表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救われぬ者に救いの手を~見捨てられた騎士の成り上がり~  作者: オーメル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

131/251

第六部:視察

 ゆっくりと。誰の目にも入らぬように。

 冒険者としての普段着に身を包み、俺とランシーンは一台の馬車を動かす。懐に入っている紙には偽の依頼書が存在し、受理されたような判子が押されている。

 今回の王の視察は有力ギルドを全て巡るように進む。護衛は俺とランシーン、馬車内にネル兄様とノイン。更に騎士団長にもこの話を行い、秘密の伝令を受けた際にはほぼ全ての騎士団を動かすことが決定されている。

 とはいえ、王の護衛としてはあまりにも数が少ない。今回の件を敵側が知っていれば即座に暗殺されるだろうが、既に一つ目のギルドに到着しているので目論見が露見しているということは無いだろう。

 油断は禁物だが、周辺に怪しい者は居ない。護衛対象が護衛対象なだけに最大級の警戒を常時しなければならないのが大変だ。

 

「……着きましたね」


「はい。 やはり随分と大きいですね」


 俺は二度目だが、彼女はこれが初めてだ。

 一つ目の有力ギルド、カルボネという名前が入った街の支部。建造物は四階建てと破格なまでに巨大であり、如何に金を大量に投げ込んだのかが伺わせる。

 壁も煉瓦造りで、扉は鉄製。開けるのに少々力が居るものの、僅かながら中に浮いているお蔭で簡単に開いた。

 内部の様相も随分と違う。赤いカーペットが全面に敷かれ、ギルドマスターが使っている執務机と同じ材質の机や椅子が幾つも並んでいた。

 依頼書が張られているボードもコルク材質ではない。大理石の一枚板に依頼書が掲載され、ランクも綺麗に分けられている。

 これならば冒険者の層を確り別けることが出来るだろう。低ランクと高ランクが依頼書を奪い合う時間も減り、仲裁の為に職員が怪我をする割合も幾分か減っていくのも間違いない。

 入口には警備用の人間も居る。元冒険者なのか元騎士なのかは不明だが、一定の強さを持っている筈だ。

 

 全体を見て、やはり此処は平民には働き易い環境だと思わせられる。

 冒険者を相手にする職員は日々暴力と隣り合わせになる為、必然的に給料も多い。それでも平民がギルドマスターだった場合、渡せられる給料にはどうしても限界がある。

 他よりは良いだろうが、僅かな差だ。暴力と隣り合わせになるくらいならば別の仕事に就いた方が安全だろう。

 しかし、此処のように余裕があれば違う。限界は決めているだろうが、よっぽど多く給料を渡せる。

 金の影響力は絶大だ。多くの人間が金銭を多く持っている人物や建物に近付いて行き、自然と従ってしまう。此処もその例に漏れず、故にこそ多大な発言権を持っているのだ。

 このギルドを治めている人間が伯爵位であることも影響力の大きさを物語っている。


「……さて、じゃあ始めましょうか」


「なるべく目立たずにですね」


 首肯しつつ、受付に足を向けた。

 受付係は女性二人。妙に身綺麗であり、一瞬高位の人間かと錯覚を覚える。

 しかし、彼等の所作はどこかぎこちない。覚えたての動作を繰り返しているようで、これでは平民は騙せても貴族は騙せない。

 その受付嬢に対し、俺は一枚の封筒を出した。

 必然的に視線はそこに向き、彼女達は驚愕に目を開く。押されている封蝋には狼が描かれ、持ち主は誰であるのかを明瞭にしている。


「ギルドマスター殿に御用が御座います。 どうか、早急に出ていただきたい」


「か、かしこまりましたッ。 直ぐに御呼び致します!」


 片方の受付嬢が足早に受付から離れ、ギルドマスターが居るであろう場所に行く。

 もう片方は此方に対して深く頭を下げ、周りの冒険者は受付嬢の様子に困惑の眼差しを送っている。このまま進めば進む程に困惑の波は広がっていき、誰かが此方に声を掛けるのは間違いない。

 入口の門番達は警戒感を露にしている。本日は何の用も無いと言われていたのか、此方のことを不審者か何かと考えているのかもしれない。

 しかし、そんなことはどうでも良いことだ。直ぐに事態は動き、嫌でも門番達は選択を迫られる。

 素直に従うのか、それとも反逆の意思を示すのか。従えば何もしないし、反逆すれば切り捨てる。この門番達に然程の価値は無いのだから、無視しても良いのだ。

 暫く待ち、鈍重な足音が聞こえてくる。受付の後ろに設置された扉が勢いよく開き、そこに脂肪をたらふく溜め込んだ金髪の男が居た。

 表情は焦りに満ち、一体何事かと此方を見やる。それに対して此方は頭を下げたものの、要件を告げなければまともな返答をしてはくれないだろう。


「突然の来訪、誠に申し訳ございません」


「そんな挨拶はどうでも良い! い、一体何の用だ!!」


「――視察でございます」


 俺の言葉に、男は簡単に目を驚愕に剥いた。

 口は何度も開け閉めを繰り返し、しかし最後には黙り込むしかない。王の命令では絶対であり、それに逆らうということは何かを隠していると公言するようなものなのだから。

 突然の事態。きっと彼にはそう見え、焦燥具合からこの施設に何かを隠していることは明白。

 隙間無く調べれば、間違いなく何か出てくるだろう。もしも今回の王子の敵に関する名前が出てくれば、その時点で裁くべき対象も見えてくる。

 ランシーンで目で合図を送り、頷いた彼女はそのまま馬車に向かう。

 少しすれば扉は開かれ、ゆっくりとした動作で王とハヌマーンが姿を現した。両脇に兄妹が立ち、周辺への威圧を込めて殺気を振り撒いている。

 莫大という程ではないが、その威圧だけで大部分の冒険者達は足を止められた。


「――久しいな、ナラカ伯爵」


「お、お久し振りでございます。 陛下」


 王が出てきたことで嘘ではないと漸く理解し、慌てて王の前で臣下の礼を取る。 

 豚のような体格をしているものの、その所作は綺麗だ。貴族として生きている以上は当然なのだろうが、やはり本物の方が違和感も少ない。

 しかし、如何に所作が綺麗であっても本人は脂汗を流している。横目で見る限りは頭を下げながら目を見開き、この状況をどう乗り越えるかと必死に考えているみたいだ。

 本人に武力は無い。見るだけでも体幹は確りしてはおらず、走っていた姿にも隙は多く見えた。彼に比べれば門番の方が余程実力が確りしているだろう。

 彼は実力で管理しているのではなく、真に管理者としてギルドマスターをしているだけだ。故に信頼は最初から存在せず、周りが彼に向ける視線も決して色好くはない。

 平均的な貴族だ。少なくとも、大物といった雰囲気はそこには無い。


「今回はハヌマーンが仕事をするようになった初の視察だ。 この領内を見回るつもりだが、ついでにギルド支部を見るのも悪くはない。 そうだろう?」


「そ、そうでございますね! では早速準備をさせていただきます!!」


「いやいや、それには及ばない」


 王は一度周囲を見渡し、再度ナラカ伯爵を見やる。


「皆が何時も通りに過ごしているのだ。 ならば、そのままの仕事風景を見るとしようではないか。 勿論、伯爵の仕事風景もな?」


「は、はいぃ……」


 最後は消え入りそうな声だったが、その返事に王は満足そうに息を吐く。

 伯爵を立たせ、俺とランシーン以外は彼の仕事場へと向かう。そこで本当の目的を告げ、彼を断罪するかどうかを決めるつもりだ。

 その間に俺達も行動せねばならない。ナノがギルド同士の連絡係を常に何処かに配置している筈だと予測し、俺達にその排除を要請した。今回の情報が他所に漏れれば早急に王を足止めする体制を作られかねない。

 だが、その心配も杞憂だ。何せ俺が見ている限り、怪しそうな人間は直ぐ傍に居るのだ。

 あらゆる平民達の中で最も貴族と会う必要がある以上、所作に気を遣うのは当然。付け焼刃でも学ばねばならず、その上で美しさも加味して連絡係は決められているだろう。

 受付役の女を見る。不自然なまでに身綺麗にしている彼女は、俺達を恐怖の眼差しで見つめていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ