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救われぬ者に救いの手を~見捨てられた騎士の成り上がり~  作者: オーメル


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第五部:バウアーの一手

 王子任命がされてからのハヌマーンの仕事は一気に増加した。

 元々勉強だけをしつつ俺達の行動について意見を述べていたが、今は冒険者達を纏める立場として彼等の法律を学んでいる。

 以前から冒険者達に関する法律は変化していない。他は柔軟に変わっていたのだが、ギルドに関するものや冒険者に関係する類のものについては意図的に変わっていないのだ。

 そうしているのは、一重に冒険者の質に幅があり過ぎるから。

 最底辺の存在をも掬い上げるという関係上、学の無い人間の方が圧倒的に多くなる。そうなれば必然的に難しい内容を理解してもらうのは不可能に近く、結果的に簡単な内容で纏まってしまう。

 それによって抜け穴も多く存在し、その穴を活用して税金を一部支払わない冒険者も存在している。発見次第直ぐに取り立てられるものの、基本的に取り立てを担当する者よりも冒険者の方が圧倒的に強い。

 

 護衛を連れても経験豊富な冒険者が相手では出し抜かれることもあるのだ。

 故に、法律上問題ではない限りは黙認をしている地域もある。そこでは冒険者の数が多く、反対に一般市民の数が少ない。

 冒険者の税金を取り立てない分、一般市民に皺寄せが来るからだ。夜逃げが多く起きていると冒険者時代の時に聞いたが、そうなるのも致し方ないだろう。

 貴族達にとっても冒険者の強さは対処に困るものだ。

 いざという時に国を護る剣となってくれるが、平時においては犯罪を起こし易い集団でもある。税の取り立てに無理だと逃げ、結局税金を使って逃げた冒険者を探すよう依頼が出ることもあるのだ。

 全体の質を高める努力をギルドも行っている。しかし、ギルドの金銭事情は非常に厳しい。場所によって余裕の有る無しも異なり、荒くれ集団ばかりのギルドの支部も存在している。


「という訳で、早速仕事よ」


 仕事時に与えられる休憩時間の中で素振りをしていると、突然ナノが声を掛けてきた。

 何時もの黒いドレスに多少豪華な装飾を身に纏っているが、それは王の部下としてしなければならないからだ。国の豊さを見せ付ける為に身に付け、一時的に学舎に戻っている間もドレスはしていないながらも指輪やネックレスを付けていた。

 そんな彼女の手には一枚の紙があり、ひらひらと動かす様を見るに然程重要ではないのだろう。

 本当に重要であれば彼女は人気の無い場所に此方を呼び出す。間違っても訓練用の広場で見せるものではなく、だから俺も気安く紙を受け取った。

 書かれている内容はギルドの視察。それも一ヶ所ではなく、複数個所だ。

 期間は一月であり、支給される金額についても書かれている。そこで冒険者として生活しながら、現状のギルドの詳細情報を得てほしいということだろう。


「ナナエという冒険者から報告よ。 港街での活動は順調そのもの。 ベテランも仲間に加わって現在は百人程の規模だそうよ」


「そうですか。 では、一つ伝言を頼んでも良いですか?」


「構わないわ。 何?」


 冒険者の健全化。その実験として港街に居るナナエとバウアーは活動しているが、現状は随分と良くなっているようだ。

 彼女の報告以前からバウアーからも手紙を貰って把握していたものの、やはり邪魔をする勢力のランクは低い。新人潰しを第一として行っている集団ばかりだったから、中堅以上を狙う冒険者の数があまりにも少ないのだ。

 しかし、少ないというだけで居ない訳ではない。巧妙に隠された罠や外獣の押し付けによって冒険者を殺す者も存在し、死体となった彼等の身体から金品を漁るのである。

 強盗よりも厄介な性質を持っているからこそ、それを未然に防ぐには被害を受けた者から直接風貌を聞くか集団で纏まらなければならない。

 その為に二名は活動し、助けた者達も二人に感化されて人を助けるようになった。

 その輪は拡大していき、今やベテランも含めた一大勢力へと進化したのだ。新人同士の橋渡しとして顔が広いナナエが会話を行い、新人の教練をバウアーが行う。

 

 なるべく突発的なものとならないように自然に広げるよう頼んだが、結果として急速な拡大を見せた。

 その背景には新人達の不安と、ベテラン達の杞憂があったのは間違いない。このままではギルドの存在がゆっくりと消えてしまうと考えたからこそ、それを護る為に彼等は腰を上げたのである。

 同じ冒険者であれば手の内も読み易く、何を狙っているのかについても予測を立てられる。加え、冒険者間の情報共有の速度は並ではない。

 ベテランと行動を共にして被害を避け、最終的に犯人を逮捕まで追い込んだ事例も既に起きている。

 そう思うと、今回の活動はやはり冒険者達が求めるものであったのだ。

 加入は強制ではない。自由に参加して、自由に抜けることも許されている。極めて冒険者の気風に沿っているからこそ、支持を受けやすいのもある筈だ。

 対抗馬の勢力はあるものの、その勢力は小さい。志が微妙に違う集団達が小さく纏まり合っているだけで、連携のれの字も存在しない有様だ。


「何人か此方に派遣してもらえないかと。 今考えましたが、やはり個人で活動するよも集団の方が安全ですし」


 港街は嘗てとは比べ物にならない程の安定化を見せた。

 冒険者の健全化は急速に進み始め、その勢いは未だ止まらない。今ならば多少の余裕も生まれているし、何名かくらいは此方の仕事に同行してもらうのも悪くはないだろう。

 そういった意味を込めてナノに頼むと、彼女は黒髪を片手で掻いた。


「あー、それについてなんだけどね。 もう来ているのよ、そういう奴が」


「来ているとは?」


「恐らくそっちの冒険者の誰かが言ったんでしょうね。 今丁度正門前に居るみたいで、何でも健全化を始めた人間に会いたいそうよ。 実はその紙の後に渡すつもりだったんだけれど、手紙も預かっているわ」


 追加で現れた手紙を受け取り、その差出人を見る。

 白い封筒の中央に書かれていた名前はバウアーのものだ。ならば、俺がそれをしたいと言っていたことを漏らしたのもバウアーなのだろう。

 彼が安易に漏らすとは考えられないが、もしかすると何か事情がある子が来ているのかもしれない。

 手紙の文面に視線を走らせる。

 曰く、今正門前に居る冒険者は駆け出しも駆け出し。質の悪い冒険者集団に強姦されかけた所を救出したそうで、その時点から俺達側に所属してもらっていた。

 その間にこの勢力の違和感を掴んだそうで、結果的に件の冒険者はバウアーに対して幾つかの証拠を見せながら質問したそうだ。

 これは意図的に生み出された流れである。それを利用して、何かを企てているのですかと。

 仮にも恩人相手に随分と酷い態度ではあったが、逆にバウアーは興味を引かれたそうだ。故にこそ始めた冒険者に合わせてやると、手紙と共に此処を教えたという。


「その冒険者をどうするかは任せるわ。 今回の調査に同行させても良いし、あるいは不要な行動を起こされる前に始末しても良い」


「……会ってみましょう。 少なくとも話くらいしても損はありません。 何よりも、バウアーからの推薦ですから」


 バウアーは手紙に多くの情報を残してはいない。

 しかし、彼の人柄を知っているからこそ冒険者を寄こした意味を理解することが出来る。

 きっと彼なりに俺を心配したのだ。王宮は敵が多いし、味方を増やすのも簡単ではない。信頼関係よりも利益による相互利用という形でしか共同出来ない以上、増えた味方も決して安心出来るものではない。

 故に、単純にバウアーが信用出来ると思った冒険者を王宮に向かわせた。その冒険者と協力し、今後も活動してくれと応援したのである。

 であれば、会わないなんて選択は有り得ない。多少の警戒を持ちながらも俺はナノに告げ、一人正門に向かって歩を進めるのだった。


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