(8)
――……なに、これ。
目の前の首なしがオイテケオイテケと念仏のように繰り返す。しかし私の意識は目の前の脅威ではなく、バッグの中の一点に奪われていた。先ほどまでの化け物への威勢は完全に吹き飛んでいた。
『オイテケオイテケオイテケオイテケオイテケ』
――なんで。なんで。
『オイテケオイテケオイテケオイテケオイテケ』
『オイテケオイテケオイテケオイテケオイテケ』
『オイテケオイテケオイテケオイテケオイテケ』
『オイテケオイテケオイテケオイテケオイテケ』
『オイテケオイテケオイテケオイテケオイテケ』
――うるさい、うるさい、うるさい、うるさい。
『オイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケオイテケ』
「うるさい!」
黙れ黙れ黙れ黙れ。
頭の中がぐしゃぐしゃだ。どうしてなんでなんでどうしてなんでなんで。
違う。なんでここに入っているの。
『グ……ギ……』
――え?
私は思わずやつを見た。
『グギグギグギ、グギグギグギグギグギグギググギグギグギ、グギグギグギグギグギグギグギグギグギ、グギグギグギグギグギグギググギグギグギ、グギグギグギグギグギグギググギグギグギ、グギグギグギグギグギグギグ』
――待って、待ってよ。
やめて。もうこれ以上私の頭をかき乱さないでくれ。
「ねえ……そうなの?」
私はバッグの中に再び視線を落とす。
「ねえ、樹理雄?」
バッグの中で樹理雄の笑顔が私を見ていた。
――ああ、そうだ……。
何で、私は忘れていたのか。こんな大事な事を。
私は、私は。
限界が来ていたのは、私も同じだった。
そして、先に壊れたのは私の方だった。




