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機械仕掛けと護衛の王  作者: 杉下 徹
三章  異質
32/67

3-8

 敗者は、勝者との力量差を正確に計る事はできない。

 なぜなら、そこで負けたから。自分に勝利した相手が、その段階で全体のどの程度の力を用いていたのか、その先にどれほどの力を残していたのか、敗者はそれを把握する事なく敗北するしかない。

 理屈では、わかっていたはずだった。

「……ノーラ、か」

 携帯端末の通知を知らせる淡い光に、確認もせず呟く。

 今現在、俺に携帯端末を通して連絡を取ってくる者は少ない。特別友人が少ない方でもなかったはずだが、実家から遠いこの学園で寮生活を営む俺に旧友から遊びの誘いなどそうそう来るはずもなく、そうなると案外関係というものは簡単に絶たれてしまうものだ。

 両親から時折届く様子伺いを除けば、定期的にこうして連絡とも呼べない駄文を送ってくるのは、ノーラただ一人と言っても過言ではない。

「…………」

 しばし携帯端末を眺め、通知を確認せずにそこから視線を逸らす。今はノーラに関わる何かに触れる気分ではない。

 ノーラに何か問題があるわけではない。幼馴染であり友人である贔屓目を除いても、俺の知る彼女の性格は広く好かれる類、陽気で実直なものだ。それでも幼い日には喧嘩をした事もあったが、今の文面だけのやり取りの関係になってからはそれもない。

 問題があるとすれば、それは全て俺の側だ。おそらくは昔と変わらず俺に友人としての感情しか抱いていないであろうノーラとは違い、俺からノーラに対する感情は、時を経る毎に複雑なものになっていた。

 ノーラ・アトリシアは国家特別王石保持者、つまり従者の頂点、この国で最も強い十三人の一人だ。その事実を思い出す度、俺は現時点の彼女との差に気が滅入る。

 嫉妬、と言い換えてもそこまで外れてはいないだろう。

 今のこの感情も、そういったこれまで味わってきたものの一つ。少しだけ違うのは、感情の矛先が現時点ではなく、過去の自分とノーラに対するものだという事くらいか。

「……くそっ」

 最初の二度を除けば、かつての俺がノーラと従器を交える時、常に俺は全力でノーラに『挑んで』いた。

 だが、ノーラはどうだったのか。

 最初の一度を除いて俺に勝利し続けていたノーラは、全力をもって俺を跳ね除けていたのだろうか。

 俺の全力がノーラの全力に敵わなかったなら、まだいい。良くは無いが、受け入れるしかなかった。だが、あの頃のノーラは全力の欠片も出していなかったとしたらどうか。

「弄んだ……か」

 ノヴァに言われた言葉が頭に浮かぶ。

 俺は、自分の実力を確かめる為にチャイと戦ったつもりだった。しかし、傍からはそう見えていたという事だろう。そして、実際に俺は全力で戦ってはいなかった。それで十分なだけの力の差があった。

 本当は、その事実については喜ぶべきなのかもしれない。学年で上位の実力を持つチャイをも寄せ付けない俺の技量は、きっとこれまで自覚していたよりは上だ。

 ただ、同時に、その力関係が俺とノーラのそれと被っているように思えて。気分が暗くなる事こそあれど、その逆は兆候すら見えなかった。


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