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機械仕掛けと護衛の王  作者: 杉下 徹
四章  飛翔
43/67

4-2

「何にしても、女子が二人になったのは良かったよな」

「お前としてはそうだろうな」

 程良く空いた電車の中、隣に座るクライフと普段とさして変わらない会話を交わす。

 実習先であるカウス従器工場への移動手段は、主に電車で後は徒歩だ。近いとは言っても徒歩で向かう距離ではなく、かと言って送迎の車両を出すには人数も少ない。妥当と言えばそうだが、個人的にはイベント気分が薄くあまり嬉しくない。

「お前としては、って、シモンは違うのかよ」

「いや、まぁ……」

 視界の端にノヴァとチャイを捉え、微妙に言葉を濁す。何も身を寄せ合っていなくてはならないわけではないが、わざわざバラけるのも馬鹿らしいため、自然と皆が視界に収まる、つまり互いに会話も耳に入る距離に固まっていた。

「僕も、競争が激しいのはいい事だと思うよ」

「俺はそんな事は言ってねぇけどな」

 なぜか空席に座らず立ったままのヒースが割り込んでくるも、クライフはすげなく返す。

「意外だな、ヒースは女子の参加を嫌がるかと思ってた」

「マシューがチャイに負けたのは事実なんだろう。それなら、僕がどうこう言う事じゃない。それに、実際に何かあったら、僕と君が守ればいいだけの事だ」

「勝手に俺を含めないでくれ」

 最近になってわかったが、どうも、ヒースの男女観は俺の思っていたものとは少し違うらしい。従者には男がなるべき、というヒースの主張は、どちらかと言えば能力的な男尊女卑の観点よりも、女は男が守るべきという騎士道的な考えが強いのだろう。

「俺も、女子が増えたのは嬉しいな」

 更に口を挟んでくるのは、男子の最後の一人、オルゴだ。

「薄情だな。兄が落ちたのを悲しんでやれよ」

「いや、別に俺、あいつとそんなに仲良くないし」

 非常に良く似た双子であるマシュー、オルゴのガルベス兄弟に関する微妙な新事実を知ってしまい、何と返すべきか反応に困る。

「女子、女子って、女子なら誰でもいいみたいな言い方ね」

 そんな中、男子の男子的な会話にケチを付けてきたのは、ノヴァだった。

「いや、まず女子と認めるラインってのがあってだな……」

「その発言は割と最低だと思うわ」

 応対したクライフは、しかし一言目から踏み外していく。

「これは言うか言わないかってだけで、みんな思ってんだよ! な!?」

 同意を求める目配せには、当然のように誰も応じず、クライフは素直に頭を垂れた。

「そう言うノヴァの方は、どうなんだ?」

「……チャイがいるのは嬉しい」

 冗談混じりに返してみるも、ノヴァの返事は堅く、視線すらこちらに向けない。

 俺の部屋で二人で話したのを最後に、ノヴァの俺への態度は著しく硬化していた。流石に無視こそしないものの、返事はいつも短く、用が無ければ話しかけてくる事はない。

 余計な事を言って嫌われたのなら仕方無い事であり、返事をしてくれるだけマシなのだろうが、やはり俺としてはそれを良い変化とは思えない。

「それで、結局シモンは私がいて嬉しいの? それとも嫌なの?」

 ノヴァに替わるように、口を開いたのはもう一人の女子ことチャイで。

「嫌ではない、とだけ」

「ふん、何それ」

 曖昧だが本音をそのまま口にすると、微妙そうな顔で鼻を鳴らした。

「それで、後どのくらいで向こうに着くの?」

「さぁ、十分くらいじゃないか?」

「適当ね、リーダーなんだからちゃんとしなさいよ」

「駅名でわかるから、それだけでいいだろ」

 話に一段落付いた後も、チャイは俺にどうでもいい事を話し続けている。

 チャイ・ラッセルの名が実習のメンバーに加わり、代わりにマシュー・ガルベスの名がそこから外れた。俺がその事を知ったのは、今からまだ三日前の事だった。

 その経緯については、トキトー先生からの軽い概要、そしてチャイ本人からの説明が俺の知る全てだ。それらによれば、マシューとの実習参加の権利を賭けた戦いに勝利したチャイが、その約束通り実習のメンバーに加わったという事で。

 なぜマシューがそんな条件を呑んだのか、そしてなぜ学園側もすんなりとチャイの要求を通したのか等、若干釈然としないところはあるものの、実際にこうしてチャイが実習に参加する事となった以上、あえて考えるほどの事ではないのだろう。

「でも、シモンってリーダーって柄ではないわよね」

「そう思うなら、今からでも変わってくれ」

「ああ、それはダメ。私はもっと柄じゃないし」

 チャイの実習への参加が俺に与えた影響として、傍からもわかりやすいのは、実習メンバーの中でリーダーという役職になってしまった事だ。

 以前に一度決めたリーダーは、しかしそれを請け負っていたマシューが実習のメンバーから外れた事で、白紙の状態に戻った。結果、カウス従器工場への最終書類の提出をすぐ近くに控えていたトキトー先生は、学年順位の一番高い俺をリーダーとして書類を提出してしまったらしく、事後承諾的な形で俺がリーダーの位置に収まってしまった。

 特に何か決まった仕事があるわけではないのだが、こういうのはやらなくていいならやらない方がいいと決まっているもので。その点に関して言えば、メンバーの変更は俺にとってマイナスだった。

「それで、シモンは――」

「なぁ、チャイとシモンって、前からそんな仲良かったっけか?」

 なおも俺との雑談を続けようとしたチャイを見て、クライフが首を傾げながら会話に参加してくる。

「別に、こんなもんでしょ。話くらい前からしてたわよ」

「そうか? 俺としては……」

 クライフの言いかけた言葉が、途中で止まる。わずかに動いたその視線の先には、ノヴァの姿があった。

「まぁ、仲良くおしゃべりするのはいい事だ」

「別に仲良くしたつもりはないけどね」

 口ではそう言いながらも、チャイは俺との会話を止めようとはしない。

 実際、あの日、ノーラと俺の関係について話して以来、チャイは前よりも俺に話しかけてくる事が多くなっていた。秘密を共有し、近しく感じられるようになったのかもしれないが、正直なところ俺としては、距離感の取り方に少し戸惑いもある。

「あっ、この次の駅だな」

 オルゴの呟きに、電子掲示を見ると、その言葉の通りカウス従器工場の最寄り駅は次に迫っていた。

 メンバーや役職に問題があろうと、実習はすぐ目前にまで来ていた。

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