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「常駐従者の仕事で一番辛いのは、実は規則的な生活リズムを保てない事なんです」
食事とその後の食休みを済ませた後も、俺達の実習日程はまだ終わらない。
家に帰るまでが何とやら、という類の心構えではなく、実際に行動としてリーディアさんの付き添いの元、工場の敷地内を回る事となっていた。
「このカウス従器工場では、休憩は一度に三時間ずつ、一人に付き一日に合計で六時間となっていますので、その間に食事や睡眠等を済ませる必要があります。食事の方は業務中に手軽なものを取るという事もできますが、睡眠に関しては流石にそういうわけにも行きませんので、まとまった睡眠は最大でも三時間、それも休憩の時間帯によってかなり左右される事になってしまいます」
「結構、大変なんですね」
半日ほど時を共にし、大分慣れてきたのか、少しくだけた様子のオルゴが相槌を打つ。
「とは言え、王石近辺と裏口の担当は二人組なので、一人ずつ仮眠を取っている場合もあるようですし、ここの仕事は一日交代制という事で、翌日に十分な休息を取る事も可能です。なので、純粋に生活リズムが崩れる事以外はそれほど問題はないかと」
「あっ……そう言えば、一日で交代だった」
思い出したように小声で呟くのは、クライフで。
「リーディアさんは、いつ休憩を取っているんですか?」
その声を掻き消すように、質問を重ねる。
クライフは俺とインディゴさんの対決の機会について憂慮しているのだろうが、リーディアさんはそれを聞いてあまりいい顔はしないだろう。
「私は、基本的には一般の方と同じように夜に睡眠を取り、朝に起床していますね。予備従者の仕事は、呼び出されてすぐ現場に赴く事さえできれば後はほぼ自由なので」
「なるほど、そうだったんですか」
「はい、なので、私の監督下である皆さんも、同じようにこの後は十分な睡眠を取っていただける日程になっています」
正門から工場の内周を回り、そろそろちょうど一周になる。
正門と裏門、二つの門を除いて工場の周りは3メートルを超える塀で囲われており、更にその上にはレーダー探知式の警備装置が設置されている為、正規の手段以外での工場敷地内への侵入は難しい。仮に侵入したとしても、隙間なく張り巡らされた監視カメラとレーダー探知の監視網に発見されるか、それらの破壊により侵入を知らせるかのどちらかになり、その後は九人の正規従者との逃走劇を演じる羽目になるだろう。
警備体制はほぼ万全であり、だからこそ警備に付く従者達は一種の退屈に悩まされるであろう事は想像に難くなかった。彼らの存在自体が抑止力でもある為、仕事が無いなら要らないという単純な話で無いところが問題だが。
「施設警備の仕事は、従者の仕事としては比較的暇な方です。そして、暇だという事は安全だという事でもあります。特に、ここのような大手の企業は、給金も相場と比べてかなり高く設定されている為、従者の天国などと呼ばれる事もありますね」
職場の環境の良さを語るその口調は、自慢気には聞こえなかった。
「皆さんも、卒業後は従者として働こうと考えているでしょうから、参考程度に。もっとも、大手の専属に選ばれるには、まず前線である程度の実績を積むのが普通ですが」
そう言い終えたところで、リーディアさんはこちらを振り向いた。
「では、今日の実習はここまでです。お疲れ様でした」




