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機械仕掛けと護衛の王  作者: 杉下 徹
四章  飛翔
44/67

4-3

「それで、皆さんがリニアス高等学院からの実習生で間違いありませんか?」

 カウス従器工場の外門に辿り着くと、そこにはすでに背広を着た細身の男性が出迎えに来ており、俺達の姿を見るなり声を掛けてきていた。

「はい、シモン・フレクト以下六名、間違いありません」

 それに対して、なぜかヒースが率先して応対してくれる。俺としては、面倒が省けて嬉しくはあるのだが。

「そうですか。あれ? あなたがフレクトさんでは――」

「ああ、フレクトは私です。彼はヒース・ワイアードで合ってます」

 怪訝な顔をした男性に、急いで学生証を差し出す。

 やはり、ヒースを『シモン・フレクト』だと勘違いされてしまったらしい。学生証の提出により、早めに誤解が解けたのは良かったが。

「そのようですね。では、中へどうぞ」

 妙な状況にも、職員の男性はすぐに納得して手続きを進めていく。

 カウス従器工場は、国内でも最大手の従器の生産元であり、外から見た施設もどこか威圧感のある巨大なものだった。そして、その印象は近付くほど更に強くなる。

「まず、一応の自己紹介を。私は、今回のこの実習において皆さんの監督を担当させていただく事になります、パリウス・リーディアと申します」

 丁寧に頭を下げる背広の男性、リーディアさんに、こちらも一同頭を下げ返す。

「私は、普段はこの工場の予備従者、まぁつまり、応援として呼ばれるまでは奥でただ待機しているだけなんですが、それでは何なので、今回の実習では皆さんが一通りの従者の役割を体験、もしくは見学する手伝いをさせていただくという事になります」

 淀みなく言葉を紡ぎながら、リーディアさんは建物の前で足を止める。

「ここは、従者用の詰所です。皆さんがここに滞在する間は、ここを寝床として使っていただく事になりますね」

 その建物は、一言で言えば白い箱だった。

 真新しさすら感じさせる清潔感のある白い壁が直方体を型取り、俺達の正面にある入り口と思わしき扉すら、その縁と機械式の鍵以外は白で統一されていた。

「入る時と、そして出る時もこのカードキーを通していただく事で、扉が解錠と同時に開き、そして閉じると同時に施錠されます。もし紛失された際は、必ず私にお伝えください」

 俺達のそれぞれにカードキーを配った後、手本を示すように自ら扉を開けて中に入るリーディアさんの後を、皆で遅れないように付いていく。

 詰所の中は、外観とほぼ同じ印象の、綺麗に整った内観をしていた。入ってすぐにがらんと広い空間があり、その奥は廊下の両端に扉がいくつも取り付けられている。

「皆さんのお部屋は、とりあえずそのカードキーの表面に記された番号と同じ番号の部屋とさせていただきましたが、それぞれの部屋の鍵とは別物なので、そちらで交換していただく分には構いません」

 指先を追って見ると、どうやら個々の部屋は手で捻って掛けるタイプの簡易的な鍵のようで、カードキーと別に鍵を持ち運ぶ必要はないらしい。

「それでは、私は一旦席を外しますので、三十分後にそこの大部屋で」

「はい」

 次の合流時間だけを告げて去っていったリーディアさんを見送り、小さく息を吐く。

「思ってたより良さそうなとこだな」

「少なくとも、寮の部屋よりはいいな」

 声をかけてきたクライフにそう返して、とりあえず割り当てられた部屋に入る。

 寮と同じ一人部屋でありながら、その広さは寮のそれと比べて少なくとも優に二倍以上はある。持ってきた荷物を適当な一角に置くと、それだけで荷解きは終わった。

「……まぁ、そうなるよな」

「だな」

 する事も無いので部屋を出ると、ほぼ同時に廊下に顔を出したクライフと再会。すぐにオルゴとチャイ、少し遅れてノヴァも部屋から出てくる。

「三十分は、微妙に暇だな」

「休憩でもしてろって事なんじゃね」

 色々と準備の為に時間を空けてくれたのだろうが、実際のところそれほど準備する事などはない。鞄一つに纏めた荷物を置けさえすれば、それで良いのだ。

「誰か、カードとか持ってないか?」

「一応持ってはいるけど、今からやるの?」

「あー……まぁ、そうだな」

 暇を持て余したオルゴが遊び道具を探すも、ノヴァの一言ですぐに引き下がった。カード遊びに熱中するには、少しばかり空き時間が短い。

「あの人、どう思った?」

 そうなると、やはりする事は雑談となってくる。そして、今のところ目新しい話題と言えば、俺達の監督係だというリーディアさんについての話になるのも当然で。

「予備従者って事は、そんなに高位の従者じゃないって事?」

 真っ先に切り出したチャイは、彼の従者としての位に興味があるらしい。

「後に控えてるんだから、割と偉いって事もあるんじゃね?」

 そんなチャイの意見に意を唱えたのは、クライフだった。

「偉いのと強いのは別でしょ」

「強い奴が偉くなる仕事だろ、従者は」

 短いやり取りで言い負かされ、チャイが不服そうに口を閉ざす。

「見た目はそれほど強そうではなかったな」

「そう? 弱そうだとも思わなかったけど」

「まぁ、見た目でわかるもんでもないか」

 オルゴとノヴァは、リーディアさんの外見についての会話を交わす。

「とりあえず、学生の世話なんて任せられるのは、六人まとめて守り切れるくらい強い人か、それとも嫌々押し付けられた立場の一番弱い人かだろうな」

「「つまり?」」

 俺の意見に、クライフとチャイの問いが被る。

「つまり、俺達が丁重に扱われたらあの人は強い、雑なら弱い」

「あー……」

 結論を述べると、クライフが間の延びた声を漏らした。

「担当はくじ引きで決めた、っていう説はどうかな」

「遅かったな、ヒース」

 新たな説を述べながら現れたのは、おそらく今まで部屋にいたヒースだった。

「君達こそ、随分と早かったね」

「荷物を置いて出てきただけだからな」

「ん? 部屋の模様替えはしなかったのかい?」

「模様替えって……だからやけにでかい鞄持ってたのかよ」

 ヒースの登場とその言葉によって、予定の時間までの暇潰しの話題は他愛も無いものに逸れていった。


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