アナザーストーリー:その時、岩代美鈴は。
その時、岩代美鈴は何を思ったのか。
彼はなぜ友人が少ないのか。
私には分かりません。
周りは彼の名前を聞くと、殆どが苦虫を潰したような顔をするのです。
水書晴人君。
それは、私が気になって仕方ない彼の名前です。
私は知りません。
彼に何があったのかを。
✽ ✽ ✽
私と彼の出会いはなんて事ない出来事でした。
入学式当日、私は校舎を彷徨っていました。
はじめての校舎、何処に何があるかも分かりません。
それに視界も歪んできました。
貧血でしょうか?
そして、足がもつれました。
それは私に倒れると認識させるには充分なぐらいにもつれました。
……しかし、倒れることはありませんでした。
倒れそうになった私を抱きかかえるように、その男性は私を支えてくれたのです。
彼は声をかけず、そのまま私を保健室に運んでくれました。
私が気絶したと思っていたのでしょうか?
案の定、保健室には先生がいませんでした。
彼は私をベッドに寝かせると、そのまま保健室を出ていきました。
もちろん、ここにくるまで何一つ言葉を発しませんでした。
私は、彼が凄く気になりました。
彼はずっと、悲しみを隠すような顔でいたからです。
それから私は、彼を追いかけるようになりました。
彼の交友関係や性格、何もかもが気になって仕方なかったのです。
いつしか私は、この感情が恋である事に気づきます。
どうしたら彼と話せるでしょうか?
どうやったら私を見てくれるのでしょうか?
どうやったらあなたは笑ってくれるのでしょうか?
そんな事を考えながら彼を見ていると。
彼がこちらを向いたのです。
彼は驚いていました。
気づかれた事に恥ずかしくなった私は校舎に逃げました。
……こんな事でこの先彼と話せるのでしょうか?
そんな矢先に彼の友人、福島麟弥君が私に聞きたいことがあると言ってきたのです。
彼と話してる姿をよく見るので、このとき私はチャンスだと思いました。
麟弥君に彼と話せるようお願いしたら、快諾してくれました!
これで、彼と話せる!
心の中は歓喜で溢れてました。
その時、私も連れて行ってと言ってきたのは、私の古くからの友人小日向美緒ちゃんです。
美緒ちゃんもきっと彼と仲良くしたいと思ってくれてる!
……その時は本気でそう思ってました。
彼に会って、話をして、とても仲よくできたと思ってました。
帰るとき、美緒ちゃんが彼を連れて行きました。
私はその場で待っているつもりでしたが、会計を終わらせた麟弥君が焦り始めました。
その時、私は何故焦っていたのか分かりませんでした。
彼と美緒ちゃんを追いかけ、追いついた時には。
彼は様々な事を言ってました。
その中にはきっと私のことも入っていたでしょう。
美緒ちゃんの顔はいつの間にか怒りから恐怖へ変わっていました。
止めに入った麟弥君も、彼に睨まれた途端顔が恐怖に染まっていました。
……彼の目が蒼く輝いていたのです。
私は……恐怖よりも先に、綺麗だと感じました。
満月の月明かりの中、蒼く輝く目。
そして、彼の纏っている空気がとても神秘的だったのです。
彼は美緒ちゃんに一言放ったあと、私と麟弥君の間を通り過ぎて行きました。
私はその後ろ姿を見送りました。
私はその時思ったのです。
彼の姿がとても弱々しいと。
そこで気づきました。
彼は何度も同じことを経験し、その度に傷ついてきた。
それなら私が。
他の誰でもない私が。
彼を愛そう。
私が慕われているのは分かっている。
もしかしたら彼の言葉は本心かもしれない。
それでも、私は彼の為ならすべてを犠牲にしよう。
これは、彼の為にという自分のエゴを押し付ける事になるだろう。
それでもいい。
これは、これからの私の誓いだ。
彼を愛し、彼の味方であり続けること。
それが、私の誓い。
次回は麟弥君視点の話になります。
更新を楽しみにしてください。