~四季の剣~
四季の塔(Le quattro staigion)の中は、七、八人の人が入れば一杯にになってしまいそうな広さの階段の無い吹き抜けの空間だった。そしてその中央の白い台座に突き刺さるように一本の剣があった。
「あれが四季の剣なの?はじめてみたわ」
「あれよ、王の手で剣を抜いてもらって、クリュスタロスに持って行ってもらわないと」
ニアとノエルの声が重なった。
「まあ、ホント言葉がわかるわ」
「ここから剣を持ち出すだって?」
今度は、ニアと王様の声が重なる。
ニアの頬がほんのりあからんだ。
「剣の力があるなら言葉で説明するよりこうした方が早いわ、お兄ちゃん手を」
ノエルが、僕の手をとった。
「ニアさん、お兄ちゃんと手をつないで、王様は私と反対の手はニアさんと」
ノエルの言葉に四人で手をつなぎ剣を中心とした輪を作る。
すると、剣の柄を飾る四つの宝石が輝き剣の少し上の空間にクリュスタロスの谷で氷像と化した父さんとそばで見まもる雪の女王のヴィジョンが映し出され展開される。
ノエル以外の僕ら三人は目の前のヴィジョンにただあっけにとられて眺めていた。
「ここに、王様が四季の剣をたずさえ行ってもらう必要があるの。人と精霊の心が呼び合い共鳴し不幸にも氷に閉じ込められてしまったせいで、精霊と人の世界の境クリュスタロスの谷は思わぬ変化をはじめた。今クリュスタロスの谷は、美しく尊い思い出で人や精霊の魂を呼び込みとらえて氷へと閉じ込めてしまう夢魔の谷へと変化しつつある。止められるのは四季の剣をたずさえ人と精霊の架け橋となり和を取り持つと契約を交わした人の子の王の子孫のみ」
「王の役目って、塔の守り人だけではなかったの?」
「四季の剣はこの塔を守るためここに安置されているのではなかったのか?」
ニアと王様が再び同時に口を開く。
「確かに剣は塔を守る役目もあるわ、女王の交代の時、塔が一時女王不在になる。わずかな隙が生まれるその瞬間によからぬ魔物から塔を守るために。でも女王がいる間は剣は必ずしも塔になくてはならないものではないの。かつての王族は精霊の言葉を理解し各地をめぐり人の子と精霊の架け橋となった。
短き命の人の子の王が何世代か交代し、人の世界が広大になった頃から徐々に王族も精霊の言葉を忘れてしまっていった。でもしばらくは剣を介して交流もあったのだけど……」
「王都から離れた小さな村じゃ精霊は人を虜にする魔物として伝えられていたりすると」
ノエルのあとを僕が引き継ぐ。
僕の村パゴスもそうだったのだ。だからその人々の思いが近くのクリュスタロスの谷に影響を及ぼしたのかもしれないと。人の子は一人では力も弱く魔力も持たずとも、多くの人が集まり集団で同じ思いをいだけばその思いが思わぬ力を得たりするのだ。そう、良くも悪くも……
「まぁ、すべての場所でそうじゃないし、精霊と今でも友好的な街もあるとは思うけど」
ノエルが気をとりなすように言った。
深刻な顔つきをしていたニアが一転して嬉々とした顔で王を見る。
「お父様、王の本当の役目を知ったのですものもうこの宮殿や王都に閉じこもっていなくとも良いですよね。わたしは世界を廻ってみたい」
「その前にまずは、この長引く冬を終わらせに一刻も早くクリュスタロスの谷へ行かないと」
僕は、黙ったままの王にむかって言った。
「わかった、わっかたが……私は生まれてこのかたここを離れたことがないのだ。だから……」
ずっと引きこもりだったらしい王様がうじうじと言い連ねるのをニアが待ちきれないとばかりに遮った。
「もう、じゃあわたしが代わりに行っても良いでしょ。お父様」
「いや、ま、まてシンフォニア。そなたを北の果てに行かせるくらいなら私が……」
慌てたように王様が声をかけたが、その時には
「えい」という掛け声とともにニアが四季の剣を台座からひき抜いていた。
剣は、光を放ちニアの手の中で手のひら大のロザリオに形を変えた。
一瞬驚いた表情をすぐに、決意の顔にかえると。ニアは手の中の銀のロザリオをぎゅと握りしめ言った。
「さあ、行きましょ。急ぐのでしょ」
そのまま、さっさと塔の外へと出てゆく。
「ま、まて、シンフォニア」
慌てて後を追う王様につづくように僕らも塔をでると、ニアが若草色のドレスを身にまっとた金の長い髪の美しく微笑む女の人にひざまずいていた。
「これは、春の女王様」
王様も後に続く。ノエルが僕の後ろに隠れるように身を寄せた。
「姉からの連絡で来ました。冬の女王の魂が戻るまで私が四季の塔に入るわけにはいきませんが、出来るだけの手伝いをと」
塔の周りの雪は融け、白の馬車と見たことのない鳥と馬を合わせたような生き物がいる。
「大丈夫です、ノエル。塔の近くにいればあなたは融けたりしないでしょう。話は姉からうかがっています」
「姉?」思わず声にでていたらしい。
「ええ、私四季の女王は姉妹ですもの。」春の女王は暖かな笑みを僕にむけた。
「クリュスタロスの谷は北の端、ユニコーンでは半月かかる。この子達に頼めば二、三日で行けるでしょう」
「この子達?」
「ええ、でもヒッポグリフは北の精霊の森に着いたら離してあげてくれるかしら。それから中央育ちの人の子にはクリュタロスの谷は厳しい」
とたんに王様が苦い顔でニアをみやり
「シンフォニア、私が行こう」と言った。
「わたしも行くわ。いいでしょ」
ニアもゆずらない。
春の女王が二人を見やり言った。
「今四季の剣の持ち主は剣を抜いたシンフォニアあなた。シンフォニアがクリュスタロスにいかなくては。王様は私とここで塔の守り人を」
春の女王の言葉にニアが目を輝かせて王様をみる。
「いいか、今回だけだ」
王様は苦虫をかみつぶしたような顔をして、しぶしぶうなずいた。
「私のケープを持って行きなさい。そうすればクリュスタロスの寒さも少しはしのげるでしょう」
「ありがとうございます。大事にお借りします女王様」
ニアが女王から薄紅色の透けるようなケープを受け取っる。
「さあ、お姉様の馬車にこの子達を、私は春の宮殿でみなの帰りを待っています。」