4-12
「しっかし、本当に楽な実習ね」
工場内の説明、そして正門と裏門の警備手伝いといった午前の予定も早々に終わり、俺達にはまたも自由時間が与えられていた。一応、昼食の時間も含んでいるというそれは外出の許可も含んでおり、実質的には自由に遊び回る許可を与えられたに等しい。
「ここに勤めたくなった?」
「いや、実際に働くとなったら、ここまで楽では無いでしょ」
「それはそうだけれど、それでも」
「うーん……いや、やっぱり、それにしても暇過ぎるかも」
ノヴァからの問いに、チャイは難しそうに首を捻った。
「仕事が楽かどうかはわからないけど、私はもっと戦って強くなりたい、かな?」
「そう、なるほどね」
「ノヴァは? ここで働きたいの?」
「私は……そうね、ここで働けるくらいになれば、それでいいかしら」
そう語るノヴァの表情は複雑で、自分でも迷っているようにも見えた。
「それで、そこで盗み聞きしてるあなたは?」
揺れていた声が、弦を引き延ばしたように張りに満ち、それを聞いて背筋が伸びる。
言い訳をさせてもらえるのであれば、廊下で話している二人の会話が閉め切っていなかった扉の隙間から聞こえてきていただけで、部屋に戻って準備をしていた俺はただその内容が気になったから聞き耳を立てていたに過ぎない。それを盗み聞きというのなら、返す言葉は特に無いが。
「……顔を出したら気を遣わせるかと思っただけなんだけど」
抗議するか適当に誤魔化すか悩んでいたところ、俺が顔を出すよりも先に意外な人の声が聞こえてきた。
「ノットさん!? お帰りになったんじゃないんですか?」
「今日は休みだけど、別に追い出されるわけでもないから」
驚きの声はチャイのもので、ノットさんはそれに素っ気なく返す。
「それで、どうなの?」
「ノヴァ、敬語……」
「別にいいわ。実習生とそこの従者に直接の上下関係は無いから。……っていうのはわかってるんだけど、実際に自分がやられると微妙ね」
淡々とした口調で問うノヴァにチャイは慌て、ノットさんは不機嫌そうに呟く。昨日からずっとそんな調子だった以上、それが彼女の常なのかもしれないが。
「私に職場の不満でも言ってほしいの? それとも、職場環境についての査察?」
「どちらでも。ただ、話に混ざりたいのかと思っただけだから」
「そう、お気遣いどうも。たしかに、男ばかりの職場で話し相手は欲しいかもね」
冗談のような返しにノヴァが小さく笑い、ノットさんもそれに続く。一見、いや、一聴する限りでは朗らかにも聞こえるやり取りだが、雰囲気はどこか重かった。
「でも、今は他に用事があるから、おしゃべりは遠慮しておくわ」
「そう? なら、行きましょう、チャイ」
「う、うん? それでは、ノットさんも、また?」
ノヴァと動揺したチャイの足音が離れていき、すぐ後に舌打ちと共に扉が勢い良く閉まる音が聞こえた。
「「「「!」」」」
恐る恐る扉の隙間を広げ、廊下の様子を覗き込むと、同じようにして扉を開きかけていたクライフ、ヒース、オルゴの三人とそれぞれ目が合ってしまった。
「……なんか、女って怖ぇな」
クライフの呟きに、今ばかりは皆で首を揃えて頷いた。




