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機械仕掛けと護衛の王  作者: 杉下 徹
終章  凡俗
62/67

5-4

 昨晩の襲撃事件、そしてそれより生じた被害によって、俺達の実習は全日程の半分以上を残して終了となっていた。警備は一日交代制の為、今日の警備班に欠員は出ないが、明日以降はそうもいかず、何より実習を受ける側の俺達六人の内二人が今も病院に搬送されたままだ。

 そんなわけで、学園との連絡を待つ時間を余暇として与えられた俺達は、朝食が終わってすぐに病院へと見舞いに向かっていた。ノーラが付いている事もあってか、工場側もほとんど俺達の動向を気に留めるでも無く、簡単に許可を出してくれた。

「あれ、いない」 

 まずは比較的軽傷だったノヴァの元へと顔を出したところ、しかしベッドの上にはその姿は無かった。

「出歩ける元気があるなら、その方がいいけどな」

 特に治療中などとは聞かされていない為、それが正しければ自らベッドを離れてどこかに行っているのだろう。オルゴの言う通り、それはそれで、朗報と取ってもいいのかもしれない。

「それなら、ヒースのところに行くか」

 俺の提案に反対は無く、少し離れたヒースの病室に向かう。命に別状は無いらしいとは言え、腹部への重傷を受けたヒースには、ノヴァと違い個室が割り当てられている。

「ノヴァって子は、シモンとはどういう関係なの?」

 短い道中、ノーラが思い付いたように問いを口にする。

「どうって言われても……クラスメイト、としか」

「いや、お前らって、ただのクラスメイトにしては近くないか?」

「そうなの? 近いの?」

「近いと言うか、怪しいと言うか」

 すでにクライフはノーラと打ち解けた様子で、余計な軽口を挟んでくる始末。

「へー、そうなんだ。ふーん」

「俺とノヴァで怪しいなら、チャイの方が怪しいだろ」

「私!? って言うか、それって自分から言う事?」

「へぇーー、ふぅーーん。たしかに怪しいよね」

「怪しくないです! 潔白です!」

 目を細めて見るノーラに、チャイは過剰に慌てて両手を振る。そんな様子が可笑しく感じて、自然と口元が笑みを浮かべていた。

 ノーラと同級生達の関係は、今のところ悪くは無い。元々、人当たりの良かったノーラの事、そこはそれほど心配をしていたわけではないが。

「着いたな」

 階段を上がり、少し歩いた先、ヒース・ワイアードの名が書かれたプレートを前に、足を止める。当人に意識があるかはわからないが、一応ノックをしてみる。

「……どうぞ」

 返ってきたのは、落ち着いた少女の声。

「やっぱり、ここにいたのか、ノヴァ」

 扉を開けた先、まず目に入ったのは、パイプ椅子に座ったノヴァの姿だった。動きやすそうなジャージ姿に、襟元からは包帯が覗いている。

「もう動いて大丈夫なの?」

「元々、私の方は大した事無いから。軽い打撲と捻挫が数箇所で、入院も一応、検査の為みたいな感じだし、今日中には出られると思う」

 駆け寄ったチャイを抑えて、ノヴァは視線を横に移す。

「アトリシアさん。昨日はありがとうございました」

「ん? ああ、気にしなくていいよ。むしろ、遅かったくらいだし」

 ノヴァからの礼に、ノーラは手を振って返す。とは言え、あの場でノーラが来ていなければ、ヒースやノヴァ、俺だけではなく、あの場の全員が危なかった。

「シモンも、ありがとう」

「ん? なんで、俺?」

「戦って、私達が避難する時間を稼いでくれたから」

「ああ……まぁ、そうか」

 ノヴァからの感謝は、全く想定外のもので。

 あの時の俺はただ、自分が戦いたいという理由だけで従器を握っていたに過ぎない。それに、ノーラが現れていなかったら、俺も被害者の一人になっていたはずだ。

 それでも、結果的に時間稼ぎの役割を果たしたのは事実だから。それを全く誇れないとしても、感謝の言葉を跳ね除ける事はしない。

「ヒースの様子は?」

「まだ、目を覚まさないみたい。内臓がいくつか破損してるし、完治には数週間は掛かるって。治る事は治るとは聞いたけど……」

 ベッドに横たわるヒースへと視線を向けると、腹部から胸部に掛けてを真っ白な機械が覆い、患部の様子は確認できない。ただ、その医療用機器の物々しさと、血の通っていないような青白い顔色がヒースの状態の悪さを如実に示していた。

 従器の発明以来、医療、それも外傷に対する外科技術は必要に応じる形で相当な進歩を遂げたという。以前では後遺症の残っていたような外傷でも、完治、あるいは人口部品による代用で不自由無い身体機能を取り戻す事が可能になっており、今回のヒースもそれで事足りる範囲の負傷ではある。

 ただ、やはり、と言うべきか、ヒースについて話すノヴァの表情は暗い。

 おそらく、ヒースが重傷を負い、ノヴァが軽傷で済んでいる理由は、斬撃の直前でヒースがノヴァを庇ったからなのだろう。ならば、そこに責任を感じてしまうのもまた当然の事と言える。

「…………」

 なぜあの時向かっていった、と責める事はできる。あるいは、お前は悪くない、生きていたなら良かった、と慰める事も。

「また、後で」

「……そうね、また後で」

 ただ、前者は俺が言えた義理でも、そのタイミングでもない。後者は文字の上での慰めにしかならず、ノヴァには響かないと思ったから、今は二人だけにしておこうと決めた。

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