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~アドニスの知らなかったアドニスの秘密~


「さぁいいわ、後は王都に着くまで待つだけだから。なにから聞きたいお兄ちゃん?」

ノエルがふわふわとした毛皮のクッションをしいてくれた氷の腰掛けに座り一息つくと僕の向かい側の席に着いたノエルが話しかけてきた。

僕はいろいろがありすぎてグルグルしている頭をひとふりして目を閉じ、一度深呼吸をしてからノエルを見かえして口をひらいた。


「ノエル、僕がノエルのお兄ちゃんって?」

「あたしはお兄ちゃんの妹だから。正確には妹の魂の転生した雪の精霊だからかな」

「妹……妹の魂の転生……なんで……」

僕の頭に微かな記憶として残る生まれてすぐ死んでしまった小さな妹の姿が一瞬うかぶ

「うーん、はじめから説明した方が早いわね。時間はあるし」

そう言ってノエルが話し始めたのは昔の話始まりは僕の知らなかった母さんの物語。


 北の端の村パゴスに生まれた母さんは生まれた時からおとなしくか弱い子だった大人になれないと言われていた。そんな母さんは小さい頃一人で精霊の森へいくのが好きだったそして冬の精霊の森で少女の姿をした雪の精霊と出会った。子供には信じる心の強い精霊の見える子がいる、でもたいていは大きくなると見えなくなるものらしい。でも母さんは違った大きくなっても精霊の見える精霊カタワレの子だったのだとノエルは言った。


精霊は人に比べとても長い年月を生きる。はじめはノエルのような雪玉の子供の精霊として、やがて蝶の様に大人の精霊として生まれ変わるのだと。けれど子供の精霊の時に人の世界に焦がれた一握りの精霊がこの生まれ変わりの際に魂の半分を人の子の世界へと飛ばし人の子として生まれることがある。それが精霊のカタワレの子、人と精霊の架け橋の役目をはたしながら短い一生を終え元の精霊の半身のもとへ戻ってくるのだと言う。


母さんが森で友となったのが自身の半身の精霊だった。そして母さんと半身の精霊は二人して人の子である父さんに恋をした。母さんの村の幼馴染でいつも母さんの心配をして森に迎えに来てくれた父さんに。父さんは近頃北の村では少なくなってしまった精霊が見える子で、他の村の子の様に精霊と話す母さんをバカにしたりしなかった。母さんが大人になっても人として生きていられ父さんと結婚できたのはこの北の端パゴスが精霊の国境にあったため精霊の森やその奥クリュタロスの谷の加護によるのだと。


それでもかたわれの母さんは子供を産めるほどには丈夫ではなかった。でも僕を宿した母さんは僕を産むため同じく父さんを愛した半身の精霊と人の子のままで一緒になることを選んで魂を融合させた。15年前クリュスタロスの谷で一日行方知れずになった母さんは戻ってくるとその瞳が茶色から青色に変っていたそうだ。

精霊と縁遠くなっていた村人は、そんな母さんを不気味がり雪の魔物に取りつかれたと噂し誰もクリュスタロスに近づかぬよう禁忌の谷と言い伝えるようになった。

けれど精霊を信じていた父さんは気にしなかった。そうして僕が生まれた。精霊はとても人とは比べられないほど長く生きるでも母さんと融合した精霊は冬の精、人の子となり冬以外の季節を人の村で過ごすには無理があったそうして妹を産んだことで亡くなっってしまった。


「わたしはね、お兄ちゃんより精霊に近かい存在だった。それに人の世界でほぼ生活することがなかったからすぐに雪の精霊として生まれ変わったの。それで時々お兄ちゃんに会いにいったの」

「じゃあ僕は……」

「お兄ちゃんにも半分精霊の魂がまじっているわ。だから冬の女王様の魂が見える。それに魔法だって使い方さえ知っていれば使えるはずだし冬になればその力が増すの。ほら見て」

言ってノエルは氷の馬車の窓を指さす。窓に映ったのは、初めて目にした僕の顔。そういえば家には鏡はなかった。パゴスの人はみな目の見えないユキばぁちゃん以外は僕ら父子をさけるように暮らしていた。それは冬になるたび行方知れずになる変わり者だと思われているからだと思っていたのだけれど……

そこに映ったのは母さんによく似た面立ちの少年。父さんと同じ黒髪にノエルと同じ白めの無い澄んだ青の中に光を閉じ込めたかのように銀のきらめきを持つ見たことのない目をした少年の顔が、驚きを隠さない表情のまま僕を見つめ返していた。


父さんは、どこまで僕のことを解っていたのだろう。どこまでを母さんから聞いていたのだろう、あの小さな村で一人だけ違う存在だった僕……。

そのことを僕に悟らせないように気を付けながらたった一人で僕を守っていてくれたということだろうか?


「でも母さんは、人の子と融合して人の世界で長く暮らしたせいで精霊として転生するのに十年かかった」

「えっ?母さん?」

本当はなにも知らなかった父さんのことを考えるのに夢中になっていた僕に再びノエルが話しかけてきて、現実にひきもどされた。


「そう、母さんは十年かかって元の精霊として転生して冬風の精となった。この冬から女王様と共に世界を廻り塔に帰る前に冬の精霊の国と人の国の交わるクリュスタロスによって……そこで父さんと父さんの母さんを思う心に共鳴してあの母さんの氷像に閉じ込められてしまった。父さんは氷像に母さんの魂が宿ったのを感じ取ってそれで……」

「やっぱり共鳴をおこして父さんまでが氷像に?」

「そう。」ノエルは悲しそうに肩をおとす。

「あたしにもっと力があればお兄ちゃんの心にに通じるように話せていたら……止められたかもしれないのに」

「大丈夫、今から助けに行くんだろ?その……四季の塔(Le quattro staigion)?だかに」


ノエルが少し不審げに僕に目をむける。

「お兄ちゃん?えーと、まさか知らないの?四季の塔(Le quattro staigion)と四人の女王様のはじまりのうた」

「よ、四人?冬の女王様だけじゃなく?ああ、でもまぁ考えてみれば冬ってことはあと春夏秋ってことか、うん」

「はー、いくらパゴスが北の端っこの村だからって……まあいいわ。王都まで退屈しないですみそうね、お兄ちゃん。この際しっかり精霊と人の子の王について勉強してもらうわね」

「ノ、ノエルは詳しいんだね。あーいろいろ?」

「当たり前でしょ。冬以外の季節には精霊の国から出られないあたしたち子供の雪の精は、精霊の国でいろいろとならうのだから。お兄ちゃんも半分くらいは精霊なんだからしっかり覚えてね」

ほわほわの雪玉ノエルはどうやら性格はほわほわじゃなくしかっり者だったらしい。なんだか勢いに押され気味の僕はおとなしくノエルの講義を聴きながら王都をめざすことにした。


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