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機械仕掛けと護衛の王  作者: 杉下 徹
四章  飛翔
49/67

4-8

「これは、随分とまた豪華だな」

 各々で、あるいはそれぞれペアを組んだ訓練での汗を流し終えた俺達は、そこから少し間を空けて呼びに来たリーディアさんに従い、夕食の場に着いていた。

 詰所の一階、個室を数部屋合わせたような広い空間と、真中に大きなテーブルがあるだけの簡素な造りのそこは、普段は食堂というわけではないらしい。休憩が二人づつなのに加え、それぞれが自分用の個室か外に出て食事を取る為、そもそも食堂というものが必要ないという事らしい。

「だな。まぁ、豪華な分には万々歳だろ」

 そして、特に注文をしたわけでもない俺達の前には、高級ホテルの夕食のような料理の数々が並んでいた。出費がどこからのものかは気になるが、特別に実習に際して費用を取られたわけではないので、クライフの言う通り素直に喜んでおくのが正解なのだろう。

「しっかし、あの人はおっかなかったなぁ」

「あの人って言うと、インディゴさんか」

 リーディアさんも席を外し、誰が見ているわけでもない中、クライフは遠慮無く食事を口に運び始めた。俺もそれに倣い、普段通り適当に会話を交わしながらの食事を始める。

「そうそう。シモン、良くあそこで声かけたよな。あれって、チャイを庇ってたわけ?」

「いや、別にそういうわけじゃ――」

「そうだったの、シモン? 別に、私は大丈夫だったのに。むしろ、余計なお世話だし」

 クライフの口から名前の上がったチャイも、当然のように会話に混ざってくる。その言葉通り、チャイの様子は大分前から普段通りに戻っていた。

「やっぱり、シモンは女子に甘いってのは本当だったのか」

「誰がそんな事言ってたんだ、むしろ俺は厳しい方だぞ」

 礼儀正しく食前の挨拶を済ませてから食事を始めたオルゴの言葉は、良くある誤解の一つで。俺は一種の男女平等論者であり、言葉の通り性別のどちらかにだけ甘いわけではない。むしろ、遠慮が無い分だけ厳しいと取った方が正しい。

「いや、シモンは女子には優しいと思うわ」

「ノヴァまでおかしな事を……?」

 ごく自然に返しかけ、その途中で違和感に気付く。これまで俺に自分から話しかけてくる事の無くなっていたノヴァが、普通に会話に参加していた。

 探るようにノヴァに視線を向けるも、するりと逃れられ目を合わせる事は叶わない。とは言え、時間の経過かあるいは他の理由か、その態度は少しずつ軟化して見えた。

「そもそも、女子がどうって言うならインディゴさんも女子じゃないか?」

「いや、別にシモンがあの人をいたぶったわけでもないし、それは関係ないだろ」

 クライフの的確な返答に、言葉の選択を間違った事を察する。

「少し思ったんだけれど、あの人くらいになると、『女子』とは呼べないんじゃないかな」

 重ねて口を挟んできたヒースは、どうやら今になってやっと長ったらしい食前の礼を終えたらしい。それが礼儀作法なのか、宗教的な何かなのかはともかくとして。

「いや、そういう事言うの?」

「良くないわね」

 ヒースの発言に、女性陣は非難の眼差しを向けていた。

「やっぱり、ヒースのそれはフェミニズムじゃないよな」

「オルゴ、君は何を言うかと思えば。僕は根っからのフェミニストだろうに」

「でも、女子はこんな反応だし」

 余裕の表情を見せていたヒースだが、ノヴァとチャイの渋い表情を見て流石に首を捻る。

「僕はただ、女性には年齢に相応しい呼び方があると言っただけじゃないか」

「いいか、ヒース。女ってのは……いや、何でもない、お前はそれでいい」

 何かを諭そうとしたクライフが、その途中でやっぱり止めたとばかりに会話を方向転換した。おそらく、ヒースに女心を説いた場合の損得を計算した結果だろう。ただでさえ女子からの人気が高いヒースを、これ以上恋愛に強くする必要はない。

「とにかく、女子だろうが女性だろうが、俺はあの人の事が気になっただけだ」

 一しきり会話が流れたところで、とりあえず最初の話題に戻す。

「気になったって……一目惚れ?」

「多分違う」

「多分って何よ」

「多分は多分だ」

 過剰な恋愛脳のチャイを適当に流そうとするも、思ったよりも喰い付きが良く、無駄に苦労する。実際のところ、インディゴさんの容姿は整っており、鋭利な印象の中にどこか幼さを残した絶妙なバランスで成り立っていた。つまり、好みの範疇には入るのだが、それを一目惚れと表現するのは違うだろう。

「まぁ、シモンは自分より強い女が好みだしな」

「そうなの?」

 どうやら、どいつも結局は恋愛話に持ち込みたいようで、どこから捻り出したのかわからない推論をクライフが持ち出し、ノヴァがそれに興味を示していた。

「またお前はおかしな事を……」

「だって、シモンってノーラ好きじゃん?」

「それがイコール強い女が好き、にはならないだろ、普通」

「いや、まぁ、そうだけどさぁ」

 どうやら彼独自の理屈があるらしく、クライフは納得いかないというように首を捻る。

「そもそもの話、インディゴさんはシモンより強いのかな?」

「それは、普通に考えればそうだろ」

「どうかしら、私にはそうは見えなかったけど」

 そして、ヒースの一言により、話題はインディゴさんの強さに移り変わっていた。

「ねぇ、チャイはどう思う?」

「私は……わかんない。シモンもあの人も、私に対して本気でやってたわけじゃないし」

 そこで、僅かに意味ありげな視線が投げられたのは、見なかった振りをする。

「どうせなら、あのままやり合ってくれた方が面白かったのにな」

「クライフだって、あのままだったらノットさんとやってただろうに」

「俺の話はいいだろ、流石に結果は見えてるし」

 人事のように言うクライフに話を返すと、つまらなさそうに腕を振った。

「まぁ、また後で、って言ってたし、楽しみに待っとくか。思ってたより暇そうだし、また時間が空くこともあるだろ」

「またそんな、見世物みたいな事を」

「いや、そうだな、見世物だ。パトリックよろしく、どっちが勝つかで賭けでもしようぜ」

 十二分に取られた食事の時間、話題を転々としながら会話は続いていった。

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