4-11
寝覚めは、普段よりも良かった。おそらく、睡眠時間を多く取ったためだろう。
だからと言って、目覚ましの設定よりも早く起きたわけでもなく、ただすんなりとベッドを出て朝食を残さず片付ける事が出来たというだけの話ではあるのだが。
「今日はまず、工場内部を一通り回って行こうと思います」
朝食が終わると、昨日に引き続きリーディアさんの指示に従う事になった。疲れを欠片も出さないその様子を見る限り、昨日の言葉に嘘は無く、十分に睡眠を取ったようだ。
「……おっ、学生諸君、俺は一旦帰らせてもらうぜ」
宿舎から工場へと向かおうかというところで、ちょうど宿舎から現れたノットさんが目を擦りながら声を掛けてくる。
「お疲れ様です、8時で交代なんですか?」
「ああ、朝の8時に来て、同じ時間に帰る。俺はちょうど今までも休憩だったんだが――」
そこで一度大きく欠伸をすると、ノットさんは億劫そうに続ける。
「ここにいると、もしもの時に駆り出されちまうからな。家で寝るのが一番だ」
そう言い残すと、従器を杖のようにして覚束ない足取りで去っていった。
「まぁ、そう言うわけで、今日の警備の人員は昨日とは違います。もっとも、前もって実習については説明してあるので、皆さんはそれほど気になさらなくて結構ですが」
ノットさんとの遭遇を綺麗に説明に組み込み、リーディアさんは歩みを再開する。
「基本的に、このカウス従器工場では機械が作業のほとんどを行っているため、いわゆる作業員といった方々は存在しません」
その言葉の通り、ここまで俺達は工場内で従者以外の人と顔を合わせてはいなかった。
「ただ、やはりどうしても機械というものはトラブルに弱いですから、そういった場合の為に生産ラインを監視し、問題が起きれば対応する為の人員は必要です」
そこまで言えば、その次の展開は大体予測が付く。
「そういった担当の方がこの先の設備室には控えているのですが……」
しかし、リーディアさんの口調はどうも歯切れが悪かった。
「まぁ、彼への挨拶はやめておきましょう」
「何か事情があるんですか?」
「そうですね、事情と言うよりも――」
オルゴの問いにリーディアさんが答えかけた瞬間、ちょうどその後ろの扉が開いた。
「あれっ、どうかしましたか?」
現れたのは、中肉中背、特徴の無い出で立ちをした青年で。俺達の姿を見ると、少しの間だけ固まり、その後に得心したというように頷いた。
「ああ、実習の学生さん達ですね、どうも。この工場の設備担当の、ラフト・スーです」
「こちらこそ、どうもよろしくお願いします」
丁重に頭を下げるスーさんに、一同で礼を返す。
「ここには、何の用で? 設備室の見学ですか?」
「いえ、工場内の巡回で立ち寄ったので、ただ紹介でも、と」
「そうですか、それはご丁寧に」
「いえいえ、それでは、また」
会話を継いだリーディアさんは、どこか避けるように短くやり取りを済ませてしまう。
「……別に変な人じゃなかったな」
「まぁ、勤務体系で色々あるんじゃないか?」
「そういうもんかねぇ」
内緒話ではないが、同じように違和感を覚えたらしいクライフと小声で意見を交わす。
「さて、次に行きましょうか」
特に補足するでもないリーディアさんの様子は、やはり不自然に思えたが、それを指摘しようとする者は俺達の中には誰もいなかった。