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機械仕掛けと護衛の王  作者: 杉下 徹
四章  飛翔
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4-6

 リーディアさんによる講習は、要点だけを抜き出したようなわかりやすいもので。狭い屋内での戦闘法、警護対象と侵入者の位置関係、応援部隊との合流法など実践的な対処法を手早く頭に詰め込む為のそれは、無駄が無い故に非常に早く終わった。

「……暇だな」

 どうやら夕食の時間までを使うはずだった講習が早々に終わってしまったらしく、再び自由時間を言い渡された俺達は何をするでもなく、こうして顔を突き合わせている。

「まぁ、忙しいよりはいいんじゃね?」

 文庫本から視線を外しもせず、クライフが適当に言葉を返してくる。どうやらあらかじめ空いた時間の為に本を持ってきていたらしい。

「部屋で読まないのか?」

「ん……いや、そんなに集中して読む必要も無いか、って」

 そうは言いつつも、やはりクライフの声はどこか空返事だ。

「何冊か持ってきてるなら、一冊貸してくれよ」

 そうクライフに頼んだのは、俺と同じく暇を持て余したオルゴ。

「あー……別にいいけど、これが一巻で、他は続きなんだよな」

「なら、やめとくか」

「そうだな」

 本を借りるというアイデアは、連続小説という仕組みに阻まれてしまう。俺も本を借りる事は少し考えていたものの、別の暇潰しを選ぶしかないようだ。

「こういう時は、やっぱり特訓に限るわね」

「気が合うね、ちょうど僕もそう思っていたところだ」

 向上心に満ちたチャイの言葉に、ヒースが同意する。

「……やっぱり、たまにはのんびりするのもいいかも」

 しかし、ヒースの意見を聞くなり、チャイはすぐに前言を撤回してしまった。チャイが一方的にヒースを苦手としているのは、以前から変わりないようだ。

「俺も、少し身体を動かしておきたいな」

 この時間は、普段なら授業も終わり放課後、遊ぶなり休むなりしているのが常だが、今日の実習ではまだほとんど運動らしきものをしていない。実習中に疲れを溜めるべきではないだろうが、せめて普段の授業分くらいの運動はしておきたい。

「おっ、暇そうにしてるな、学生諸君」

 真剣に訓練でもしようかと考え始めたところで、快活な男性の声が響いた。

「ノットさんに、インディゴさん。お疲れ様です」

 詰所の扉から現れたのは、先程の案内で出会ったオーヴェス・ノットさんとカルナ・インディゴさんの二人組だった。

「ちゃんと名前は覚えてたか、感心感心」

「…………」

 人当たりの良い笑顔を見せるノットさんの横、インディゴさんは無言で頭を下げる。

「これから休憩ですか?」

「まぁ、そうっちゃあそうだな。もっとも、休憩するほど働いてもいねぇし、むしろ今からの方が動くくらいだが」

 軽く腰元の従器を揺らし、ノットさんはこちらを見て続ける。

「どうだ? もし暇なら、俺達と一緒に訓練でも」

「いいんですか?」

「チッ……」

 提案に喰い付いたチャイの声に、インディゴさんの舌打ちが被った。

「あぁ、将来有望な学生諸君の腕前も拝見したいしな」

 ノットさんは特にそれを気に留めるでもなく、インディゴさんもあえてそれ以上引き留めようとはしない。

「それなら……お願いします」

 一同に目配せで確認し、反対する者もいなかった為、ありがたく申し出を受け入れる事にする。

「じゃあ、二階に行くか」

「二階?」

「なんだ、パリウスから聞いてねぇのか。ここの二階は、訓練用のスペースになってるんだよ。この人数なら、まぁなんとか収まるだろ」

 廊下の奥、階段があるのは気付いていたが、その上の階についての説明はなかった。おそらくリーディアさんも折を見て説明するつもりではあったのだろうが。

「二階っつっても、暴れて下にまで伝わるようなヤワな造りじゃねぇし、迷惑とか考えずいつでも使ってくれていいからな」

「はい、助かります」

 ノットさんの応対にはいつの間にかヒースが付いており、俺達はその後を着いていく形になる。

「インディゴさんは、ここで働くようになって長いんですか?」

「……いや、まだ一年目ね」

 チャイは機嫌の悪そうなインディゴさんに果敢に向かい、どうにか返事をもらう。

「それじゃあ、とりあえず適当に打ち合ってみるとするか」

 階段を上った先、詰所の二階は一面に真白な開けた空間で、その真中に立ったノットさんは気軽にそう口にした。

「一、ニ、三……六人だから、俺とカルナで三人ずつだな」

「勝手に私を数に含めないでくれない?」

「いいじゃねぇか、別に学生に負けるのが怖いわけじゃないだろ?」

「……はいはい、わかりましたよ」

 あまり乗り気では無さそうなインディゴさんだが、挑発には軽く乗ってしまう。

「じゃあ、一人ずつ、好きな方を選んでくれ」

「では、僕はノットさんと」

「インディゴさん、お願いします」

 ノットさんの適当な宣言と同時、ノットさんにヒース、インディゴさんにチャイが名乗りを上げる。

「おぉ、やる気だな」

「手加減はしないから、そのつもりで」

 対する二人も、従器の待機状態を解除し、相対する形を取った。

「じゃあ、お手並み拝見と行きますか」

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