事前登録
2話目
「はぁ……。」
母親が仕事に行ってからほんの少しがたった頃、パソコンのディスプレイが大変なことになっていた。
兄さんが自分を売った、とご乱心である綾香からのメールによるものだ。
「どうしたものかな……。」
ディスプレイはメール画面で埋まっている。
すでにライフが無くなった俺の画面にオーバーキルを決めてやろうとメールの勢いは止まらなかった。
すべて同じ文面だ。
どれだけコピー&ペーストを繰り返しているのだろう。
文面を要約するとこうなっている。
自分を売った兄さんはそれなりの罰を受けるべきだ。今日から配信される予定のオンラインゲーム、「Brave force fantasy」、通称BFFの事前登録特典をよこせ、と。
「そういえば綾香は事前登録のことを知らなくて受付が終わったあとに登録したんだっけか。」
にしても、その特典をよこせは流石に横暴だ。
「おおっとッッッ!」
隣の部屋で何かが暴れ家が揺れている。
「俺がこの日をどんだけ待ったと思ってんだよ。おっと、配信が開始されたな。チャットで文句言ってやる。」
画面を移動していきゲームのスタート画面に辿り着く。
「さて、どんな世界が待っているかな。」
マウスカーソルを「開始する」の位置に合わせ、クリック音が真っ暗な部屋に響き渡った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「メールの返信が無い……。」
俊にメールを送り初めて早20通目。
中々反応しない俊に綾香は苛立ちを隠せずにいた。
「自分の罪を認めてさっさと特典を寄越しなさいってのよッッ!」
苛立ちがおさまらず周囲にあるものを壁に投げつける。
「あっ、もうこんな時間。配信が始まっちゃったわ。兄さんには向こうで文句言ってやる!」
あらかじめ開いていたページの文字が「お待ち下さい」から「開始する」に変わっている。
マウスカーソルを「開始する」に合わせた。
「この世界ではどんな冒険になるのかしら♪」
クリックをしてロード画面にうつる。
0……10……20……
着々と数字が伸びていく中で50%になったところで異変が起こる。
「あーーー、あーーー。僕の声が聞こえるかな?」
高くかわいい声の僕っ娘である女の声が頭に流れ込んでくる。
「ッッ?!」
綾香は驚きすぎて声を出せずにいた。
身に危険を感じ部屋を見渡す。
しかし、そこにはいつも通りの風景が広がっているだけだった。
隣の部屋から鈍い音が聞こえ、呻く声が聞こえる。
どうやら小指をぶつけたようだ。
「あーーー。よしっ。皆に届いているね。みなさん身構えなくてもいいですよー。これは頭のなかに直接流している声だから部屋には誰もいませんよー。」
みなさん……? ってことは色んな人が同じ事を体験していることになる。
「今この声が聞こえているのは学校に行かずに家にいる引きこもりの学生か、働きもせず親にすがって今を生きているニートの皆さんでーーす。」
ゲームを始めることで収まっていた苛立ちがふつふつと戻ってくる。
「他人に引きこもり扱いされると腹が立つわね……。」
「なんの生産性のない皆様に朗報でーーす。何かって?フフっ、そうでしょ、気になるでしょ?どーーーしよっかなーーー。教えちゃおっかなーーー。教えないでも良いかなーーーー?」
「フフフフフフフフフフッッ♪元凶はこれね?」
綾香は笑っていない目でディスプレイを注視し、今にもパソコンを壊そうとしていた。
「今回は特別におしえてあげましょう!それはですねー。皆さんに職を与えてあげようというものです!いやーーー、優しいなー。僕って本当。神様って崇められているだけあるなーーー。」
ーーーーー決めた。もう壊しちゃえ。
「さあっ、飛んでもらうよ!拒否権はないからね♪」
綾香の手により椅子が持ち上げられたところで意識が途絶えた。
文章力がなくてすいません……。読みづらい、直した方が良いなどの指摘、意見等々は常に受け付けてます。投稿ペースは気分です。