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第四部:味方を増やして

 ハヌマーンが王子になる際、王は正式な発表を最初に行う。

 その後に式典に続き、王は臣下の前で王子に最初の仕事を下すことになる。この場合の仕事とは様々だが、殆どの場合においては一分野の長として統率を取ることを求められる。

 例えばシャルル王子の仕事は商いの長だ。多数の有力な商人と繋がり、国内全域に均等に商人を配置して民に品が届かないという事態を防ぐ役目を担っている。同時に、商人達から流れ込む大量の情報を吟味して王や他の分野を担当する王子達に流したりもしているのだ。

 俺が知っている限り、他の二人の王子の役目は金融と貿易。

 どれも国家を運営する上では欠かせない要素であり、王子という役目が如何に重要な立ち位置なのかが窺い知れる。

 お飾りではいられない。遊び呆けている時間もあまりにも存在しない。

 

 少なくとも三人は共に艱難辛苦を飲み下し、その上で今の仕事を任せられるようになった。

 その席にハヌマーンが座る以上、彼にも順当に重要な仕事を任せられる。

 そして恐らく、その仕事の内容は既に決められると見るべきだ。彼を世に見せると王が決めたのだから、寧ろそれを確信しない方がおかしいだろう。

 なるべくハヌマーンの意志を汲んだ仕事を任せるのか、それともまったく異なる仕事を任せるのか。

 どちらをとっても王子として不足の目立つ彼には苦しいものだ。しかし、それは本人も承知の上。それら全てを飲み込み、前進してこそ周囲は納得するだと理解していた。

 だからこそ、此方も打てる手は全て打つ。その全てはあまりにも漠然としているが、それでも俺が用意出来るものは用意するつもりだ。

 

「ハヌマーン様が掲げた強さは人民。 つまり平民そのもの。 それを維持するには冒険者達の力は必要です」


 俺という存在が打てる手とは何なのか。

 戦力としては中途半端。伝手も決して広くはない。万が一の手は存在するものの、それを切るということはそのまま自身の危機を意味することとなる。

 権力らしい権力も無く、貴族としての資格も所詮は名誉なだけ。結局のところ、日頃の人間関係の構築に時間を割かなかったからこそ、現在の状況となっている。

 その上で手を考えるならば、先ずは冒険者達だ。彼等の格差は平民と貴族程に顕著ではなく、ギルドに関わる人間でなければ意外に見抜けはしない。

 一般人では質の良し悪しを見抜くのは難しいし、態度一つで格の差を騙せる。見た目だけ質の良さそうな装備をぶら下げれば、一見すると高位冒険者と思ってしまう層が多いのだ。

 それを悪く思うつもりはない。彼等には彼等なりの戦略があってそうしているのであり、飾りを纏って集客するという手段は商店であれば何処でも見れる。

 

 だが、その方法を取る冒険者は短命だ。

 集客する以上は無理難題を求められ、ランク外の仕事をギルドを通さずに依頼されることが多い。仲介料が払われていない報酬金は確かに多く魅力的だが、そこに潜む悪意は実に凶悪だ。

 そして自身を誇張して人を集めた以上、拒否は出来ない。それはそのまま評判の落下を生むのだから、頼まれた依頼は余程予想外の出来事が起きない限りは受けねばならないのである。

 故に身の程を知らない冒険者は無茶をして、そのまま死んでいくのだ。だからこそギルドもその辺は重点的に注意しているのだが、それでも後を絶たないのが実情である。

 その原因はやはり悲惨な格差暴力だ。無理難題を強制するのは貴族だけではなく、少しでも実力の高い冒険者がランクの低い冒険者を虐げる例は非常に多い。

 落伍者と呼ばれる組織が例としては適当だろうか。彼等は心が折れたからこそ、負け犬の沼に他者を飲み込みたいと考えて行動している。

 

 その為に必要とされる手段に制限は無く、如何なる非道も彼等にとっては正当なものなのだ。

 強さこそが正義。冒険者であればそれは一種の真理であるものの、将来有望な人間が居なければ冒険者という存在を維持することも難しい。

 現在のギルドは決して健全な状態ではないのだ。一度大きく是正を行わねば、それこそ他所からの信用は一切無くなってしまうだろう。

 

「この冒険者という存在は単純に物を集めたり外獣を討伐するだけの存在ではありません。 本来ならば人々を安心させる民の盾のような側面もあり、いざという時の国家戦力です」


「流石に国家戦力は言い過ぎだが、街を守る一組織であるというのは正しいな。 生活の拠点を定めた者にとって、街を守るの当然だ。 そうでなければ折角の家が無くなってしまうのだからな」


「外獣の素材を売れる店は多々あるけど、何でも金に変えれる所はギルドだけだもんね。 そこが無くなっちゃうのは私も嫌かも」


「少なくとも、ギルドという組織の消滅は国にとっても平民にとっても喜ばしいものではありません。 民主騎士団の数は多いですが、それでも全域を守り切れる程の人数は揃っていないのが実状。 外獣に攻められてしまえば壊滅は免れないでしょう」


 冒険者が問題を起こしても個人を責め立てる程度で済んでいるのは、そうでなければ街を外獣から守れないからだ。

 冒険者個人個人に自覚は無いのだろうが、彼等が依頼を受けて外獣を討伐するからこそ街の襲撃率は低いのである。余程強力な個体でもない限り、外獣達は本能で街へと接近することを忌避するのだ。

 彼等の依頼一つ一つが平民の生活を支え、安寧を支えている。だが、出来ることならばその組織が健全であることを誰もが求めるだろう。

 真っ当な人間性を持って、真っ当な対応で仕事を行う。それは理想論であるので不可能ではあるが、目指すことは出来る。

 元犯罪者を救う最後の手段であるというのも注目すべき点だ。確りと改心しても、元犯罪者である時点でまともな仕事に就ける可能性は極めて低い。

 自業自得ではあれども、しかしそれで切り捨てるにはあまりにも惜しいのだ。特に抜群の才能を持っている者が何も出来ずに死んでいくなど、勿体ないとしか言えない。

 故に冒険者という役職は必要だ。


「で、具体的にはどうするつもりだ。 ただ粛正するだけなら殆どの冒険者を敵に回すぞ」


「そんな真似はしませんよ。 それをするのは最終手段ですし、そもそも私自身が始めたところで全体に広まらなければ何の意味もありません」


「なら、ギルドを巻き込む? 全体に波及させるなら支部長と話を付けた方が良いわね」


 俺達三人はこの港街ではそれなりに知名度を持っている方だ。

 その殆どがバウアーのランクとナナエの人望によって成り立っているものであり、他の街では一切効果が無い。

 なのでより広めようとするならば、やはりギルドの協力は必要不可欠。これは後でハヌマーンにも許可を求めなければならないが、何時でも中止出来るように下準備だけでも進めておきたい。

 三人に話す内容は、俺が五年間の中で考えていたものだ。突然閃いた訳でもなく、やり方そのものも酷く地味ではある。

 だからこそ密かに進めやすく、同時に直ぐに手を引くことも可能な訳だ。


「ギルドに話をするのはまだ早いです。 何時でも中止が出来るように先ずは御試しで始めましょう。 内容は単純明快ですが、それなりの実力とナナエのような人望が必要です」


「まるで俺が人望など無いと言いたげだな?」


「現にアンタはあまり誰かとつるまないでしょ」


 二人で軽口を交わし合い、即座に此方に視線を向ける。

 その目線を受けつつ、俺は早速内容を話し始めた。これがどうか成功するようにと思わずにはいられない。

 鼠式増殖術の開始だ。

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