~王様とお姫様~
「あー、困ったどうしよう」
オレンジ色の火がともる暖炉によって、窓の外に広がる冬の寒空の下でも程よく暖められた冬の宮殿の王の間で一人クマのようにうろうろと部屋の中を行ったり来たりしているこの人は、今の人の子の王ヴァルディ十二世。
「お父様、いいかげん部屋をうろうろするのはやめて。気になって仕方がないわ」
「王様だ、シンフォニア」
「良いでしょお父様、今はこの部屋には二人だけなんだもの。それにまだたった一日ですわ」
王は足を止め、部屋の中ほどにあるテーブルで優雅にお茶を飲む栗毛の美しい娘の方を見る。
「シンフォニア、今だかつて女王様が一日たりとて遅れたことはないのだぞ。わたしが王位についてから、いや王家の記録によれば今日ここにいたるまで一度もない。あーなのになのにどおして私が王である時にこのようなことが……」
「ですから家臣に書物を探させているのでしょ。まだ一日もう少し落ち着いて待てばよいのに」
少しつり気味の勝気な瞳で王の顔を見返しながら少女は言う。
「シンフォニア、お前にはこの事態がわかっていないのだ。我が王家は長年精霊の女王様を迎え女王様がお過ごしになる四季の塔(Le quattro staigion)に誰も近づけないよう塔の守り人になってきたのだ。なのにかんじんの女王様の交代が……あーこまった」
黒髪が半分ほど白くなっても清肝な顔立ちをした王は黙って座っていれば威厳もあるのだがどうにも心配症で気が弱く、また部屋をうろうろと行ったり来たりをはじめた。
そんな王をため息をつき見つめる一人娘は声にはださず一人考える。あー私が外に出て原因を探してくると言ったらお父様はどうするかしらきっとたおれてしまうわね。なにしろ宮殿の外王都にでることさえいい顔をしないのだから……
廊下をバタバタと音を立て4人の家臣が王の間を訪れた。
「おー、どうであった?なにかわかったか?」
「春の宮殿には何もそれらしい書物はございませんでした」
「夏の宮殿もです。」
「秋の宮殿もです。」
「ここ冬の宮殿にもございません」
四人の報告に王は目に見えてうなだれる。
「王様、情報を集めに宮殿の外に出てみてはいかがかしら?」
シンフォニアが王を上目づかいにみつめながら聞いてみる。
とたん王は渋い顔になる
「私は、生まれてこのかた宮殿の外には出たことは無い。春夏秋冬にそれぞれの宮殿に住まい塔の女王様を守るのだ」
「ですが王様、四方の宮殿と宮殿をつなぐ渡り廊下を兼任する高い塀に囲われた広場の真ん中に建つ四季の塔(Le quattro staigion)にいったい誰が近づけますの?王都では今はその住民と世界を行きかう行商人達くらいしか四季の塔(Le quattro staigion)の存在を知らないと噂されていますのよ。たまには外におでになっても……」
少し子供っぽふくれて話し始めたシンフォニアの声も王の顔が赤くなるのを見て小さくなる。
「私は、ぜったいに宮殿を離れぬ。シンフォニアも王都内ならともかくその外にはでてはならぬ。使いは家臣達にまかせればよいのだ。とりあずお前たち今度は王都内から情報を探すのだ。なぜ春の女王様はおこしにならぬか、なぜ冬の女王様は塔からお出にならないのか、わかったか」
「はい王様」
四人の家臣は来た時と同じくばたばたとあわただしく王の間をあとにした。
「あー、こっまたこまった」
後に残されたのはまたうろうろを再開した王様と、王様に気づかれない様にこっそりため息をつくシンフォニア。