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一通り回った、という言葉に嘘は無いようで、正門から裏門、工場内までを案内された俺達は再び従者詰所に戻ってきていた。
「まぁ、皆さんも何となくご理解いただけたと思いますが、率直に言うとここの従者はあまり実習に向いた業務体制をしてはいないんですよ」
一階の開けた空間で、リーディアさんが少しだけ困ったように語る。
「私達の業務時間の大半は、見ての通り待機ですから。もちろん、万が一を思えば無駄な仕事ではないのですが、実際に普段やる事は……言ってしまえば退屈で、皆さんにもすぐに出来るような事ばかりです」
リーディアさんの言う事は、おそらく正しいのだろう。ここまで見てきた限りでは、正門と裏門の入出管理以外、仕事といった仕事があるようには見受けられなかった。その管理というのも、ほとんど機械が行ったものを確認する程度だ。
「……ああ、どうも」
言葉の切れたタイミングで、奥の個室の方から二人の男性が現れ、俺達とリーディアさんを目にすると小さく頭を下げた。
「どうも、ちょうど交代の時間でしたか」
どうやら休憩に入っていた二人らしく、一人は頭を掻きながら、もう一人はやけに姿勢良く、二人共に早足に詰所を後にしていった。
「それで、余計な事かもしれませんが、皆さんにはカウス従器工場専属従者のマニュアルに従って施設防衛の際の要点と、屋内や障害物の多い状況での戦闘のノウハウをお伝えする事で、一応の実習の形を整えさせていただこうかと考えております」
二人の去った後で、リーディアさんはごく自然に話を戻していく。
「マニュアルなんてものがあるんですね」
「はい。基本的な内容は、皆さんが学んでいるものとそれほど変わりはないと思いますが」
「いえ、私達はまだその分野は……」
屋内戦闘や施設防衛といった状況別の対応については、一年生である俺達のカリキュラムにはまだ含まれていない。
「ああ、そう言えば、まだ皆さんは一年生でしたか」
どうやらリーディアさんもそれに気付いたらしく、誤魔化すように小さく笑みを見せる。
「しかし、それでも問題はないでしょう。それほど難しいマニュアルではないので」
学年の違いはあくまで誤差という事なのか、講習は予定通りに始まった。