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機械仕掛けと護衛の王  作者: 杉下 徹
三章  異質
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3-16

「ありゃ、切れた」

 数十分の間、休まず従器を振るっていたチャイの動きが、文字通り電池の切れた玩具のように少しずつ遅くなっていく。

「悪いけど、バッテリーが切れたみたい」

「それなら仕方ないな」

 溜息と共に従器を待機状態に戻したチャイは、ゆっくりと近接の間合いから外れる。

 内部機関の作動していない従器は、無駄に重いだけの金属の塊でしかなく、前世代の武器である刀剣にも劣る。ましてや十全に機能する従器の前では、ほとんど無力に等しい。

「随分と前からやってたのか?」

「そうでも無いんだけどね。下手な猿真似で消費しすぎたみたい」

 従器の動力源は、充電式の内部電池であり、その消費は従器の使い方によって大きく違ってくる。性能検証では、基本五機能の全てを最大まで作動させた場合、12分25秒で最大充電量のバッテリーを使い切るらしいが、そんな事は実用のレベルではまず起こらず、平均的な従器の動作時間は約二時間とされている。チャイの言い方からすると、ここで過ごした時間はおそらくそれより短いのだろう。

「まぁ、少し早いけどこのくらいにしておくわ。これから充電を待つのもあれだし」

 訓練の終了を告げたチャイは、しかしその場から去る様子を見せず、待機状態となった従器を床に置いた。

「帰らないのか?」

「少し話でもしてこうかと思って。邪魔だって言うなら、消えるけど」

「……まぁ、消えろとは言わない」

 人に見られながら訓練をするのは得意ではないが、いつもそう言ってられる状況ばかりでもない。それに、チャイの言う話というのに少し興味があった。

「ちょっと思ったんだけど」

 意識の端でチャイの声を捉えながら、頭の中には別のイメージを形作っていく。

 一人で行う訓練というのは、基本的に基礎体力の増強かイメージトレーニングの二つに分けられる。俺が主に行うのは後者であり、頭に浮かべた敵手が目の前にいる状況を想定して、それと相対する自分の動きを実際に再現する。

「シモンって、本当にノーラさん好きなの?」

 ふと、世間話のような軽いトーンで投げ掛けられた問い。

「ああ、好きだよ」

 返した答えは、きっと嘘ではないはずだ。

「見た目が好きで、だから従者としては興味がない。どう、合ってる?」

「ああ、そうだな」

 今度は、明確に嘘。

 従者として興味が無いのであれば、こうして毎夜のように行う訓練で、仮想敵の外見が自然とノーラを象る事などあり得ない。

「……いや、もういいか」

 ふと、そんな嘘を吐く事が馬鹿らしくなった。鮮明になっていく頭の中のノーラを掻き消し、従器を構えていた腕の力を抜いて、重力に従うまま下に垂らす。

「俺は、ノーラ・アトリシアを個人的に知ってるんだよ」

 その事実を実際に口にしたのは、俺の覚えている限りでは初めての事だった。

「やっぱり、そうなんだ」

 だが、チャイは驚くどころか、予想通りとでもいうように頷いた。

「驚かないんだな」

「まぁ、ね。何となくそうじゃないかと思ってたし」

 どこか皮肉気に笑い、そのまま後を続ける。

「シモンって、ノーラさんの名前を呼ぶ時だけ声が違うから。まぁ、それも気のせいかってくらいのものなんだけど、間違ってなかったみたいね」

「そう、なのか?」

 他人とノーラの話をするのは極力避けてはいたものの、実際にその時が来た時は、自分では普段通りに振る舞っていたつもりだった。それでも動揺が声に出ていたと指摘されたのなら、強がりを見破られたようでただ気恥ずかしい。

「ちなみに、どう違うんだ?」

 聞かない方がいいのかもしれない事を、だが今は踏み込んで聞いてしまう。

「どう、ってほどわかりやすいもんでもないんだけど……強いて言うなら、優しい感じ?」

 難しそうな顔で首を捻り、やがてチャイはどうにか言葉を絞り出した。

「そうか……そうなのか」

 あくまでチャイの感じた印象、それが正しかったとしても何か意味があるわけでもないのだろう。それでも、俺にはチャイの言葉を少しだけ嬉しく感じられた。

「ねぇ、あんたとノーラさんって、どういう関係なの?」

「そうだな……」

 だからだろうか、普段なら答えたがらないであろう問いに、俺の口は自然と答えを紡ぎ始めていた。

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