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機械仕掛けと護衛の王  作者: 杉下 徹
四章  飛翔
45/67

4-4

「実際のところ、こういった施設の常駐従者の仕事は少ないんですよ」

 工場敷地内を歩きながら、リーディアさんが苦笑しながらそんな事を口にする。

 従者としての実力や地位がどうかはいまだわからないが、学生相手に尊大にならず、敬語と慇懃な態度を保ち続けるリーディアさんには好意が持てた。

「このカウス従器工場の場合、専属の従者は十六人いますが、一日交代制の為、今いるのは半分の八人。工場周囲の警備が正門に一人、裏門に二人、遊撃要員に一人で四人。残りの四人の内、二人が王石近辺の護衛、二人は休憩を取るという分担になっています」

 そこまで一息に言い切り、しかし、と続ける。

「正門と裏口の警備はともかく、その他は基本的にやる事は無いんですよ。特に王石までの道は警備の従者も開けられない扉で閉ざされていますから、やる事と言えば――」

 そこで、リーディアさんは視線を一箇所に飛ばした。

「――カードで遊ぶくらいのものです」

 視線の先、工場端の一角では、男性と女性が一人づつ、今まさにカード遊びに興じている最中だった。

「何よ、パリウス。文句でもあるの?」

「私は人に文句を付けた事は数えるほどしかありませんよ、インディゴさん」

 まだそれなりに距離がありながら、インディゴと呼ばれた女性は耳聡くこちらの会話を拾っていたようで、カードを手にしたまま立ち上がり距離を詰めてくる。

「そうよね、あなたが文句の言える性格だったら――」

「あー、やめろカルナ。一々突っ掛かんな」

 なおも何か言いかけたインディゴさんを、後ろから追ってきた大柄な男性が止める。

「実習生の案内か。わざわざこんなとこまで連れて来なくてもいいもんを」

「正門の前にずっと屯しているのも、あれですから」

「まぁ、だよな。どこでも同じようなもんか」

 大柄の男性はリーディアさんと軽く言葉を交わすと、俺達へと向き直った。

「ここの専属従者の、オーヴェス・ノットだ。こっちはカルナ・インディゴ。覚えなくていいけど、覚えてもいい」

「どうも、よろしくお願いします」

 紹介に自己紹介を返すか悩むが、挨拶だけに留める事にする。

「よろしく頼まれても、まぁ見ての通りだけどな」

 ははは、と快活に笑い、ノットさんは机の上のカードを指差した。

「ここの仕事は、ぶっちゃけると欠伸が出るくらい楽だ。まぁ、適当にやってってくれや」

 そうします、と言うわけにもいかず、曖昧に笑みを浮かべておく。悪い人ではないのだろうが、こういった状況での冗談の処理は難しい。

「さて、これで回る場所は一通り回った事になりますが」

 話がちょうど一段落付き、ちょうど二人が机に戻ったタイミングで、リーディアさんが穏やかに口を開く。

「何か質問等はありますか?」

 そこで、真っ先に応じたのはヒースだった。

「リーディアさんは予備従者を名乗っていましたが、先程の説明だとこの工場の従者にそのような役職は存在していなかったように記憶しているのですが」

「ああ、そうですね。そこは説明していませんでした」

 ヒースの指摘に、リーディアさんは軽く笑みを浮かべて答える。

「先に説明した十八人の従者には、私は含まれていません。つまり、予備従者の私を加えると、正確にはこの工場の専属従者は十九人という事になります」

「そうですか、ありがとうございます」

 納得した表情を浮かべ、ヒースが軽く礼を言う。

 リーディアさんの説明は、淡々としていながらも一つの事実を示していた。二組に分けられないただ一人の役職、それはおそらく最も重要なそれに他ならない。

「給料は、どのくらい貰ってますか?」

 踏み込んだ質問は、オルゴのもので。思い切った決断に少し感心する。

「基本賃金が月で百三十二万エウラ、そこから先の手当に関しては、独自の評価方式があるようですが、私達の側には伝えられていませんね」

 それに対し、リーディアさんは個人的な賃金については触れずにごく表面的な答えを返した。オルゴとしても、個人の事情に興味があるわけではないようで、そこで話は終わる。

「では、とりあえずまた移動しましょうか」

 質問が途絶えたのを察し、リーディアさんはそう言って軽く微笑んだ。

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