第二話:嫌われ者の妹と慕われ者
唐突にインターホンが鳴る。この家でインターホンが鳴ることは珍しい。しかし、今の僕にとって誰が来ようと関係ない。僕に用事のある人なんて、きっといないだろう。僕はそのまま、また深い眠りに落ちていくことにした。
◇ ◇ ◇
「兄に何か御用でしょうか」
私は少し、警戒心を含んでいるかのように言った。家に人が来ることなんて珍しい。しかも兄には絶対にこない。そんな中、兄に用事があって家に訪ねるなんて、何かあるに違いないと踏んだからだ。
『晴人君の様子を見に来ました。この前突然帰ってしまったもので、心配に』
この前の事、それは、私にとってより詳しく聞きたい事であり、私の兄を元に戻すための糸口だった。兄の主観だけでは見えなかったものも、この人の主観という私たちにとっての客観を得られれば、兄もきっと……。
「今から鍵を開けます。その話、詳しく聞かせてください」
『え、えぇ』
水書家 リビング
私は今、岩代美鈴と名乗った女性を家に入れた。見た感じはおしとやかなお嬢様と言ったところだろうか。こんな人が兄と関わりがあるとは思えない。しかし、あの日の事を知っているのなら、話を聞かなくては。彼女の前に紅茶を置き、話を聞く事にしよう。
「これ、紅茶です。どうぞ」
「ありがとうございます」
そういって紅茶を飲む姿は、よりお嬢様を思わせるたたずまいでいた。……ほんとになんで兄さんはこんな人に心配されてるの?
「それで……晴人君のことですが――」
「兄さんなら、上で寝ています。それよりも兄の目が蒼くなって帰ってきたあの日、あの日に何があったんですか?」
その話をすると、岩代さんはうつむいてしまった。そして、何かを決意した顔で話し始めた。大体は兄さんから聞いた事と一緒である。つまり、兄さんの主観と変わらない内容だった。しかし、岩代さんは兄さんが立ち去った話もしてくれたのだ。各々、呆然とした状態で帰る麟弥さん、その場で泣いている小日向さんという女性。その日はそのまま別れたそうである。……なんと自分勝手か。兄さんを追いかける事まできたはずなのにそれをしなかった麟弥さんにはがっかりです。
「妹ちゃんに迷惑かけたね」
岩代さんは言った。何故? 迷惑とは一体?
「お兄さんを心配してるのが分かるよ」
「……それは何故? と聞いてもいいですか?」
たかが数日兄さんと関わった程度で私の事まで理解できるはずがない。普通はそう思う。しかし、この人は兄さんと同じように普通が通じない人である事を、私は知る事になる。
「実はね、私もお兄さんと同じように目に異常があるの」
兄さんと……一緒? そう思って岩代さんの顔を見たときに私は、息を飲んだ。岩代さんの目が黒ではなく、赤く輝いている事に。
ふたりに隠れた目の力とは……?




