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機械仕掛けと護衛の王  作者: 杉下 徹
終章  凡俗
59/67

5-1

「おっはよう、シモン。朝だよ!」

 無駄に元気のいい声が、鼓膜から脳へと伝わり俺の意識を揺り動かす。

 目を開け、次第に鮮明になっていく視界の中、そこには懐かしい少女の顔があった。

「ノーラ!? なんでここに?」

「なんでって、起こしに来たんだよ。あっ、もしかして、寝ぼけてる?」

「……朝は弱いんだよ、知ってるだろ」

 窓から差し込む朝日の眩しさに、ようやくピントの合ってきた思考は、記憶を通して現在に至るまでの過程を割り出していく。

「あはは、変わってないね。お水でも飲む?」

「随分と準備がいいな」

「こんな事もあろうかと、持ってきてたんだよ」

 放り投げられたミネラルウォーターのペットボトルを受け取り、口元に運ぶ。常温より少しだけ冷やされた水の温度が体温を下げ、意識が完全に覚醒する。

「……こんなところで油売ってていいのか?」

「むっ、いくら私でも、寝起きに油飲ませるほど鬼畜じゃないよ。それに、お金も取らないから安心して。どうせ飲みかけだし」

「いや、そうじゃなくて」

 わかってるって、と陽気に笑うノーラは、記憶の中の印象とほとんど変わらない。とは言え、本人が変わらずとも、それを取り巻く環境は確実に変わっているわけで。

「シモンがどう思ってるか知らないけど、私はそんなに忙しくないよ」

「でも、国家特別王石保持者の仕事は?」

「そんなものは無い! って言うとちょっと違うけど、あくまであれは資格だからね。非常事態に招集が掛かる事はあるけど、それも強制では無いし、普段から拘束時間が長いわけでもない、と言うかむしろかなり自由な方なんだよ」

「そう、なのか」

「そうそう、だから安心して」

 本人に言い切られては反論する余地も無く、大人しく現状を受け入れる事にする。

「そんな事より、何か言う事は無いの?」

「……助けてくれて、ありがとう?」

「そうじゃなくって! 久しぶりに合った幼馴染だよ? かわいいかわいい幼馴染!」

「あー……かわいいかわいい」

「そんな気の抜けたオウム返しは要らない!」

 子供っぽく頬を膨らませるノーラを見ていると、自然に頬が緩むのを感じる。だが、別に最初からノーラをからかおうとしていたわけでもなく、求めている言葉に思い当たるところが無いのも本当だった。

「もう、本当にシモンはシモンだねっ」

「褒め言葉でも貶し言葉でもない、フラットな評価だな」

「どっちかと言うと貶してるつもりなんだけど」

 呆れたように頬に溜まっていた息を吐き、ノーラは続ける。

「とりあえず、女の子に会った時は服を褒めておきましょう」

 言われた通りにノーラの服に視線を向けると、それはどこかで見覚えのあるもので。

「……あー、俺の選んだ服か」

 少し考え、ノーラから服を選ぶよう催促が来た時の事を思い出した。

「そう、正解! でも褒めてない!」

「ノーラに似合う服を選べるなんて、俺のセンスは流石だな」

「わざとやってるよね、ねぇ?」

 再度頬を膨らませたノーラが可笑しくて、笑いが口から漏れる。

 数年ぶりに顔を合わせてなお、互いの間の会話に淀みは無い。それは、間違いなく喜ばしい事だった。

「……積もる話もあるし、他にも色々話したい事もあるんだけど」

 少しだけ調子を落とした声色に、微かに心臓が跳ねる。

 どれだけ変わらず見えても、両者の間に違う時が流れていれば、昔話は必然だ。それが真剣なものなら尚更、きっと俺にとっては望ましいものではない。

「まずは、シモンのお友達に挨拶を済ませちゃおっか」

 だが、続いた言葉は予想外のもので。

 直後、ばね仕掛けのように反転したノーラの足が、部屋の扉を蹴り飛ばした。

「うわっ、と……流石は国家特別王石保持者」

「お前ら……」

 勢い良く開いた扉の向こうには、クライフ、チャイ、オルゴの三人が揃っていた。

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