第5話 過去
「あの~。宿泊出来ますか?」
「ん?もちろんよ~!何泊するの?」
「一応、20泊程でお願いします」
「りょうかーい。えっと、20泊で一万ペルだよ」
20泊で一万ペルってことは1泊500くらいか。ゴンゾウにお金の価値は教えて貰ったけどこれが良い値なのかわからないな。まあ、ゴンゾウに貰ったお金はまだまだあるし、まあいいか。
そうして、俺は銀貨10枚を渡す。
「はい。ピッタリね~。そんな可愛い顔して冒険者なんて大変ね~」
「すいません。俺男なんですよ」
「あら!ごめんね~。しかし男の子でこんなお顔なんてよく間違えられるでしょ」
「ええ、まあ」
「それならいいわ。おーい。アルカー。お客さんだよー!お部屋に案内してあげて~!」
そう言って受付の奥に向って大声で呼ぶ。
すると、パタパタと音を立てて、受付のオバチャンと同じ綺麗な赤毛の女の子が走ってくる。この人が「アルカ」さんなのだろう。
「は~い!えっと、ここで看板娘をやらせてもらってるアルカです!よろしくお願いします!」
「よ、よろしくお願いします・・・」
「?どうしましたか?」
うっ。前世でもこんなに女の子と面と向かって話したことが無い俺がいきなりこんな所で話しかけられると、慌ててしまう。
・・・・・・慣れないとな。
「何でもないです」
「そうですか。それじゃあ案内させていただきますね!コチラです!」
そう言ってアルカはまた、パタパタと小走りで宿の奥へと俺を案内してくれる。
少し奥の部屋までたどり着くと、アルカはその扉の鍵を開けて、俺に鍵を渡す。
「こちらが鍵です!朝ごはんと夜ご飯の時間になりましたらお知らせに来ますのでお待ちください。夜は8時~11時、朝は6時~9時になります。ご入浴はいつでも可能ですのでお好きなときに。それと、屋上はいつでも入れます。椅子しかないところではありますが、眺めも良いので是非ご活用ください」
「わかりました。ありがとうございます」
「では!」
そう言ってまたまた小走りで帰っていく。
そして、ドアを開けると、ベットが一つに机と椅子が一つずつという内装だった。
少し貧相だが、大きな窓があるのでそれなりに見える。
『さて!次は何にするの?クエストでも行く?』
「いや、今日はゆっくりしようと思ってさ。確かさっき屋上があるって言ってなかったか?そこに行こう」
『おお!いいね~』
俺達はバックを部屋において、屋上へと上がる。
屋上は、アルカの言っていた通り、ビーチにあるような椅子が一つ。
俺はそこに座って目をつぶる。こうすることで声に出さずともミルルと会話ができるのだ。
『なあ。俺がの昔話を聞いてくれるか?』
『うん!勿論だよ。私は何も知らなかったからね』
『なんで知らなかったんだ?俺の心でも読めばいつでも知れただろ?』
『うん。だけどイフくんが言いたくなさそうだったから、話してくれるまで待とうと思ってたんだよ~』
『そうか。ありがとな』
『いいって!・・・・・それなら、色々イフくんのこと教えてよ。この世界にどうやってきたこととか、お父さんとお母さんの事とか』
『ああ。わかった』
そうして、頭の中であの時の事を思い浮かべるーーーーー
俺は、16歳でこの世界に来た。
前世では高校生だった。生まれつき体が弱く、学校ではいじめも少しはあったが、友達もいたのでそれなりに楽しくやっていた。
その日は、いつものように教室で本を読んでいた。朝のHRにちかずくにつれて、だんだんと生徒が登校してくる。そして、生徒が全員席につき、担任も教卓についた頃にそれはいきなり起きた。
床がいきなり光り出したのだ。その光はどんどん強くなって、俺は目をつぶったんだ。
そして、次に目覚めた場所は、何も無い所だった。周りには生徒が状況を読み込めずにあたふたしていた。
だけど、俺は少しだけ思っていた事があった。『集団転移』に巻き込まれたんじゃないかって。結果的にそれは正解だった。
みんなの前にある人が現れた。体からは光が出ていて、顔は眩しくて見えなかった。
そして、若い男の声で話し出した。
「君達は選ばれたんだ!異世界召喚に!君達は次の世界で勇者として戦ってもらうよ!そして、もちろん強い力を与えるよ!」
そう言って話し始めた男をみんなは初めは怒っていたが、次の世界での優遇や能力の大きさを男が話し始めると、みんなは次第と文句を言わなくなった。もちろん俺もその一人だ。
これで抜け出せる。ひ弱な自分から。
そう思っていた。そうなると信じていた。だが、現実は違った。
「君たち全員を連れていきたいんだけど、生憎定員は30人なんだ。このクラスはピッタリ30人だけど、先生も含めると31人なんだよね。一人余ってしまうんだ。余った人はほかの世界に飛ばされちゃうからね。もちろん能力は無しで」
それを聞いて、俺はひっそりと隠れる。選ばれませんように。そんな願いが届いたのか、先生が名乗り出てくれた。
「俺ではいけないか?生徒を危険に晒したくないんだ」
俺はこの時初めて先生に感謝した。だけど、男はそれをみとめなかった。
「ん?だめだよ。これだけの子供に言うことを聞かせるには大人がいるからね」
そう言うと男は顔を拳に乗せて(ように見えた)っ考えるような仕草をする。
「こいつじゃいけませんか?!弱くてひょろひょろだから役に立ちませんよ!!」
そう叫んだのは、いつも俺を蹴ったり罵倒してきたりする、『赤島豪紀』だった。そして、豪紀の指は俺の方へと向いている。
「そうだね。弱そうだから君にしよう。ごめんね」
そして、次は俺の下だけが光り出す。俺は嫌だと叫ぼうとするが、何故か声が出ない。それどころか体さえ動かせない。
段々と意識がなくなる。その瞬間、俺の目は捉えた。豪紀のニヤついた顔を。
そして、次に目覚めたのは森の中だった。ここでもう既にこの世界に来ていた。
しかし何故か視界がグラグラと揺れる。その理由はすぐにわかった。
俺のお父さんが俺を抱えて、右手にお母さんを掴みながら走っていた。今思うとその様は、必死に何かから逃げていたように見えた。
多分、数十分走り続けてだろうか。いつの間にか、俺は小屋でお母さんと寝ていた。
俺の自我はあったが、体が赤ちゃんだったので喋る事も出来ないし、動くことも出来ない。
あまりにも急過ぎて何が何だか分からなかったが、それからお父さんとお母さんと過ごして行くうちに、お父さんとお母さんを、本当の父と母のように思っていた。
そして、だんだんと月日が流れていった。お父さんからは剣術を。お母さんからは魔法を教わっていた。魔法の方はあまり出来なかったが、剣はお父さんから褒められるほどに上達していた。
誕生日には祝ってもらったし、時には森の中でお父さんと探検をしたりしていて、前世のことなんて忘れてこの生活に楽しんでいた。
だけど、そんな楽しい時間は長くは続かなかった。
俺が丁度六歳の誕生日の日。俺とお母さんとお父さんで、並んで寝ていたんだ。
その時だった。いきなり寝室の壁が吹っ飛んだ。即座にお父さんが俺をかばってくれた。
そして、お父さんとお母さんは、壁を吹っ飛ばした犯人と戦闘を始めた。俺は、危険だからここから出ないで、とタンスの中に隠された。
怖くて耳を塞いで隠れていたが、突然耳を塞いでも聞こえる剣が重なる音が無くなった。
俺は助かったと思い、タンスの扉を開けた。
だが、扉の先の光景は俺の思っていたのと全くの真逆だった。
首のなくなったお父さんの服を着た体と、口から血を吐いて倒れているお母さんの上半身。
俺は我を忘れて大声で叫ぶ。
その声に反応したフードをかぶって剣についた血を払っている『男』は再び剣を構える。
俺はお父さんの落とした剣を拾いあげて『男』に突っ込む。
剣は『男』あっさり受け止められるが、俺はそれを読んですぐさま切りかかる。それも弾かれるが、身軽さを生かして体制を立て直し、『男』の股をくるりと抜いて背後から攻撃する。
『男』はフードの隙間から驚いた顔を見せ、避けようとするが、俺の剣の方が早かった。背中を切り裂く。
だが、傷は浅く、すぐさま振り返った『男』は俺を蹴り飛ばす。
もう既にすべての力を使い切った俺はぐったりと倒れた。
死ぬ覚悟は出来た。目をつぶってその時を待つ。
すると『男』は初めて喋りかける。
「フッフッフ。なかなかやる・・・・。お前は強くなるだろう。だがまだその時ではない。今殺しておくのもありだが、また俺と対峙するのも面白いだろう。強くなって俺の元に来い。その時はすぐに殺してやる。イフリス」
そんな、予想と真反対の声を聴いて、俺は目を開ける。
その時だった。
大きく風が吹いて、フードがなびく。
そして、腰に見えたのは、金のカードだった。




