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救われぬ者に救いの手を~見捨てられた騎士の成り上がり~  作者: オーメル


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第五部:強制滞在

 朝。

 予約していた宿で夜を過ごした後に、俺達は手早く準備を済ませる。

 時間は少ない。出来る限り多くの街の状況を見なければならない以上、出る時間も酷く早くなってしまう。

 個人的にはもう少し観光でもしてみたいところだが、それをしては最早休暇だ。これが仕事である限り、ゆっくりと過ごすことなど出来ないだろう。 

 別部屋のランシーンと合流して一階にある食堂で朝食を食べる。

 今日の食事は焼き魚と野菜スープだ。一匹一匹がかなり大きく、一人前と呼ぶには些かに過剰。海で働く人間向きの量にしたのだろうが、ただの客には十分過ぎる。

 しかし、俺達にとっては丁度良い量だ。普段から暴食ではないものの、食事の量はやはり多い。

 体力を大きく消耗する身としては、何時でも大量の食事をしたいものである。


「次は何処の街に向かうのですか?」


「次は山の麓にある小さな町です。 途中に外獣が生息している森がありますが、情報の限りだと強い個体は存在しないとは言われていますね」


「そうですか……」


 朝食を共に食べている間に次の街についての話題が上がるが、聞いた本人であるランシーンは何処か不満気な顔をしている。

 この町をそのまま放置するのに納得していない部分があるだろうし、一度関わった少年が今後生きていけるのかも確かめたいのだろう。

 俺も時間があればもう少し関わっても良かったが、私よりも公を優先せねばならない。

 そうでなければ信頼してくれたナノ達に申し訳が無いし、王宮に住まう別の人間達の信用を得ることも難しい。貴族は相変わらず納得しないだろうが、成果についてだけは間違いなく無視出来ない。

 王族であるという噂だけで行動した騎士団長同様、俺の情報によって動き出す人間も必ず居る。冒険者の動向については貴族だって知りたい筈だ。

 そして、俺が移動すると決めた以上はランシーンは口を挟まない。

 これが王宮から与えられた仕事であると彼女も理解しているのだから、文句など言えないのだ。


「私達の仕事は現在のギルドの状態を知ることですよ。 あの少年のことは些か心配なのは同意しますが、それで手助けをしても彼の成長には繋がりません」


「……すみません。 一度関わると何となく気にしてしまいまして」


 少年の今後は間違いなく良いとは言えない。

 鍛錬だけでも地獄であるし、その結果として依頼達成速度を上げることが出来るとも言えない。報酬をあげるにはやはり危険度の高い仕事をするしかなく、お金に困っている彼がそこに飛び込む可能性はある。

 加え、街の冒険者の質もあまり良いとは言えなかった。あの時は少年を助ける以外何もしなかったが、報復の為に少年に危害を加えることもあるだろう。

 冒険者だから復讐を行い易いとは言わないが、一度恥辱を味合わせられた相手に強い殺意を覚えることはある。

 伊達に外獣相手に戦っている訳ではないのだ。あの男が少年に向かって暴力を振るえば、それこそ一瞬で少年の頭程度潰されかねない。

 ランシーンが気にしているのはそこだ。だが、冒険者になればそんなことは幾らでも起きてしまう。

 如何に健全化の為に動こうとも、個人の問題に対し過剰に介入するのは御法度だ。もしもそれをするのであれば最後まで責任を持たねばならず、最悪どちらかに恨まねかねない。

 

 俺達が行うのは理不尽の除去であるが、必ずしも全ての理不尽に対処するものではない。

 冒険者の質の向上、管理体制の見直し、協力施設の増加等に尽力すべきであって、個人の未来に目を向けるべきは親しくなった冒険者同士で良い。

 どれだけギルドの状態を良くしたとしても、自身の道を決めるのは自身だ。

 そこだけは何をどうしたとしてもやってはいけないことであり、そこに手を出してしまえば監視と変わらなくなってしまう。

 誰だってそんなギルドは嫌だろう。だから、少年がどんな道を選んでもそこに過剰に介入してはいけないのだ。

 話を纏め、宿屋を出る。今日は冒険者が戻ってきただけあって昨日よりも体格が大きい人間が目立つものの、見る限りでは事件らしい事件は起きていない。

 寧ろ仲の良さげな冒険者の方が多く、あの場に居た冒険者達はギルド内でもほんの一部だったのだと理解した。

 夜間に帰還し、俺と同じ時間に次の依頼を受けに外に出たのだろう。昨日の一幕が無ければ良い風景に見えていたのだが、今は純粋に喜ばしいとも思えない。

 

「最後にギルドに寄りましょう。 今なら依頼書も消費されてはいない筈です」


「何処から来ているのかを確かめるのですね?」


「ええ。 別のギルドがあるのにその場所から依頼が発生していた場合、少し考えねばなりません」


 ギルドの数は少なくはない。

 大規模な組織故に地図に記されている街には全て存在しているが、もしも本来ギルドがある場所から別のギルドに向けて依頼が発生しているとなると――そのギルドは本来の仕事をしていないことになる。

 冒険者の減少、依頼手数料の私的な増加。理由はいくつか考えられるが、そのどれかに該当すれば他所に向かって依頼することは多くある。

 或いは、ギルドが自身で受けるべき依頼の傾向を決めていることだって有り得るのだ。

 討伐専門や採取専門に限定すると、それ以外の依頼を受け付けてくれない。それは国の規定に入っていないものであり、本来であれば特別な許可が無い限りは専門にしてはならないのである。

 昨日と同じく扉を開くと、やけに静かな空間が俺達を迎えた。複数の冒険者達は此方を見て、直ぐに興味を失ったようにコルクボードに視線を移す。

 だが、その中で唯一受付の人間だけは何処か焦っている気配を漂わせている。

 視線は何故か此方に固定され、間違いなく俺達に用があるのだろう。ランシーンにコルクボードの方に行かせ、俺は受付へと歩を進めた。


「ああ、待っていましたよ待っていました!!」


「……どうかしたんですか?」


 受付前に到着すると、男性は露骨に喜んだ後に顔を此方に寄せた。

 明らかに他所に聞かせたくない情報を話す時の姿勢だ。初対面の人間にいきなり密談をされるのは意外だったが、聞いてみるだけであれば悪影響は無い。

 

「早朝に貴方達が追い払った男が例の子供を殺してやると集団で走り回っているそうですよッ。 此方としては新人の芽は潰したくないのですが、参加している人数が十人と多いので迂闊に注意を促せません」


「本当ですか?」


 一度騒ぎを起こしたから報復が起きるとは考えていたが、あまりにも早い。

 十人の仲間を集めたということは、少なくとも彼には十人程度の味方が存在することとなる。冒険者の間であれば十人で一塊となる戦いは余程の大物に限定されるが、今回は人探しだ。

 見つけたと同時に捕縛し、彼等は直々に甚振ってから何かしらの方法で殺すつもりなのだろう。

 俺達の攻撃がまるで見えなかったからこそ、大元の原因である少年を襲うことを決めたのだ。何とも小さい男であるが、今の少年にとっては絶望的な戦力差であることは否めない。

 これもまた彼の人生だと割り切ることは可能だ。ある程度の方法を教え、注意もするにはした。

 この後の全てが少年の責任になると言い切るのは簡単だが、あまりにも無情である。俺達も関与しているのだから、この件に関しては此方で解決に乗り出さねばなるまい。

 それに、先程の話を彼女が聞けば絶対に黙ってはいない筈だ。助けられるかもしれない命を前に、行動しないなど絶対に有り得ない。

 

「――解りました。 彼の家の場所は解りますか」


「行ってくれるかい!? 有難う!」


 半ば強制であるが、滞在確定だ。

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