第12話 巨大な影
「な、何ですか?!」
『私の感知にも引っ掛からない!』
な、何なんだ?
段々と砂煙が引いていく。そして、現れたのは・・・・・・
「ぼ、ボール?」
ゆっくりと姿を現したのは、金属製の浮遊するボールだった。
メタリックなカラーにツルツルとした表面。
そして、ボールの中心には赤い点。
目なのか・・・・?
クルクルと周り出して、俺の方向を向く。
『危険だよ!尋常じゃない魔力量だよ!今のイフくんじゃ倒せない!』
どうする?友好的ではないことはひと目でわかる。
ここで逃げたら確実に街に被害が及ぶ。どうする?
今俺はどうすればいい?
色々な考えが頭の中をよぎる。
そして、数秒でその考えにたどり着く。
「こんなのに勝てなきゃ勇者なんか絶対に勝てない!」
俺は一気に切り掛る。
相手からは攻撃してこないようで、容易にその巨大な体にたどり着くが、剣は弾かれる。
こいつ硬いな。
このままじゃダメージは当たらないと思い、身体強化《極》を使って一気に終わらせる。
「白夜天山第七ノ門 両花刀斬!!」
ガギギギ ブシュッ
前とは違い、剣は体に刺さるが、突如爆風が俺の体を吹き飛ばす。
身体中が痛い。
『イフくん!魔力の風だよ!早く離れて!』
魔力は適度な量だと回復するが、必要以上の量だと体に異常な症状が起こる。
肌が裂けて血が飛び出る。
「クソっ。何なんだこいつは!」
すると、魔力を感じない俺でもわかるほどのエネルギーが赤い目に集まる。
シューシューと音をたてて光が集まり、次第に巨大化していく。
「ガグゴ ガタガギコォォ!」
そんな訳の分からない声を上げて、エネルギーの塊からレーザーが発射される。遅れて耳をつんざくような音がおこる。
俺は間一髪で避けるが、もう動けない。そして、再びレーザーが溜まっていく。
これは死ぬな。足が動かない。
「諦めちゃダメです!」
そんな声と同時に身体中の痛みがなくなる。
リリはそこまでの回復魔法使いじゃなかったはずだったんだが・・・・・・。
だがそんなこと考えてる暇じゃない。
俺はスキルを発動して身体強化をかける。
まだ発動したことは無いがやるしか無い。
「白夜天山第四ノ門 激・我・倒・幕!!!」
シャリンッ
スキルの効果と元の剣技の合わせ技。
綺麗な音を立てて鉄球が真っ二つになる。その瞬間再び爆風が襲う。
それを読んで、リリの元に戻る。
そして段々と断面が露になる。
ゆっくりと上側が落ちて、生きたえる・・・・・・
「おいおい。嘘だろ?!」
鉄球はそのまま倒れることはなく、再びくっつく。
再生能力もあるのか!
『私に変わって!』
「・・・・・・しょうがない。『魂沌』 」
一瞬意識が飛び、目覚めると真っ暗な空間に俺は座っていた。
『頑張れよな』
「まっかせっなさーい!魔王にとってこんなもの雑魚中の雑魚だぜー!」
そういうと、俺の体で動くミルルは剣を構えて突っ込む。
「魔力纏気!からの身体強化『究極』!からのからの『魔王の権限』~!」
俺の体とは思えないほどの動きで鉄球にたどり着いて、件を振り下ろす。
白夜天山も使わず、ただの剣振り。
だが威力は半端ではない。
シュンッ ガンッ ドドドドドッ
意味のわからない音を発しながら鉄球が凹み、そしてぶっ潰れる。
言葉通りのぺったんこだ。
ミルルは剣を逆に持ち、叩き潰したのだ。
『流石だな』
「へっへーんだ!」
そして、の音に反応した周りの冒険者が駆けつけてくるが、あんまり巻き込まれたくない俺はミルルに言ってリリを回収して森に隠れてもらう。
『なんとか助かったな』
「そうだね~。イフくんもよく立ち向かったよ。えらいえらい」
『お前行かないでって言ってたじゃん・・・・・・』
「試練だよ試練~」
「あ、あれ?イフリスさんの声がミルルちゃんでミルルちゃんの声がイフリスくん?」
まだ『魂沌』のことを前回話していなかったリリは、突然入れ替わった俺たちの声に驚いている。
「『魂沌』っていう技だからあんまり驚かないでね~。それより・・・・・・リリ。二人きりで森の中。分かるね?」
「ひゃ、ひゃい?」
『だから変な事言うなぁ!!!!!』
いつもの『魂沌』を使ったあまりにも大きい代償を受けながら、精神的にも神体的にも疲れた俺達は、足早と宿屋へ帰った。
♢
「あ~疲れた・・・・・・。もうやだ」
「ホントですね~。あれは何だったんでしょうか」
体に戻った俺とリリは混浴の風呂の中で疲れを癒す。
さすがに隣同士とか真正面とか恥ずかしいので、後ろを向いて喋っている。
『あれれー?イフくんはほんとにヘタレだなぁー。手を出せ手を』
「出せるか!というか俺にそんなこと言うほどお前も経験あるのかよ」
『ギクッ』
「なんだ?図星かー?」
『うっ・・・・・・まさかイフくんに攻められるとは・・・・・・』
「あはははは。ほんとに仲いいんですね」
『10年の付き合いだからね~。なぁに?私がいるからイフくんに手を出せない?大丈夫だよ。イフくんと私はそんな関係じゃないからね~』
「ち、違います!・・・・・・それよりあの魔物は何だったんですか?」
『うーん。あの鎧魔物と同じ感じで、中に魔力と核があって体がない感じだね~。やっぱり新しい魔物でいろいろな形態があるパターンなのかな~』
「でも前にミルルが言ってたとおり、魔力だけの核で体がなかったら動けないんじゃないか?」
『そうなんだよね。魔物の核は人間とか動物の魂みたいなもので、血肉を土台として動かしているんだ。だからアレでなんで動けるのかは分からないんだよね~』
「そうなんですか・・・・・・。あ!そう言えばゴル爺が鎧の研究が終わったから返したいって言ってましたよ」
「なら風呂から上がったら行くか」
そして俺たちは風呂から上がり、浴衣のようなブカブカの服に着替えてゴル爺の元へ行く。服がでかすぎて方が出てるんだが・・・・
「イフリスさんのは男性用ですから大きいんでしょうね」
「あとで変えてもらおう」
途中、男の冒険者達にジロジロと見られたが、恐らく鉄球を倒したところを見られたからだろう。
『いや、あれはエロい物を見る目だっ・・・・・・』
言うな。