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機械仕掛けと護衛の王  作者: 杉下 徹
三章  異質
34/67

3-10

 朝はとかく忙しい。出席の時間に朝食、汗を流すためのシャワーにかかる時間を逆算すると、ヒースとの対戦を終えた俺にほとんど時間は残されていなかった。

「…………」

 どうにか出席に間に合い、しばし授業を待つ教室の中、早起きをして普段よりも目の冴えた俺は、普段なら気付かなかったかもしれない二つの違和を意識に捉えていた。

「…………」

 一つは、妙に気力の無いチャイの様子。普段のチャイが朝の授業前の時間にどのように過ごしているか完全に把握しているわけではないものの、椅子の上で幽鬼のように揺れている今のチャイは流石に一目で異常とわかる。

「…………」

 そして、もう一つは、無言で、それでいて明らかに俺へと非難の視線を飛ばし続けているノヴァの存在だ。

 二つの違和のそのどちらもが、俺を直接の要因としている事は想像に難くない。特に今もこちらに迂遠な主張を続けるノヴァは、無視してどうなるものでもないだろう。

「……行くのか」

 席を立とうとした俺に、パトリックが声を潜めて短く問う。

「別に授業をさぼるわけじゃないぞ」

「わかってる、みなまで言うな。ノヴァだろ」

 やけに鋭い分析に、少し感心する。直接の対象である俺はともかく、そうでないパトリックがノヴァの不穏な視線に気付いているとは思わなかった。

「あれだけ見てたら気付くって。愛されてるな、この野郎」

 ただ、観察眼に反して、その分析は完全に的が外れていた。そう言えば、昨日の夕食の時の誤解を解いていないままだ。

「愛してる相手をあんな殺意の籠った目で見る奴がいるか」

「さぁ? そういう愛もあるんじゃないか?」

 至極適当なパトリックは諦めて、今度こそノヴァの元に向かう。

「…………」

 一歩ずつ距離を詰め、すぐ目の前に立ってもノヴァは俺の顔を凝視したままで。落ち着かない気分のまま、切り出す言葉がどうにも見つからない。

「……何を見てるんだ?」

 結果、口をついたのは間の抜けた言葉で。

「…………」

 ノヴァの視線は微塵も揺るがず、しかし返事はなかった。

 これは相当に怒っている。何に対してかと言えば、昨日のチャイの件に加えて、会話の最中で俺が突然立ち去ってしまった事だろう。俺には俺の感情面での都合があったとは言え、そんな事はノヴァの知った事ではない。

「あー……」

 謝るのが正解なのだろうが、何についてまず謝るべきなのかが難しい。声がチャイにも聞こえかねないこの教室で下手な事を言うのもまずい。

「悪かった」

 思考が一周したところで、もうとりあえず謝ってみようという結論に達する。

「……何が?」

 やっと口を開いたノヴァに、しかし返す答えが思い浮かばない。

「……………………」

 酷く重苦しい沈黙が俺達二人の間に流れる。授業前の教室の喧騒も、心なしか遠い。この状況で俺から視線をわずかにも逸らさないノヴァの精神力は化物じみている。

「……放課後、空けといて」

 やがて小さく口を開いたノヴァは、そんなどこかで聞いたような言葉を呟いて。

 直後、計ったようなタイミングで教室に入ってきた教師の姿に、対話は半ば強制的に打ち切られた。


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