流石に誰もが王の女に相応しくないと認識する。

 精神が強そうではない女性であるならば、王宮の用意する数々の差別は堪えるだろう。忘れてはならないが、ハヌマーンの敵を全て葬っても差別自体は残っているのだ。

 

「父よ、母が王宮に入りたくないと言った時はどうするのですか」


「説得は重ねるが、無理強いをするつもりはない。 拒否するのであれば、彼女はそのまま街で住まわせるさ。 決めるのは私ではなくハメルだ」


 母親は王都に残ろうとするだろう。

 自身が産んだ息子と一緒に居られないことを気にはするだろうが、最早ハヌマーンは自立が出来ない子供ではない。

 彼女が居なかったとしても王都に出れば会えるのだ。ならば、ハヌマーン自身は何の問題もなかった。どちらを選んだとしても、ハヌマーンにとってはどうでもいい話。

 母親は守る。単純明快ではあるものの、だからこそ強い言葉だ。それは俺の中には無いもので、恐らく王にも無いものだろう。

 王の父も母も決して弱い人間ではなかった。誰かに守ってもらう必要が無い程に武と知に長け、世界中から完璧な夫婦であると言われていたのだ。

 それを俺は本の中でしか知り得なかった。まともに貴族達を知ろうとはしなかったし、知っている情報達も表面をなぞったものばかり。

 

「では、母は王都に住み続けるでしょうね。 これまでと変わらず、これからも変わらず」


「どうだろうな」


 ハヌマーンは小さく笑い声を漏らし、王は穏やかな声で告げる。

 まるで賭けをしているかのような話だ。母親がどちらに転がるのかを予測して、そしてどうなろうとも二人は守ると結論を出している。

 平和だ。部屋の端で護衛役として立っているだけだが、その穏やかに睡魔すら襲ってきそうである。

 だが、王は存外周辺にも意識を巡らせていたのだろう。いきなり顔を護衛である俺や兄妹達に向け、悪戯な笑みを零した。

 

「そういえば、今回の事件が終わったら婚約者でも探そうか」


「……唐突ですね」


「何、お前くらいの年齢なら既に居ても不思議ではない。 ――それに、お前の腹心であるザラの嫁も用意した方が良いだろう?」


 突然の爆弾発言に時が静止した。

 俺の頭は一体何を言っているんだとそればかりで占領され、思わず向かい側に居る兄妹達に顔を向ける。

 兄様は苦笑をしているが、ノインの方は鬼の形相だ。どのような理由でそんな顔をしているかは定かではないものの、間違いなく嫁探しについて文句があるのだ。

 ハヌマーンも驚いた顔で俺と王の間で視線を彷徨わせ、困ったような顔を見せてしまう。


「お前達の能力については何も心配していないが、一部の隙も埋めるには婚約者は必要だ。 これは避けられない問題だと思っていた方が良いだろう。 これが解決すればハヌマーンも完全に王族の仲間入りとなるのだから、自身の娘を嫁にと詰め寄る貴族は多いぞ?」


「いろいろツッコみたいのですが、流石にまだ早いと思います」


 王の言葉には納得出来るが、それよりもハヌマーンのツッコみの方が今の俺の心情に当て嵌まっていた。

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