~王のお触れ~
「あー、こっまたどうしよう。もうすぐ二週間もたつのに都でもなんの手がかりもつかめていない。あー」
今日も王は暖かな部屋でうろうろ右往左往落ち着かない。
「お父様、王都の外へ世界の端々から広く情報を集めてみてはどう?以前から国の端まで世界を知りに行った方がためになると言って来たのに、お父様は宮殿から離れないのですもの」
シンフォニアは、好奇心に満ちた茶色の瞳でお茶御飲みながら横目で王をうかがう。
「たとえそうでも、私には役目がある世界を見て回るなどできん。お前にも行かせんぞ。だが広く国々から原因を探すのは確かによかろう。このまま冬が続けば人々は凍え、食糧もいずれつきてしまう」
こうして、王は国の端々までお触れをだすことにした。
『冬の女王が塔に籠ってしまった。春の女王も塔に訪れない。
原因をさがすのだ。冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。
ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。
季節を廻らせることを妨げてはならない』と。
王のお触れをたずさえた騎士たちが四方の宮殿から各地へと旅立ったその翌日冬の宮殿の前にユニコーンのひく氷の馬車がたどりついた。
***** *****
銀色の大きな宮殿の門番は僕たちを見るとぎょっとしたような顔をした。だが、自分の生い立ちと姿を知った今そんなことは気にしていられない。
「冬の精霊王の使いが来たと王様に言うように伝えて、お兄ちゃん。普通の大人にはあたしみたいな精霊はもちろん馬車やユニコーンも見えないの」
ノエルの言葉に思わず後ろの馬車と門番を交互に見返してみたがどうやら本当に見えていないらしい。
僕は軽く息を整え宮殿の門番の目を見ていった。
「冬の精霊王の使いのものだ。人の王に四季の塔(Le quattro staigion)のある中庭で会うと伝えよ」
門番の一人は無言でいったん門の中に消えすぐに戻ってきた
「中で待たれよ。王は四季の塔の守り人迂闊に人を近づけることはできぬゆえにまずは中でとおっしゃている」
だが、ノエルを連れ暖められた部屋に入るわけにはいかない。
「中では困る。王がこちらに来て確かめればよい」
僕は王にこんな口をと内心ひやひやしながら、ノエルに来るまでに言われたとおり精霊王の使いらしい言葉使いとやらに気を付ける。
また門番の一人が中に消え今度はしばらくたってから、門のそとに王冠をかぶった父さんくらいの精悍な顔の男の人とセルリアンブルーの清楚なドレスを着た栗色の髪の僕と同じくらいの年に見える女の子が出てきた。
そして、二人は出てくると息をのんだその眼は確かに僕の後ろユニコーンのひく馬車に向けられていた。
すぐに二人はその眼を僕に向けてきた。
「まぁきれい。まるで冬の星空をそのまま閉じ込めたかのような目をしているのね」
驚いたように固まる王様とは対照的に、その少女は恐れも、奇妙なものを見る目でもなくただ好奇心に満ちたキラキラと輝く瞳でまっすぐに僕の目を見つめてきた。
「わたくしは、シンフォニアと申します。人の王女というべきかしら?あなたは?」
「僕は、冬の精霊王の使い、アドニス。こちらが妹のノエル。僕たちを四季の塔へ案内していただけますか?」
「ええもちろんですわ。ねぇ、おと……王様」
「あ、ああ、ではこちらへ」
***** *****
生まれて初めて目にした四季の塔(Le quattro staigion)は頂上が見えないほど高く天にそびえ淡い金の光につつまれていた。東を翡翠色の春の宮殿、南を金色の夏の宮殿、西を蒼色の秋の宮殿、北を銀色の冬の宮殿、そして宮殿をつなぐ白い壁に囲われ足跡ひとつない白銀の雪野原に守られますっぐ天へとむかう真珠色の塔が。
「お兄ちゃん、あの中に剣があるはずよ」
ノエルが塔を指さす。
「じゃあ、行こう」
塔に向け一歩踏み出そうとした時だった。
「ま、待ってください。いったいどこへ?それにその氷像の少女は今何と?」
「王様ノエル様でしょ。でもわたくしもノエル様がなんて言っていたのか知りたいわ。教えて下さる?アドニス様」
「えっ、あの塔の中に剣があるって今言いましたよね」
振り返るとちろっと舌をだすノエルがいた。
「忘れてた、今の人の子の王様は剣をたずさえてないと精霊の言葉がわからないみたいなの。四季の女王様たちは人の言葉も話すから……」
「えっ、精霊の言葉?えー?ぼ僕は?」
「お兄ちゃんは両方自然にわかるみたいねぇ。とりあえず四季の剣があれば言葉が通じるって伝えて」
あーまったく、かんじんなこと忘れるなよ。いきなり叫んじゃって王様もシンフォニアも驚いてるじゃないか恥ずかしいったら……ぶつぶつと心の中だけでノエルに悪態をつきつつ僕は王様に説明をした。
「あ、あの剣にそのような力が……」
「お父様、知らなかったの」
シンフォニアがこれまでのお姫様然とした口調を変えあきれた顔で王様を見やる。
「クッス」思わず笑うと、シンフォニアは慌ててこちらを見って真っ赤になった。
「いえ、今の口調のほうがいいなと」僕が正直に答えると
「あら、よかった。かたくるしいのは実は嫌いなのニアって呼んでもらえる?」
お姫様はとたんにホッとした顔になる
「ええ、喜んでニア。僕もただアドニスと」
「ありがとアドニス。じゃ、行きましょお父様」
何か言いたそうにしている王様を遮るようにきっぱりとした口調でそういうとニアはさっさと塔に向かって歩きだす。
僕たちもニアをおって中央の四季の塔(Le quattro staigion)に向かった。