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救われぬ者に救いの手を~見捨てられた騎士の成り上がり~  作者: オーメル


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第五部:本格始動

 ハヌマーンが第四王子となり、早一月が経過した。

 その間に式典が起こり、各国に挨拶等を経て執務室の一つを宛がわれた。王子という格を得たことによって部屋は一気に広くなり、同時にそれが常識の範囲内であれば貴族に命令を下す権限も得ている。

 護衛の数も一気に増加。これまでは俺達だけであったが、騎士団が正式に護衛を務めることになる。勿論俺も護衛として働くが、基本的には外に出向く要件の方が多くなるだろう。

 これに伴い、今までは私服だったものが全て禁止された。女性陣の内ナノだけは私服のままであるが、俺に関しては騎士団と同じ格好をすることになる。

 ただし、外套は相変わらず纏ったままだ。顔を隠すのは俺にとって必要不可欠であり、その点についてはハヌマーンも理解している。


 ただ、予想外なことも起きていた。

 それは貴族から送られる賄賂じみた品物の山であったり、騎士団の者達と稽古に励むようになったりと様々であるが、一番の予想外となったのは護衛を務める人物である。

 ハヌマーンはこれまでの王族という歴史の中で、数少ない平民出身の人間だ。それ故に慣例を無視することもあり、王宮で誰を護衛に回すかにあたって民主騎士団も候補に含まれていた。

 当然、それは王宮騎士団にとって納得出来るものではない。領分が異なる民主騎士団相手では、突発的な出来事に対する連絡などが遅れかねないのだ。

 更に基本の質も異なり、少なくとも民主の人間を護衛に回すのは現実的ではないというのが彼等の主張である。

 ならばと、ハヌマーンが考えたのは俺に尋ねることだった。


「私は信頼に値する人間に護衛してもらいたい。 その上で、フェイ殿であれば誰を護衛に付けても良いと考える?」


 ハヌマーン自身は武芸に秀でてはいない。

 寧ろ一切の経験が無く、それはこれから行われていくことだろう。獅子の王のような男の息子だからと指南役の人物は心躍らせていたが、そうではない可能性を加味してはいないのだろうか。

 兎に角、戦闘のせの字も知らないからこそ彼は俺に頼ったのだ。俺が選んだ人物であれば、まだ信用に値すると。

 とはいえだ。俺は長い間王宮で暮らしていた訳ではない。

 全員の実力を把握している筈も無く、言ってしまえばただの無茶振りも同然である。しかもなるべく早い段階で決めねば騎士団の今後の活動についても支障が出てしまう。

 早急の要請も受け、結局俺は自身が知り得ている中で最も強いだろう二名を二つの騎士団から選出した。

 選ばれた方は突然の声掛けに驚いていたものだ。それも当たり前な話な訳で、本来ならば俺が彼等を選ぶ予定など一切無かったのだから。


「……まさかこのような形でお前と仕事をするとはな」


「仕方ないでしょう。 私が知り得ている中で、最強なのは貴方達ですから」


 久方振りという程離れてはいなかったが、執務室内にて二人が揃う。

 どちらも美形も美形。やはり親に似たのか、二人の顔立ちは父親と母親に重なる部分がある。それを言えば当人達は顔を本気で歪めてしまうだろうが、血の繋がりと呼ばれるものはそう簡単に消えはしないのだ。

 軽く言葉を交わし合い――――ネル兄様はハヌマーンの前で頭を下げる。

 

「王宮騎士団所属。 ネル・ナルセと申します。 今回私のような者を護衛に選んでくださり、有難う御座います」


「民主騎士団所属。 ノイン・ナルセです。 まさかこのような大役を任せていただけるとは思えず、恐縮で御座います」


 俺が選んだのは兄妹である。

 選出としては避けるべきだったのかもしれないが、信用出来る人物となると兄妹を除けば騎士団長くらいしかいない。

 ワーグナー本人に声を掛ければ喜んで護衛の任に付いてくれるだろう。しかし、それでは騎士団の運営が停滞してしまう。常に頂点は周りを見渡さねばならぬ以上、誰か一人に専念させるような事態は無しだ。

 となると、必然的に選択は決まってしまう。同じ家族で、長い付き合いがある兄妹を選ぶ以外にないだろう。

 二人共に騎士団内では新人も新人だ。一年も経験していない存在故に、信用性という意味では足りてはいない。その部分はナルセ家の人間であるという事実が補い、ハヌマーンが最も信用する人間の一人である俺からの推薦ということも合わさって反対意見は一先ず鎮火した。

 これで両名が失態を犯せば再度反対意見は噴出するだろうが、この二人であれば大きな失敗はしないと信じている。

 騎士としての教育は既に実家で散々受けているだろうし、実力に関しては言わずもがな。俺より強いと自信を持って宣言出来るからこそ、並の相手ではまともに剣を打ち合うことも出来ないだろう。

 

「近場の部屋を用意しております。 今後はこの部屋で生活をしてください」


 挨拶を済ませ、俺は彼等両名を部屋へと案内する。

 騎士団には敷地内に部屋を持っているが、それは相部屋だ。完全な個室を持つことは殆ど無く、護衛を近くに置くことを王子や貴族が許した場合のみに与えられている。

 言わば近衛のような立ち位置となり、当然騎士団内での発言力も大きくなっていく。着任初日や数週間はあまり威張ることも出来ないが、一年二年と続けていけば嫌でも頭を下げられる立場となる。

 王子と共に行動する以上、騎士本人の振舞いも気を付けねばならない。身嗜み一つでも主の評価に繋がるのだから、実にやりにくい日々をこれから二人は送ることになるだろう。

 

「――今は周りに誰も居ない。 普段通りで良いんじゃないか」


「そうですよ、折角の全員集合な訳ですから」


 今、俺達以外に他に居る人間は居ない。

 それは兄妹を含めた全員の気配探知に誰も引っ掛からなかった時点でも明らかだ。熟練の暗殺者であれば自身の気配を消すことも出来るというが、そもそも俺達の秘密を探ったところで何の得にもならない。

 露見すること自体は本意ではないものの、いざそうなった場合仕方ないと思ってもいる。解っている人には既に露見している状態なのだ。

 出来る限り隠すが、いざという場合の覚悟はしてある。

 故に両名の言葉に、俺は溜息を零して堅苦しい状態を止めた。それに合わせて俺とネル兄様の間に広がっていた疑似的な気不味さも消え、辺りには元の穏やかさが返ってくる。

 

「今回はこちらから勝手にお願いする形となってしまい、すみません」


「なに、気にするな。 確かに睨まれる人間は増えたが、それは元々努力をしてこなかった者達だ。 基本的に同僚も上司も快く送り出してもらえたよ」


「こっちもそれは一緒ですね。 特に女性騎士からの嫉妬が凄いことになってます。 そろそろ夜道を気にしながら歩かないといけないかも……」


 この決定は前代未聞だ。それ故に多くに注目され、同時にこれまでよりも敵を作ることになる。

 相手が貴族であろうとも、感情というものに壁は無い。嫉妬する相手には嫉妬するし、殺意を抱く時には殺意を抱く。

 だが、この二人にはそれを容易く跳ね除ける力がある。二人は参ったと言わんばかりの表情をしているものの、その所作には何処か余裕が滲み出ていた。

 

「これから先、問題は多く起こると思います。 新しく、特殊な王子の護衛ですからね。 貴族からの余計な干渉も発生することでしょう」


「そちらに関しては此方は手を出さないぞ。 私達はあくまでも護衛としての任を全うするだけだ」


「理解していますよ、兄様。 ですから私がお願いしたいのは一つだけです。 最後までハヌマーン王子のことを守ってください」


 これから起きることは全て予測の出来ないものとなる。

 ある程度の未来予測は出来ても、異なる方向から刃が飛んでこないとは限らないのだ。だから、俺が両名に願うのはハヌマーンを何があっても守り切ること。

 守り切れれば何度でもやり直す機会がやってくる。

 頭を下げれば、二人の手が片方ずつ肩に置かれた。顔だけを上げると、二人は優しく此方に微笑みかけている。そこに家族としての確かな親愛を感じて、思わず胸に熱いものがこみ上げてしまいそうになった。

 ――これからが本格始動だ。全員の善意に応える為にも、俺は確かな結果を残す。

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