アナザーストーリー:麟弥は間違える
麟弥の内心は徐々に堕ちていく。
晴人はいつも通りだった。
だから、俺は……あの二人に会わせた。
なのに……。
あの目を、俺は久しぶりに見た。
いつもは見られている方を見る側だったのに。
今回は俺が見られる方だった。
あいつはきっと、俺を敵として認識したのだろう。
俺は……唯一の親友を失ってしまった。
* * *
俺と晴人が出会ったのは小学生の時だった。
いつも一人でいるあいつは、周りから嫌われていた。
俺には分からなかった。
俺は晴人が優しいのを知っていた。
自分に与えられた仕事を精一杯やり、困った人がいれば助けに行く。
そんな彼を見ていたからこそ、俺には嫌われる理由が分からなかった。
ある時、彼は苛められてた。
小学生の当時、苛める理由はいくらでもある。
そんな中、彼が苛められていた理由は。
なんか嫌いだったから。
その時は……たぶん彼以上に腹を立てたと思う。
その時から俺は、晴人と共に行動し、一緒に生きてきた。
そんな生活の中で見たのは、彼に敵対した者達の哀れとも思える姿だった。
彼の目は敵対する者達にとっては恐怖だったのだ。
いつもの茶色の瞳ではなく。
蒼く輝くその目をした時の晴人は……。
いつも泣いていた。
裏切られ、嫌われ、憎んで。
色々な感情が入り混じった目だった。
彼の目に見られた人たちはそれぞれの対応をした。
彼に恐怖し苛めをやめる者。
彼を恐れ、学校に来なくなる者。
彼から逃げるため、引っ越していく者。
彼に恐怖した人たちは一人残らず彼の前から消えていった。
彼のその目はそれほどまでに畏怖するものだった。
だからこそ、俺自身も彼を裏切らないよう細心の注意を払った。
彼を失わない為に。
* * *
それなのに、俺は間違えた。
あの空気は間違いなく、小日向さんが晴人に何かを言ったのだろう。
じゃなければ、小日向さんの顔が嫌悪から恐怖にならない。
分かっていたはずなのに。
俺は焦りから晴人に謝るように言ってしまった。
そして、あの目を向けられた。
今までと違うのは、泣いていなくて、感情は一つしかなかった。
[諦め]
俺は、晴人に見捨てられた。
……いや、訂正しよう。
俺が最初に見捨てたのだ。
あいつが俺を必要としない。
それだけで、虚無感に襲われた。
そうか、俺がお前を必要としてたんだな。
なんで、今になって気づいたんだ。
次回、小日向さん視点の話です。
その後からは、第二部が始まります。