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救われぬ者に救いの手を~見捨てられた騎士の成り上がり~  作者: オーメル


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第六部:獣の王

 王妃に与えられた罰は国外追放だった。

 彼女と彼女の実家から資料に記載された証拠品が新たに発見され、正式に国内に発表。貴族達は突然の情報に大混乱に陥ったが、そんな彼等の様子を一切気にせずに王は死刑を宣告しなかった。

 それに対する批判はある。資料に載っていた人間達は一族諸共に捕縛され、現在は尋問及び拷問によって情報の吸出しが始まっている状態だ。

 吸出しの終わった人間はほぼ処刑され、一時的に宮殿の処刑場は血に染め上がっていた。

 幾人もの嘆願と悲鳴が宮殿内で響き渡り、貴族達は王に怯えながら日々過ごしている。だからこそ資金源だった王女が処刑されない事実に納得出来ず、怯えながらでも彼等は正当性の為に批判を繰り返すのだ。

 これが私的な理由であるのは誰であれ解っている。

 俺達は王妃がそんな真似をしてしまった理由を知っているから何も言わないが、周囲はそうではない。王妃自身が王を守る為に説明をする必要は無いと説得し、彼女は最後まで悪者として追放されることになった。


 王子達も今回に限っては大慌てで宮殿に戻った。

 初めて他二名の王子と顔を合わせたが、王と王妃の子供なだけあって見事なまでの美形揃い。しかし、その二名の顔は悲しみと怒りで支配された理性的なものではなかった。

 身内の中で確りとした説明はされている筈だ。最終的に王子達は全員理解はしていたが、それでも納得にまでは至っていなかった。

 この一件の原因は全て王にあると久方振りに会ったシャルル王子は苦々しく話し、恐らく他の兄弟も同じ結論に到達している。その流れを断ち切ることは誰にも出来ず、結局王達の間に確かな溝が生まれてしまった。

 それを埋める術は無い。現状は王が王女達の一族に対して様々な援助を施すことで対立関係にはなっていないが、その援助が露見すれば貴族達の反発によって直ぐに止められてしまうだろう。

 そうなれば今度は王子達が文句を言い始め、最終的に最も恐れていた謀反が起きかねない。


「これで八割が消えたね」


「管轄領地に大きな隙間が出来てしまいましたけどね。 王様は新しい貴族を用意するみたいですよ」


「一部の大商人を格上げさせるようだよ。 彼等が商売を行う敷地を増やせば、それだけ物流も安定するからね」

 

「彼等が善良な商人であることを祈るばかりです」


 大粛清が終わった頃には宮殿も随分静かになった。

 何処で誰が陰口を聞いているかも解らないのだ。侍従達ですらも口を噤んで仕事に徹し、何時も通りなのは騎士達くらいなものである。

 ハヌマーンもやっと言うことを聞くようになったギルドマスター達と日夜話し合いに明け暮れ、支部の健全化に注力中だ。既にギルド支部に設置する施設や支部そのものの大きさも決められ、設営時の資金を出せないギルドマスター達には国から資金を提供するようにしている。

 冒険者達がどんな施設を求めているのかについては俺やランシーンが中心となって冒険者達に直接意見を求めた。

 身分は隠したままだったので収集に多少時間が掛かったものの、それでも集まった意見の質は高い。

 施設内容と具体的な理由が正当な内容であれば吟味した上で設営し、人員も元店員や元店主を中心として集めた。

 店員には孤児や浮浪者を用い、全体的な餓死者も減少させられるように尽力している。文字や計算についてはナノが学長を務めている学び舎の卒業生達が教え、市民達の新しい選択肢を用意させていた。

 

 これによりハヌマーンの存在は市民達に好意的に受け入れられるようになり、ギルド支部に調査に赴く際には彼の手際を褒める声も聞こえるようになった。

 その事実を誇らしく感じはするも、やはり完全には終わっていない。王都を中心に円形に進めてはいるものの、始めたばかりの政策は常に問題と激突することはある。

 その度にギルドマスター達と話し合いを開き、地方ごとの問題解決や人種差別の改善にもハヌマーンは取り組んだ。

 その姿に子供らしさはない。自身が本来ならば生まれない存在であるからこそ、彼は彼なりに王族に貢献しようとしている。

 王もその姿勢は知っているが、褒めるような真似はしない。

 しかし、一度だけ彼の姿を報告した際に王様は言葉を漏らしたのだ。――――後継者を変えるかもしれないと。

 王はこの一件によって家族に対する不信を抱いてしまった。勿論表面上は何時もの関係を維持しているものの、勘の良い人間ならば見抜いてしまうかもしれない。


「最近ね、考えることがあるんだ」


 シャルル王子の部屋で、俺と彼は机を挟んで向かい合うように座っている。

 周りには誰も居ない。扉の前に騎士が二人居るだけで、侍従も居ない部屋は酷く広く感じた。

 柔和な笑みに影が入ったシャルル王子の顔は寂し気で、これから話す内容が決して明るくないことを教えている。個人的な内容を俺如きが聞いてもいいのかと思いはするものの、ここで断るのは違うと自分を戒めた。


「母のしたことが間違いであることは確かだ。 そもそも王は側室を作っても良いし、愛しても問題は無い。 周辺国との友好の為に政略結婚をするような出来事は有り触れていただろう」


 でも。


「王はあの人も愛していた。 大なり小なり慈悲が混ざっていたとしても、ハヌマーンの母親を愛していたのは間違いない。 たった一度しか会っていないにも関わらずだ」


 それだけハヌマーンの母親との出会いは刺激的だったのだ。

 その瞬間だけは王女を忘れてしまう程、彼等は障害を気にせず抱き合った。朝になった時に理性を取り戻して母親の方は距離を取ったに違いないが、愛したのは間違いない。

 

「我々の母と王は政略結婚だった。 愛し合って結婚したのではなく、結婚してから愛し合った仲だ。 胸を焦がすような恋愛をしていない代わりに、二人の仲は静かに進んでいた。 勿論、それは悪い意味じゃない」


 シャルル王子の言葉から推測するのならば、あの二人の間柄には特別強い想いはなかった。

 そうした方が都合が良かったから二人は結婚したのであり、しかして元から相性が良かったのだろう。だから仲も深まり、結果として幸福な家族を築くことが出来た。

 王族によっては不幸な結婚を強いられることもある。本人が望んでいなくとも結婚するのは日常茶飯事で、言ってしまえば彼等は運の良い結果を引いている。

 

「だが、王はあの性格だ。 獣の性質を色濃く持っているから、どうしても熱い恋愛を求めていたのかもしれない。 王族だからと耐え続け、溜まりに溜まった分が爆発したと考えるのはそう難しい話じゃない。 ――――どうしようもないからこそ、こうなるのは決まっていたんだろうね」


 寂しい笑みが俺に向けられた。

 世は儚く、泡のように容易い。人間とは本来脆い生物であり、例え他より抜きん出ていても限界は当然ある。

 故に何時かは起こり得たのだとシャルル王子は飲み込んだ。無理矢理であろうとも、父親と争いたくないが故に。

 理性が強い。現実を正しく見つめ、いっそ冷徹に全てを計算したのだろう。他の王子がどうかは知らないが、為政者としては理想的であるとも言える。 

 しかし、それで本当に良いのだろうかと胸に疑問が芽生えた。

 我慢した先に何があるというのか。耐えて耐えて耐え続け、父と同じ様に爆発しないとどうして言える。

 飲み込んでしまうだけで終わってはならない。そう言おうとして、顔を上げた際にシャルル王子の強い眼差しと激突した。


「だから、僕は失敗しない。 欲しい人間が居るならば、必ず皆が納得出来る理由を用意してから勧誘する。 犯罪に走らせるような真似はさせない」


「……どうしたのですか?」


「事前説明だよ。 これから君には一つだけ真実を教えようと思う。 それを聞いてどうするかは、君が決めてくれ」

 

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