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機械仕掛けと護衛の王  作者: 杉下 徹
四章  飛翔
55/67

4-14

「それでは、今日もお疲れ様でした」

「はい、お疲れ様でした」

 一日の終わりを告げる言葉。

 昼の休憩時間が終わり、工場に戻って来た後も、これといって何か特別な仕事を与えられるでもなく、気付けば日も落ち、今日の日程も終了していた。

 外出中に感じた視線は、工場に戻る頃にはすっかり感じなくなっており、その後に復活したりもしていない。気のせいだったのか、何だったのか、いずれにせよ大して気に留めておくほどのものではないのだろう。

「しっかし、本当にやる事無いんだな」

「やっぱり忙しい方が良かったか?」

「そう言われると楽な方がいいけど、退屈なのは退屈だよなぁ」

 クライフの意見には皆少なからず同意なようで、それぞれに微妙な表情を浮かべている。

「ここは気晴らしに、これからパーッと遊ぶか?」

「ん……いや、やめとこう。あんまり大声をあげるのも良くない」

「それなら、コソコソ遊ぶか」

「むしろ気が沈みそうな気もするな」

 別にこれから寝るまでの時間を遊んで過ごす事に問題は無いのだろうが、どうにも気分が乗らない。クライフもそれを察したのか、強く勧めては来なかった。

「僕は、少し身体を動かしていくよ」

「……そうね、私もそうするわ」

 自主的な訓練を宣言したヒースに、どこか悔しそうにチャイが追随する。

「なら、私も」

「じゃあ俺も、そうするかな」

 そして、更にノヴァとオルゴが後に続いた。

 今日に関して言えば、外を出歩いた事を除けば、皆ほとんど身体を動かしていないに等しい。従者見習いとして、身体を鈍らせたくないという気持ちは誰も同じらしい。

「うわっ、どいつも揃って真面目だなぁ」

「クライフは行かないのか?」

「いや、行くけど。静かなのより、騒がしい方が好きだし」

 そういうクライフは、一度部屋に戻り、本を片手に戻ってきた。本当に、ただ騒がしい中で読書を楽しむつもりなのだろうか。

「シモンこそ、行かないのかよ」

「俺は、少し用があるから、それが終わってからだな」

「……ああ、なるほど」

 飲み込み早く頷いて去っていったクライフを見送った時には、他の皆はすでに二階の訓練場へと向かった後だった。

「どうかしたか、ノヴァ?」

 いや、一人だけ物陰からこちらの様子を伺っていた。

「別に。シモンは来ないのかと思っただけ」

「それなら、さっきも言った通り、用があるからその後で行けたら行く」

「用って?」

 クライフとは違い、ノヴァはその部分に追求してくる。ただ、それはおそらく、わかっていてあえて聞いているという類の問いなのだろう。そうでなければ、わざわざ俺を観察する為にここに残ったりはしていない。

「インディゴさんと会う」

 昼間、この工場から帰っていなかったインディゴさんは、今もまだ工場内、それもここからすぐ近く、自分用に割り当てられた個室の中にいる。

 もちろん、彼女が普段から、自身の勤務担当でない日も工場詰所に寝泊まりしているという可能性はある。ここの個室はそれなりに広く、居心地もいい。下手な物件を借りるくらいなら、勤務先から最も近い宿として使うという選択肢もあるのかもしれない。

 ただ、俺は、昨日彼女と交わした会話を覚えている。インディゴさんは、あの時、去り際に『また、後で』と言ったのだ。

 それだって、実習の五日間の中のいつか、という意味だったかもしれない。そもそも特に意味など無かったという事だってあり得る。

 それでも、俺にはインディゴさんが今日ここに身を置いていたのは、『後で』の後を遂げる為、釘を刺してきたリーディアさんの目を逃れ、俺と従器を交える隙を伺う為だったように思えるのだ。

「シモンも、意外とお節介ね」

「……お節介? 何の事だ?」

「とぼけなくてもいいのに」

 呆れと感心の混ざったような表情の、その意味は本当にわからない。

「とにかく、やるなら勝って。シモンなら、勝てるかもしれない」

「あっ……」

 言いたい事を言って去ってしまったノヴァを、後を追うでもなく見送る。ノヴァにも何らかの思うところがあるのだろうが、おそらくそれは俺の意図とは異なる。

「インディゴさん、いますか?」

 俺達の寝泊まりする個室と同じ並びに、インディゴさんの部屋もある。扉を二度、軽くノックして呼び掛け、返事を待つ。

「……シモン、ね」

 扉を開け、俺の顔を見るなり名を呼んだ彼女に、俺の考えは正しかったと感じた。

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